滞在2日目その3
2019年12月4日(水)
マーテル訪問後、コニャック生産の総本部であるBNIC(フランスコニャック協会)へ。
なお、BNICは Bureau National Interprofessionnel du Cognac の略です。
BNICはコニャックにおけるAOCを規定してるだけでなく、コニャックと銘打つ新商品の認定を行ったり、ミレジム商品の管理をしたり、今後のコニャックの動向や市場の方向性を決めたり、コニャックメーカーと原酒(ワイン農家や蒸留家)とのバランスを保ったり、マーケット調査をしたり・・・・・
と、まぁ生産者側で制御できないコニャックに関するアレコレを決める機関であったり、コニャックの法律を決めている中枢機関です。
ちなみにBNICの場所はここです↓
マーテルのすぐ近く、コニャックの中心部にあります。
BNICの外観と中
外から見た建物の外観はこんな感じ。
ここに約102人のBNICスタッフが働いています。男性39人、女性63人だそうです。
建物の中は撮影できませんでしたが、1階は受付とレセプションエリア、2回はいくつものミーティングルームやオフィスなどに分かれていました。
2階では様々な国からの来客があり、みなさんすれ違いざまに挨拶をかわします。
私が案内されたのは2階の1つのミーティングルーム。
そこで出会ったのがコニャック全体のアンバサダーも務めるDavid Boileau氏。
業界では有名なBNICの方で、日本のコニャック界の有名人とも大変仲が良い方です。
コニャック界の全体像と世界事情を学ぶ
今回はDavid氏に前半コニャック業界全体の勉強会ということで、スライドを使いながら基礎的なことから細かいことまで色々な事を説明して頂きディスカッションの時間を設けて頂きました。
2019年現在、BNICの管理下には
①4,280のワイナリー
→蒸留用のブドウ育てて発酵したワインをコニャックメーカーに提供する農家。あくまでも売るのは発酵後のワインです。
②117の専門蒸留家
→自社ブランドは持たず蒸留のみ専門に行う生産者。
③271のコニャック生産者
→いわゆる最終的に我々が手にするコニャックを作るコニャックメーカー。コニャックブランド数ではなくあくまでも生産者(会社)単位。
が存在しています。主にワイナリーと専門蒸留家は大手コニャックメーカーを中心に複数のメーカーに自分達のワインやオードヴィーを卸して生計を立てています。
そして今回David氏とのディスカッションの中でも一番興味深かったのはコニャック大手メーカーの規模と輸出事情ですね。
オタールの台頭
大手コニャックメーカーのマーケットシェアの順位ですが、上位は相変わらずヘネシー、マーテル、レミーマルタン、クルボアジェの4強がコニャック全体シェア83%を占めています。
83%の内訳としては
ヘネシー 45%
マーテル 15%
レミーマルタン 13%
クルボアジェ 10%
といった所です。やはりヘネシー強すぎ・・・。
そして次に来るのはカミュ(CAMUS)・・・と思いきや、現在はオタール(Otard)に追い抜かれて、2019年現在、業界5位はオタール(コニャック全体シェアの2%)となっています。カミュは業界6位で、シェアは1%以下です。
これはオタールがアメリカを中心に展開し始めた新ブランド「D'Usse Cognac」の影響がとても強く、今オタール・・・というかD'Usseのアメリカでの伸びが凄まじいようです。世界的に有名なアーティストであるJay-Zが広告塔になっていたコニャックです。もうHip Hop層に絶大な人気を誇っています。これはもう見事に戦略勝ちの一言に尽きます。
同じくアメリカのヒップホッパーがプロデュースしたコニャックといえばリュダクリスの「コンジュール」が有名ですが、成功度合いとしてはこの D'Usse の方が圧倒的勝利を収めた形になります。今後アメリカで流行ったD'Usseが日本にどんな影響を与えるか今後の展開が楽しみですね。 (日本じゃ流行んないか・・・)
D'Usseとオタールについては、別の日にオタール城に行ってきたので、その記事で詳しく書きます。
しかしながら個人的な印象としてはアジア圏ではオタール、D'Usseよりもカミュの方がまだ有名です。カミュは上海やシンガポールを中心に多くのカクテルイベントやコンペを開催しており、評判は良いのですが、Cognac Parkのアジアマーケット担当のChiristoph氏の観点ではカミュのセールスチームによるイベント後のフォローアップが少なすぎて、うまく顧客がついていっていないとのこと。その点、ヘネシーやマーテルはやはりうまく立ち回っており、この辺は大資本の大手メーカーと、大きいとは言ってもファミリー経営のカミュとの経営力の差がはっきりと見えてくるとのこと。
個人的にカミュの体制や商品自体はとても好きなので、売上が落ちたからといって無茶な方向には走らずにこのまま自分達のキャラクターを崩さずに頑張ってほしい所です。
コニャックの輸出事情
コニャックは実に生産量の97.8%がフランス国外に輸出されています。
2018年と比較して2019年現時点のコニャック全体の売上前年比+2.5%の3.38 Billionユーロ(33.8億ユーロ)。1ユーロ121.6円換算で411,008,000,000円。約4000億円となっています。(合ってる・・・?)
ボトル本数としては前年比+6.9%だそうです。
2018年~2019年にかけてコニャックの国別マーケットシェア(売上高ではなく輸出ボトル本数)の比率は下記の通り。
※クリックで拡大
やはりアメリカが圧倒的。
内訳としてはVSカテゴリ(2年~4年熟成くらい)のコニャックが多く、用途としてはカクテル用が半分以上を占めています。
シンガポールのコニャック輸出量が中国を抜いて2位という表示なっていますが、この数字は注意が必要です。BNICは輸出して商品が到着する国にして「この国にこの本数のコニャックを出荷しました」という証明書を発行します。このグラフはその証明書の数字に基づいています。
シンガポールはアジア各国の輸出入のハブとなっており、コニャックはじめ多くのお酒が一旦シンガポールを経由します(いわゆる並行輸入品というやつです) 。そのため一旦シンガポールで本数が計上されているのです。
実際のシンガポールでのコニャック消費量はほとんど無いとのこと。
シンガポールを経由したコニャックは世界各国に飛んでいきます。(最近はロシア経由も多く、同じ理由でロシアが12位となっているそうです)
ということで、実態としての輸出量はやはり中国が2位となります。
コニャックの消費量はアメリカと中国の2強です。
日本は・・・見当たりませんね。。。
David氏が
Cognac is the French product made by foreigners for foreigners.
と皮肉を込めて言っていたのが印象的でした(笑)
※ワインを初めて蒸留したのはオランダ人とされており、コニャックを海外に多く売ったのはイギリス人のおかげという歴史があるため・・・
ベトナムが穴?
輸出入の話題としてもう一つ面白かったのはベトナムの存在です。
現在はアジアの輸出入の中継地点としてシンガポールがメインとなっていますが、より税金や輸送コストを低くしようとして最近はベトナム経由も多くみられるそう。(ベトナムはヨーロッパの輸入品に対して税金がめちゃめちゃ安い)
特にベトナムとの距離が近く車で行ける距離にある中国。
しかしベトナム経由は1つ問題があり、ベトナム政府が輸出入品の管理をあまり厳密に行っていないということ。そのため密輸リスクが多く中国ではベトナム経由の商品に品質やトレイサビリティーの問題が顕著になっているそうです。
その他、アフリカマーケットのこれからや、マレーシア市場とシンガポールの関係、インドでのコニャック事情など、普段あまり耳にすることのないワールドワイドなコニャック事情を知ることができました。
とても勉強になりました。
メールが来ない問題
ここBNICに来た目的はもう一つありました。
それは、直接文句を言う事。
文句というとちょっとアレですが、笑いながらの確認とお願いです。
何の確認かというと・・・・
全然メールが返ってこない!!!
実は以前からBNICに直接色々な質問をメールで送ってたのですが、これまで一度も返事が返ってきたことがありませんでした。4回くらい・・・・
恐らく私のメールがスパムメールに分類されてしまっていたか、IPアドレスで何等かのフィルタにかかっていた可能性があるのかもしれません。
David氏にそのことを伝えると
「マジで?分かった!すぐに確認してちゃんと受信できるようにするよ。このアドレスね!少なくとも僕にメールくれたらちゃんと返すから大丈夫だよ^^」
と言ってくれました。(やり取りは英語)
私が今最も情報としてほしかったのはコニャックAOCに関する規定の英語ドキュメントでしたので、そのドキュメントがあれば送ってほしい旨を伝えると
「OK分かった!後でメール送るね!」
と快諾してくれました。
しかし・・・
それから待つこと1週間・・・・
まだメール来ない。
まぁ1週間くらい誤差の範囲ですよね。
けどまぁ、念のためもう一度こちらからもメールしとくか。
と思い、「この間は本当にありがとうございました!ところであのドキュメントの件はどうでしょうか?」という旨をメールして更に1週間待ってみることに・・・(ここからは帰国後の後日談)
が
未だに返事がきません。
うおーいDavidさ~ん・・・
「少なくとも僕にメールくれたらちゃんと返すから大丈夫だよ^^ 」 by David
私はこの言葉を信じて待ち続けております。
(知人経由で柔らかく伝えてもらおうかな・・・)
2019/12/21追記:返信きた
この記事をアップした翌日、David氏から返信がきました!!!ありがとうございます!
急かすようなこと書いて申し訳ありませんでした。
が
「最新のドキュメントは今制作中で2020年頭には渡せると思うからちょっと待ってね!」
とのことでした。
うおー、待つぜ!!!
ホテルにチェックインそしてディナーへ
なんやかんやで3時間程滞在させてもらい色々と学ばせてもらったBNICを後にして、ホテルにチェックイン。
この日宿泊したのは、絶対に1回は泊まりたいと思っていた昨年完成したばかりのコニャック初の5つ星ホテル「Hôtel Chais Monnet」です。
このホテルとバーがまた凄いクオリティだったのだ・・・。
かなりの良ホテルだったので、次の記事で少し紹介させて下さい。
次の記事
コニャックの5つ星ホテル「Hôtel Chais Monnet」とアホみたいなタクシー代
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