コニャック滞在記2019年 冬

コニャック滞在記㉒:クルボアジェ訪問(1)こだわりのコニャック樽はどうやって作られるか?

2020年2月15日

滞在9日目その1
2019年12月11日(水)

この日は丸1日、サントリーよりクルボアジェ(Courvoisier)に赴任し、コニャックに在住の日本人である伊藤さんにクルボアジェの現場や関係農家、そしてギィピナールを案内して頂きました。

ちなみにクルボアジェの立ち位置としては、サントリーホールディングスの子会社であるビーム サントリーが所有するコニャックのブランドである。

普段は見れないクルボアジェのあれこれを見せて頂き、とても勉強になりました!

フランスに来て1週間ぶりに日本語で会話したので、とても安心感があります(笑)

この日は朝8時15分にアングレームのホテル前で集合。伊藤さんに車を出して頂き、コニャックの隣、ジャルナックにあるクルボアジェ本社まで移動します。

本社に到着&オリエンテーション

これまで何回かこの建物の前は通りましたが、中に入るのは初めて。

さすがでかい・・・。

シャラント川のすぐ横にジャルナックのシンボルのように立つ建物で、クルボアジェのオフィスはじめ、ゲストルーム、ミュージアムなどが併設されています。

まずは本社に到着後、受付を済ませミュージアムに移動。クルボアジェ アンバサダーの方にクルボアジェに関する歴史やバックグラウンドをオリエンテーションして頂きました。

1時間ほどクルボアジェの特徴を学ばせて頂いた後はクルボアジェの樽を作っている樽メーカーへ移動。

今回のクルボアジェ訪問の中でもかなり面白い一面でしたので、少し詳しく書きます。

クルボアジェの樽の選定

今回向かったのはクルボアジェに多くの樽を提供している樽製造者「DOREAU」社。日本語での発音が難しいですが・・・ドホー・・・でしょうか。

先日訪れたABK6のAllaryもそうでしたが、多くの職人達が手作業で樽を作っているクラフト系の樽屋さんです。

クルボアジェの場合、既製品のフレンチオーク樽を買うのではなく、まだリムーザン、トロンセの森に生えているオークを木の状態からクルボアジェの品質基準にあうものを選定しそれをクルボアジェ専用の樽にしてもらっています。この森からクルボアジェ専用のオークを選ぶこだわりのプロセスは先代のマスターブレンダーの時代に始まったそうです。

その前に・・・DOREAU社に向かう前に立ち寄ったのが、クルボアジェ専用の丸太置き場と、樽になる板を加工する場所。(ここはDOREAU社ではなくクルボアジェの管轄)

このエリアは全てクルボアジェのもので、ここにある丸太と板は全てクルボアジェ用の樽に使われるものです。その先の樽への加工をDOREAU社にて行います。

選ばれし丸太たち

こちらが森から選定した木を丸太にした状態のもの。クルボアジェのために選ばれし丸太たちです。こんな感じで積み上げられています。

木の選定や伐採は水分量が少ない冬に行われ、一気にここに持ってこられます。

樹齢は150年~200年、ものによっては300年くらいのもの。実際に近くで見るとかなり大きく迫力があります。

ちょっとどこの木かまでの詳細は不明でしたが、おそらくこちらはリムーザンのものだそう。

丸太にはところどころ緑色の印がつけられています。

この緑の印は、木のフシだったりちょっと弱い部分だったり、樽にした際に水漏れの可能性があり樽の素材としては使えない部分を予めチェックして、この部分は加工時に避けるようにしています。

丸太の中心部や外側は樽の素材には使われないので、実際に樽に使われる部分は丸太全体の何と20%~25%ほどしかありません。

ちなみに、木の状態から慎重に選定しますが、やはり実際に切ってみたり加工してみたりしないとちゃんと使える木かどうか分からないこともあるようです。

丸太の加工

選ばれし丸太たちは隣の作業場に運ばれ、樽の原型となる板に加工されていきます。丸太が運ばれてくるのは冬ですが、この加工作業は年間を通して行われます。

ここではおよそ110cmほどの高さ(≒樽の大きさ)に切られた丸太が運ばれ、縦割りされていきます。(最終的には105cmの板になる)

まずはこんな感じでパキパキッと割られます。この丸太を縦に割る作業は見ていてとても気持ちいいです(笑)

※機械音がかなり大きいので音量注意!

先ほどの緑の印(使えない場所)などを確認しながら割る場所を決めて機械で割っていきます。

右側には樽としては使えない部分が積み上げられていきます。(家具用や様々なものに利用されます)

バーボンなどで使われるアメリカンオークは最初から板状に加工することもありますが、ヨーロピアンオークはアメリカンオークよりも隙間が多いため、まずは割れるところで大きく割ります。割れやすいところを残したまま板にするとそこから水漏れが発生するからです。

その後、さらに細かくされ、最終的に一枚一枚の板に加工されます。クルボアジェの場合、400Lの樽を使用し、板の長さは105cmで仕上がります。

ちなみにここは本来見学用の場所ではないので、慎重に周りを見ながら気を付けて歩かなければ結構危ない。

シーズニングとは?

板に加工されたオークは積み上げられて屋外で天日干しされます。いわゆるシーズニング(Seasoning)工程です。

全部クルボアジェの樽専用の板

シーズニングとは?
シーズニングの最大の目的は「木を十分に乾燥させること」です。板の中の水分量を15%以下にすることが重要です。
伐採したての木は多くの水分を含んでいます。シーズニングを行うと木の中の水分が抜けていき、少しだけ板が収縮します。樽を作る前に十分に木の中の水分を乾燥させないと、樽を作った後にも木から水分が蒸発し続け、樽に隙間が生じ、水漏れの原因となります。

クルボアジェの場合、シーズニングの期間はおよそ約2年(2夏ほど)です。

シーズニングの期間はメーカーやコニャック生産者の間でもばらばらなのですが、2年~3年間シーズニングする所が多いです。最大で5年間くらいシーズニングできるそうですが3年以上はあまり変化がなく意味がないので大体最大でも3年くらいな印象です。

ちなみに雨等は関係なく基本的に屋外保管です。

各板の塊にはパレット単位で管理用の番号が振られていて、最終的に樽になった状態でもどこの丸太から作られた樽なのか全てトレースできるように管理されています。

この写真は右が比較的シーズニングが進んだ状態。左はまだ新しいものです↓

ここでシーズニングされた板はその後DOREAU社にて最終的に樽になります。

ということでここからいよDOREAU社に移動です。

リムーザンとトロンセ:フレンチオークの種類おさらい

DOREAU社の話に移る前にコニャックの熟成に使われるフレンチオークに関して軽くおさらいをしておきましょう。

コニャックの熟成には主に2種類の森から取れるフレンチオークが使用されます。そう、「リムーザン( Limousin )オーク」と「トロンセ(Trancais)オーク」です。

どちらも森の名前です。

リムーザンオークの特徴

リムーザンオークはトロンセオークと比べて育ちが早く、木の繊維の密集度が低い(=隙間が多い)のが特徴。

↑この画像はフランスコニャック協会より拝借。リムーザンの木。

そのため、リムーザンオークを使用した樽ではコニャックがより樽に浸透し、多くのタンニンを得る傾向にあります。そのため、オリを残して蒸留したコニャックや、グランドシャンパーニュなどのパンチの強いコニャックにはリムーザンオークが使用される傾向が高いイメージがあります。

トロンセオークの特徴

リムーザンオークとは逆に木の繊維の密集度が高く細かい(=隙間が少ない)のが特徴。

↑この画像はフランスコニャック協会より拝借。トロンセの木。

コニャックが浸透する割合もリムーザンオークと比べて低いため、タンニンが強く出ずに軽やかな仕上がりになる傾向がある。オリを残さずに蒸留するマーテルなどで多く使われるイメージ。コニャックに限らずワインなどでも使用される割合が高い。

どちらの樽をどのような割合で、どのコニャック対して使用するかは各コニャック生産者やセラーマスター(マスターブレンダー)の判断によって千差万別です。クルボアジェの場合は全体的な使用率としては50%ずつくらい。

各オークの呼び方

樽屋さんや熟成現場を訪れるとそれぞれ色々違った呼び方をされたり、違った樽の表記がされたりするので下記にまとめます。

  • リムーザン( Limousin )オーク=Loose Grain=Wide Grain=(仏)Gros Grain=G.G
  • トロンセ(Trancais)オーク=Tight Grain=Fine Grain =(仏)Grain Fin=G.F

コニャック樽の製造工程

DOREAU社に到着後、受付を済ませ樽の製造工程を細かく見学させて頂きました。

それでは大まかなコニャック樽の製造過程を写真と共に見て行きましょう。

①板の選定

シーズニングを終えた板は再度ここで樽に適切な板かどうかを選定されます。

曲がっていたり樽として使えない板がまずはじかれます。

これは使えないやつ

②樽組み

選定された板を1本1本金具に当てはめて樽の原型を作っていきます。

1本1本職人の手とハンマーで埋め込まれていきます。この作業は圧巻です。その様子を動画でどうぞ。

※音量注意!!

上から金具をハメていく伝統的なスタイルと、逆パターンもありました。

③トースト

樽づくりの醍醐味といっていいトーストです。

トーストの前には水をかけ、形を整えられるようにしならせます。

トーストはバーナーの周りを樽で囲むような状態で行われます。

ここDOREAUではトースト中の様子が企業秘密ということで写真&動画撮影不可でしたので、ここの写真はありません。対照的に前日に訪れたAllary社ではトーストの様子が撮影OKだったので、ここでは参考にAllary社のトースト中の様子を掲載します。イメージは大体同じです。こんな感じ↓

トーストの温度や時間は樽の種類やコニャックメーカーによって異なります。

クルボアジェの場合は「ミドルトースト」です。トーストの時間は20~40分くらいだそう。トーストされた後の樽の内部はこんな感じ↓


対してヘネシーは「ハイトースト」。めっちゃ焼きます。ヘネシーの樽の中は下の写真のような感じ。

火力やトースト時間の差ですが、中は真っ黒。全然違いますね↓

トーストされればされるほど熟成時の樽の影響は大きく出ます。

ちなみに、トーストする際の火の燃料として使われる木はトーストする木と同じものを使用します。違う種類の木を使うと異なるアロマが樽についてしまう可能性があるからです。

④フタ作り

樽のフタ部分の作り方も非常に興味深いものでした。

オークの板を木ダボで繋ぎ合わせ、最終的に丸いフタの形に加工します。

これは樽メーカーによっても違うのですが、DOREAUの場合は板と板とのつなぎ目にある木の葉を挟んで組み合わせていきます。これによりフタの隙間から水漏れを防ぐ効果があります。

⑤ フタ の接着

樽とフタの接着には小麦粉をベースにした天然の接着剤が使用されます。

こんなパン生地みたいな天然接着剤

小麦の匂いが移らないようにグルテンフリーの素材をオーダーするクライアントもいるそうです。

⑥隙間チェック

人の目で樽の板やフタに隙間がないかチェックされます。

もし隙間があったり、板の間が甘かったりした場合は、板の中にこのようなチップを板の繊維の埋め込んで板の間隔を広げ、隙間が生じないように調整します。

職人技です。

⑦水漏れチェック

一通り樽の蓋まで被せ終わると水漏れチェックのために樽の中に熱湯が入れられます。

お湯が注入されている

そして樽を転がして水漏れが発生していないかを入念にチェックします。

⑧磨き・最終調整

一通りチェックが終わった樽は、機械で奇麗に表面を磨かれ、その後蓋の隙間や接着剤のはみ出しなどの細かい部分を人の手で調整してキレイな樽に仕上げます。

⑨刻印・出荷待ち

全ての調整が終わった樽は出荷用の倉庫に送られ保管されます。

ここで各生産者に応じた刻印が行われます。レーザーで焼き入れされるのですが、見てて面白いです。

これはクルボアジェ用の樽ではないですが、この時ちょうど行われていた刻印の様子です。樽の上にある機械からレーザーが照射されています。徐々に浮かび上がる文字がかっこいい・・・

※音量注意

そして100年の眠りに・・・・

こうして作られた樽がコニャックの熟成に使われ、場合によっては100年を超える悠久の時を過ごすことになると考えると、その貴重な誕生の瞬間に立ち会えたことはとても感慨深いものがあります。

そして私が見学に行った時にはちょうど10代の青年がベテラン樽師からレクチャーを受けて樽の製造に携わっていました。

こうして職人の手は次の世代に受け継がれていくのだなぁ。

コニャックの熟成には欠かせない貴重な現場を見せて頂き、とても勉強になりました!ありがとうございます!

Youtubeチャンネル

なおDOREAU社にはYoutubeチャンネルがあります。私も最近みつけた。

結構クオリティが高く興味深い動画が沢山あるのですが、2020年2月時点で登録者数20人とだいぶ寂しい感じなので(笑)みなさん登録してあげて。

Youtubeチャンネル

とても興味深いDOREAU社を後にして、次に向かったのは再びジャルナックにあるクルボアジェ本社。

ここでグローバルアンバサダーのレベッカさんと会い、普段は入れないクルボアジェのゲストルームにてヨーロッパの貴族さながらの昼食を頂くことに。

そしてクルボアジェとコニャック作りに携わる契約農家さんたちとの深い絆に耳を傾けます。その協力関係とは・・・・

次回、クルボアジェの神髄に迫ります。

次の記事
クルボアジェ訪問(2)700の契約農家の役割とクルボアジェの蒸留

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