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なぜソムリエは味を表現するのか?:消費者目線の納得感と最適解

言葉にして伝える技術

先日のニコラスフェイス氏の訃報から派生して考えることがありました。

ワインやビールなどの醸造酒やカクテルの雑誌にくらべて、ブランデーはじめウイスキー(ですら)、ジンなどの蒸留酒の雑誌は圧倒的に少ない。

当然市場規模や流通量、需要の問題ですが、雑誌に寄稿するライターさんや専門家達の数も蒸留酒カテゴリとなると比較にならないくらい少ない。

雑誌や本に記事を掲載するとなると、やはりそれなりの評価を得たライターさんが起用される。例えばサッカーに関して全くといっていい程無知な私が突然「ワールドサッカーダイジェスト」にインタビュー記事を載せるなんてことはまず無いでしょう。

どんな雑誌や本においても必ず専門家、評論家といったそのジャンルのスペシャリストが登場します。

ワインであればソムリエやワイナリーのオーナー、日本酒であれば杜氏、コーヒーであればバリスタなどです。彼らスペシャリストの話は大変興味深いし、とても分かりやすいです。定期的に寄稿されている特定の雑誌や特定のライターさんの記事をいくつか読んでいると、そのライターさんの特性や書き方も学ぶことができます。(編集者の力量にも大きく左右されるが)

中にはそのジャンルの専門家でもありながら、叙情詩やバロック文学を読んでいるのかと錯覚させるような言葉巧みなライターさんもいます。(これはスッと分かりやすく頭に入ってくるタイプと、何が言いたいのかよく分からないタイプに二極化する。後述。)

専門家の意義:事実と解釈

どんなジャンルにおいても「専門家の意見」というのは非常に貴重です。しかしながら、その意見が「正しい」かどうかはまた別の話です。専門家に限らず、他者の意見に耳を傾ける時、大事なことは「事実」と「解釈」を区別して理解することです。

例えば株や不動産投資の場合もそう。

「この会社の新商品はこういうスペックがあり、昨年の財務諸表はこうで、時価総額も過去5年○○%ずつ上昇して(以下略)・・・・、だから今年の株価は○○%くらい上がるだろう」といった意見も前半の部分は事実であるが、後半は事実から判断した解釈です。

言葉にして伝える技術

「今年はこの銘柄が来る!」「この会社はヤバい」といった話はいつでも雑誌やネット、セミナーを賑わせていますが、それが必ずしもその通りになる事はありません。しかし大抵の場合、人々が最も知りたいのは最後の解釈の部分なので、短絡的な人は解釈に踊らされてそこに紐づく事実を見落とすことになり、絶好のカモとなる事はよくある話です。

その事実から導き出される解釈が本当に適正なものかどうかは勉強と経験を重ねないと判断できない部分があります。

数値化できるかできないか

事実の中でも数値化できるものとできないものでは後の判断基準が大きく異なる事もあります。例えば会社の財務諸表や金属の耐久テストやプログラミングの世界では多くの実験や検証、データにより数値化された事実が存在し、それに基づく結果(解釈)をより理論的、科学的に導きだすことができます。

それに対して悩ましいものの一つにお酒のテイスティングがあります。

ワインはじめブランデーやウイスキーにおいて、人々が最も興味あるものの一つは、そのボトルのテイスティングコメントでしょう。

テイスティングコメントは共通認識できるデータ化された事実に基づいた評価を導き出すことができるか?

答えはイエスでもありノーでもあります。

お酒は化学変化である

お酒や料理に限らず、人の手が加わった飲食物は化学反応の連鎖です。 ここはブランデーのサイトなのでブランデーを例に取ると、ブドウの収穫から蒸留、熟成に至るまで、そのプロセスは明確であり、糖度計でブドウの糖度を測り、酸度を知り、コンピューターで管理された蒸留機でニュースピリッツを作る。そして様々な温度や湿度、樽の成分によって変化する熟成を長期間見守るプロセスは全てブドウという果物(もっと言えば、そのブドウの木、そして土壌)からできる化学変化の賜物です。

技術が進歩した今、その結果得られた液体を遠心分離機にかけたり、味覚センサーを使ったり、官能試験を行ったり、人が感じる様々な成分に細かく分析し数値化することができます。

言葉にして伝える技術

その結果導き出された成分表や化学式は紛れもない事実となり得ます。しかし、問題はこの事実をどのように理解すればいいかにあります。

例えば今分かっているもので、コニャックにはエステル系77種類、アルデヒト系34種類、酸27種類、ケトン27種類、アセタール24種類などなど約334種類の化学成分が含まれています。また、ある種の香りを構成する成分としてテルペン化合物、β‐イオノンやβ-ダマセン、酢酸イソアミル、イオノイド系などがあります。

これら1つ1つの要素を精確に判別し、それらを総合した評価することができなければ「100%事実で理論的な結論」を導き出すことはできません。

しかし、実際には同じ銘柄であってもビンテージや収穫年数、それを飲むときの環境など、いくつもの要素が複合的に絡み合うし、全ての専門家が全ての構成成分を理解し説明ができるか問われると、それは現実的には不可能に近い話でしょう。

そして、その構成成分やその割合、数値化されたデータをテイスティングコメントに起用するのか?それはまずあり得ないです。聞き手に全く意味が伝わらないからです。

なぜソムリエは味を表現するのか?

専門家と言われる人たちが全ての構成物質を理解しているわけではないですが、そこで登場するのがテイスティングの時の表現です。

例えば先ほど出した香りの構成成分の中で、テルペン化合物はブドウ由来の成分です。コニャックには約46種類程含まれていると言われています。β‐イオノンはいわゆるスミレ系の香気成分。β-ダマセンはバラ系。酢酸イソアミルは吟醸香(バナナっぽい香り)、イオノイド系はアルコール発酵時にできる成分で後々お酒を華やかにさせる成分です。

テイスティングコメントの役割は何だろう?

私の中でテイスティングコメントとは次のような役割だと考えます。

「人々が漠然と感じるものを共通認識できる言葉に変換したもの」

です。

自分が飲んだり食べたりしたものを自分の中で完結しておくだけならこんな事は必要ありません。例えば私がレストランでちょっと良いワインを飲ませて頂いた時に素直に抱いた感想は

「めっちゃウマい」

である。

しかし、そのソムリエはじめ、アウトプットが上手な人はそのワインを例えば次のように表現するかもしれません。

口に含んだ瞬間は青りんごような風味があり、その後熟したバナナのような甘味、鼻に抜ける際にはわずかにオレンジの皮ような柑橘系の香りが感じられます。

するとどうでしょう。私が飲んでいたそのワインは一気に青りんごとバナナに変化し、眼前にはオレンジピールが見えるようになった(気がする)。

重要なのは味わいのイメージを共通認識できるかどうかです。その味わいを言葉で表現した際の「最適解」です。実際に目の当たりにした表現ですが、例えばこれを「油絵の溶き油」「猫のオシッコ」「なめした鹿皮のような」と表現をされたところで、私はそれらを実際に嗅いだ事も舐めた事も無いので、全くイメージができませんし、吟遊詩人のような表現をされても意味がわかりません。

つまるところ、テイスティングコメントの意義は「納得感」と「最適解」であり、何も知らない人が抱く漠然とした「めっちゃウマい」「めっちゃマズい」に対して「そう!それが言いたかった!」「そういうことか!」と納得を与えられるかどうかです。

ソムリエが味を記憶する意味

ソムリエが味を記憶する意味については、非常に感銘をうける本がありました。日本ソムリエ協会会長の田崎真也氏の著書『言葉にして伝える技術-ソムリエの表現力-』です。

言葉にして伝える技術

超短くまとめると・・・

ソムリエという仕事は、お客様の前で吟遊詩人のごとく、ワインを文学的に表現する仕事ではない。目の前のワインの価値を判断する時に他のワインを開けて飲み比べなくても世界中に存在するたくさんのワインの中でいったいどんな位置付けにあるかを判断する。

世界中のワインの味や香りなどあらゆることを自分の頭の中に蓄積していくためには、自分で感じた感覚を言語化して、自分の頭に記憶していくのである。

そして、それをどんなお客様、どんな国のソムリエの間であろうとも、理解しあえる共通認識の情報で言語化し、他の人がそれを実際に飲まなくても文字だけでどのような味わいであるかを想像できる、そのような言語化が、ソムリエの仕事である。

といったところです。

ソムリエはじめ専門家のテイスティングコメントというのは事実と解釈の境界線の曖昧なところにあります。

自分がインプットした膨大なワインやそれにまつわる情報(事実)から、それを具体的に分かりやすい表現に変える(解釈)へと変換するプロセスがあります。

その香りや味わいの表現に変化するプロセスにはある一定の割り振り基準があるのですが、最終的にどういった表現に落ち着き、人に納得感を与えられるかどうかはその専門家個人に依存します。

さらに、結果的にアウトプットされる内容が「正しい」かどうかはまた別の話です。正しさを隅において、納得感だけを求めると、極端な話、間違っている事に基づいた納得感でも専門家は成り立つことになってしまいます。しかしながら、そもそれでも結論としてはやはりその「納得感」が(テイスティングにおいては)専門家の最終的な存在意義だと思います。

味わいの表現については専門用語と化学式を羅列した事実を並べても聞き手に理解されないのであれば、事実を変換した言葉をアウトプットし、納得感を与える事が活路になります。

WEBレビューの光と闇:消費者目線の説得力

雑誌や本においては専門性を求められるもの多く、書いている人もやはりそれなりの人が多いです。何せ雑誌や本を出版するには莫大なお金がかかるので、クオリティを出さないと売れません。そのために何人もの編集者や監修、第三者の目が存在します。

しかし、WEB上で起こっている事に目を向ければ全く話は異なります。WEBでのレビューを書いている人というのは私含め非専門家率90%といってもよいでしょう。

今や誰でもブログや自身のWEBサイト、SNSなどを駆使し、全くの個人が情報を発信し、多くの人に情報が伝達される時代です。

むしろWEB上で求められているのは専門家や会社といった枠に捕らわれない個人といってもよいでしょう。みなさんがAmazonや楽天で買物をするとき、きっと購入判断の基準として重要視しているのはメーカーや販売元による説明やスペックではなく、実際の購入者によるレビューや評価ではないでしょうか。

いくら匿名であっても、基本的に書いているのは「個人」です。その判断の基準としているのはほとんど「解釈」であって「事実」ではありませんが、それでも人々の価値判断基準の要素になっている事はまぁ間違いありません。

それだけ個人の発言力・影響力というのは良くも悪くもインターネットが普及する前の「本の時代」とは比べ物になりません。

言葉にして伝える技術

バックグラウンドを理解する

WEBでの発言を理解する場合、最も重要視したいのは「これは誰が言っているのか?」です。発言者の背景を知ることが、「より最適な納得感」を得る事が出きると考えます。

お酒に限ったことではありませんが、ブランデーはじめ、ウイスキーやワイン、お酒関連のレビューなんて無法地帯もいいとこで、「絶対これ飲んだことないのに書いてるだろ」「コピペじゃないか・・・」といった記事はごまんと存在します。いわゆるエアレビューである。

このBrandy Daddyを立ち上げた2015年当初は、本当にブランデーやコニャックに関するサイトなんて数える程しか存在しませんでした。それがここ数年、一気に数が増えたのは驚くべき事でした。具体的なサイトは挙げませんが(本当は挙げたい)、ことブランデーに関して言えば、どこかで見たことある内容だなと思ったら自分が書いたやつをパクられてたというのはよくある事です。それだけブランデーの認知度が少しずつ広まってきた?と思うと嬉しい反面悩ましいことでもあります。

今現在、無法地帯化したWEBレビューの世界(?)で、先述した「納得感」を得て、100%正しいとは限らないが判断基準となる「最適解」を求めるにはその書き手がどのような経験を積んで、どのような判断基準を持っているかを可能な限り理解することにあると思います。

いち消費者としての立場

私がこれからも大事にしたいと思っているのは、「いち消費者としての声を届けたい」という消費者としての立場です。このサイトを運営していて最も嬉しいことは、「Brandy Daddyを見てお店に来ました」「Brandy Daddyを見てこのボトル買ってみました」「Brandy Daddyがどう思っているのかを知りたい」という声をリアルに聞いた時です。

販売店や仕入先などは立場上主観的なコメントを載せるのは難しいでしょうし、広告や商品などでスポンサー契約を結んでいるところは広告主の機嫌を損ねるわけにはいかないので独自の意見や批判的意見を述べる事はできません。

幸いなことに、当サイトは私の個人運営であり、特定のメーカーや会社から金銭的なスポンサリングを受けるようなこともなければ、(今のところ)業界的なしがらみもありません。特定のものを優遇して書いてる事もありません。

色々サイトの内容が増え、見てくれる人も増えるにあたって辛辣な感想を頂くこともありますし、専門家からすると何言ってんだコイツと思われる内容もあるかと思います。その点は本当に真摯に受け止めて改善に努めたいと思います。

このサイトを開設した2015年、最初は月に40人程しか訪問者がいなかった時も、多くの人が訪れてい頂けるようになった今も、意識していることは同じこと。誰が見て、何を求めているのか。訪問者数(またはPV数)の増加は確かに励みになりますが、それはただの数字でしかありません。重要なのは今この瞬間、スマホやPC画面の向こうで見て頂いている「あなた」であって、数字ではありません。それは今後当サイトが月間200万PVに成長しようとも変わりません。

私はバーテンダーでもなく、ブランデーの生産者でもありません。しかし、そんな私個人のサイトでも読んで頂いている一人ひとりの読者の方に消費者目線の納得感であったり、ブランデーを飲んでみるきっかけ、バーに足を運んでみるキッカケを作る事ができるのであれば、Brandy Daddyを続ける意味があると考えています。

・・・ということで、コニャックを飲みながら酔った勢いで色々書いているとあっという間に文字数も6,000字近くになってしまいました。何やら話の風呂敷を広げすぎてしまいましたが、Brandy Daddyはこれからも消費者目線での納得感と最適解を求めてこれからも頑張っていきたい、ということです。(そろそろ古い記事や稚拙な記事は書き直してサイトリニューアルしたい)

長い話にお付き合い頂きありがとうございました。

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