ブランデーは一般的に発酵→蒸留→熟成→ブレンドという手順で完成します。
ここでは、ブランデーのランクであるVSOPやXOといった熟成年数に深い関係をもつブランデーの「樽熟成」について少し細かく見ていきましょう。
こちらページの入門編で触れたコニャックやアルマニャックにおけるVSOPやXOなどのブランデーのランクの違いですが、これは「最低熟成年数」を基準に表しています。
多くのブランデーは、単一の樽から出来上がるのではなく、その商品コンセプトに合わせて、様々な熟成年数の樽からブランデーを調合(ブレンド)された作られます。その調合されたブランデーで最も短い熟成年数によりVSOPなのかナポレオンなのかXOなのか等のランクが決まるのです。
そもそも熟成とは・・・?
熟成とは簡単に言うと、蒸留されたブランデーの原酒を樽の中に入れて長期間保管することです。
熟成によりブランデーに起こる変化は主に「琥珀色への変化」「アルコール度数の変化」「香りの変化」です。熟成年数は最低3年~100年以上と、そのブランデーによって様々です。
蒸留したてのブランデーは無色透明で、アルコール度数も70度近くあります。樽のでの長期熟成を経ることにより、市場に出回っている琥珀色でアルコール40度程のまろやかなブランデーとなるのです。
ブランデーのもととなる原酒は蒸留後にオークの木でできた樽に入れます。樽の材質、貯蔵場所、温度、湿度といった要素が複雑に作用し、樽から木材成分が溶け出たり、空気と接触することによって樽の中身のブランデーの成分が変化していくのです。
コニャックでの添加物について
なお、ブランデーの代表格であるコニャックにおいては4つの添加物が認められています。
- 蒸留水
- オークチップ
- 糖
- カラメル
です。
このうち、蒸留水は熟成の段階でアルコール度数を調整する希釈のために使用されます。若いコニャックはアルコールが高すぎるからです。
またオークチップスはタンニンを含んだ味わいにするための調整。
糖はアルコールの刺激を和らげるために使用されます(全体の2%まで添加可能)。
カラメルは色味調整のために使用されます。
これらの添加物はメーカーによって使うか使わないか委ねられています。傾向として規模の大きな大手メーカーは色々添加されていますが、自家生産のコニャックメーカーであるプロプリエテールは無添加の所が多いようなイメージがあります。(プロプリエテールについてはコチラを参照)
コニャック・アルマニャックに使用が認められている添加物についてはまた別記事にて詳細を書きたいと思います。
熟成の科学的な仕組み
熟成中の樽の中では様々な化学変化が発生し、結果としてまろやかなブランデーが完成します。しかし実はそのメカニズムは現在も科学的に100%解明されていません。これだけ多くのお酒が樽熟成されているにも関わらず、まだまだ熟成には神秘的な部分が残されているのです。
酸化反応や、水・エタノールの状態変化、エステル成分の生成などが深くかかわっているのですが、かなり化学的な話になってしまい、とても説明しきれないため、ここでは割愛します。
※アルコールと化学反応について調査している「きた産業」からブランデー・ウイスキーの樽熟成の過程について、とても化学的で専門的な考察論文が3つ出ています。
化学式や専門用語でいっぱいですが、めっちゃ詳しいので、そちらもご参照ください。
参考文献:きた産業 古賀 邦正氏
参考
ブランデーの色は何故琥珀色か?「琥珀色への変化」
先述した通り、蒸留したてのブランデーは無色透明です。しかし、市場に出ているブランデーは琥珀色をしています。これは何故でしょう。
この琥珀色は、ご察しの通り、樽の木材成分が分解され、溶出された結果なのです。
つまり簡単にいうと樽の木の色がそのままブランデーの琥珀色となるのです。
ですので、一般的には熟成年数が長ければ長い程、樽の木材成分がより多く溶けだし、より濃い琥珀色のブランデーとなるのです。
ただし、先述したようにコニャック・アルマニャックでは色調整のためカラメルが添加されることがしばしあります。このカラメルは色味調整のためのカラメルであり、味はほとんどありません。よりよく熟成させたように見せるため、カラメルを使って濃い色を出すことがあります。同じくらいの熟成年数でもブランドによって液体の濃さが異なります。例えばヘネシーXOはかなり濃い色をしており、同じ年数くらいのポールジローだと薄い黄色がかった色をしています。これはヘネシーはカラメルによる添加があり、ポールジローは無添加のためです。
カラメルが添加されているのが悪のかというと、そうではありません。コニャックはカラメル添加が認められているからです。
- ポールジロートラディッション(最低熟成7年)
- ポールジローヘリテージ(最低熟成50年)
天使の分け前?熟成中には毎年1~4%のブランデーが樽から消える・・??
これは「アルコール度数の変化」「香りの変化」に関係する変化です。
樽は完全密閉ではないため、数パーセントのブランデーが樽から揮散してしまいます。最初の年は2~4%。それ以降は毎年1~3%程樽からなくなっていきます。
この樽からなくなったブランデーは、樽から天使が持ち去ったという表現で「天使の分け前(エンジェルズ・シェア)」と呼ばれています。
ブランデーの原酒が空気を吸って、内部のエタノールや揮発成分を吐き出しているからです。エタノール以外にも、「ジメチルスルホキシド」「ジメチルスフィド」といった酸化化合物も熟成を経るごとに揮発します。これらの酸化化合物がなくなることでキツイ臭いがなくなり、香り高いブランデーとなるのです。
(酸化化合物や熟成中の揮散成分については先述の古賀邦正氏の論文を参照)
熟成によりエタノールが揮散しアルコール度数を弱め、また同時に酸化化合物も揮散し余分な臭いをなくして香り高くしているのです。
つまり、この毎年1~4%樽から消失してしまう「天使の分け前(エンジェルズ・シェア)」は、香り高く品質の高いブランデーを作るうえで必要不可欠なのです。
まとめ:樽熟成について
- 熟成とは蒸留されたブランデーの原酒を樽の中に入れて長期間保管すること。
- 熟成による主な変化は「琥珀色への変化」「アルコール度数の変化」「香りの変化」
- 「琥珀色への変化」
→熟成期間の中で樽の中の木材成分が分解、溶出された結果ブランデーが琥珀色となる。 - 「アルコール度数の変化」「香りの変化」
→熟成期間の中でエタノールの酸化化合物が揮散し、アルコール度数が下がり香りも豊かになる。 - 熟成中、毎年1~3%消失する樽の中身を「天使の分け前(エンジェルズ・シェア)」という。