普段私達が何気なく買っているボトル。
色々買っていくうちに「このボトルはこれくらいか~」「この値段でこのスペックならコスパすごい!」「これはちょっと高いなぁ・・・・」と自分の中での基準ができている人も多いかと思います。
ということで普段何気なく酒屋やネットショップで買っているボトルの値段はどうやって決まっているのかや、どうやって生産者のもとから私達の手元まで流通しているのかに少し焦点を当ててみましょう。
今回は特にブランデーの中でもコニャックを例に書いていきます。そして生産者ではなく輸入され国内に入ってきたボトルがどのような価格変化を辿るのか、そこに注目して見てみましょう。
一つ注意点としては、これはあくまでも一般的な例であって、必ずしも全てのボトルやブランドに当てはまるわけではありません。また私の予想や考察を含む部分がありますので、あくまでも「ほーん」「だいたいこんな感じなのね」程度に読んで頂ければ幸いです。
ボトルの価格を左右する7つの関所
「ボトルの値段」といっても、私達一般消費者が買う値段とバーやレストラン、酒屋が仕入れる値段は当然異なります。これはもちろんコニャックに限らずどんな商品でもそうですね。
国内に流通しているボトルの流通経路を見てみましょう。
これはブランドの大きさによっても異なります。流通量が多くなればなるほど例えば間に商社が入ったり流通経路が複雑になることがあります。ただ、コニャックにおいてはヘネシーやマーテル、レミーマルタンやクルボアジェなどの大手資本が背景にある企業を除いて、ウイスキーやその他の飲料商品と比べて流通量は少なく基本的には小~中規模の輸入業者がボトルを買い付けており、中間の二次卸・三次卸などは挟まない傾向にあります。そのため主に次のような流れになります。(超ざっくりと)
①生産者
↓
②輸入業者(インポーター):卸値の決定
↓
③場合によっては問屋など:問屋価格
↓
④酒販店:酒販店価格
⑤飲食店:飲食店価格
↓
⑥飲食店:一般価格
⑦一般消費者:一般価格
この流れは本当に超ざっくりなのですが、およそこんな感じ。①→⑦になるほど販売価格も上がります。
①はそのまんま。最終的にコニャックのボトルを出荷する生産者です。
②はそのボトルを買い付けている輸入業者。ボトルの裏ラベルや箱の裏に「輸入者」「輸入業者」といった記載があります。具体的にはジャパンインポートシステムやスリーリバース、ウイスクイーなどがそれにあたります。基本的に私達一般消費者はこの輸入業者から直接購入することはできません。
③は卸業者ですが、一部大手を除きコニャックのような流通量の少ない商品の場合は輸入業者が卸売を全て担うことが多く、別の問屋を挟む方が珍しいかもしれません。大手商社を挟む場合もあるにはありますが、あまり見ない気がします。
④はいわゆる酒屋さん。具体的にはリカーズハセガワや武川蒸留酒販売などです。②の輸入業者から酒販店向けの価格で購入したボトルをお店に並べたりネットで売ったりします。購入単位は数本から数十本、数百本と様々です。また一部では酒販店自身が直接輸入をしている場合もあります。信濃屋(田地商店)直輸入ボトルやリカーズハセガワのピエールリュカなどがそのいい例かもしれません。
⑤と⑥で挙げている「飲食店」は主に個人経営を主としているバーやレストランを指します(大規模やチェーン店などはまた異なります)。
⑤⑥両方で飲食店が混在しているのですが、これはバーなどの飲食店の場合どちらのパターンもあり得るからです。②輸入業者から直接購入する場合もあれば、④の酒屋で売っているものを購入する場合もあるからです。これは②輸入業者が酒類の卸免許だけでなく販売免許も持っているかどうかや、その業者や担当者との付き合いもあるので一概にどちらとは言えません。価格に関しては後述しますが、②輸入業者が販売する場合でも④酒販店に売る酒販店価格と、バーなどの⑤飲食店に売る飲食店向け価格は一般的には異なる価格が設定されており、当然ながら④酒販店の方が安いです。(流れを考えると当然かもしれませんが)
⑥は飲食店と我々一般消費者となります。町の酒屋やネットショップで買う人達です。ここでも飲食店と一般消費者で価格が異なる場合が多くあります。酒販店→飲食店の場合は特別に先行で販売されたり、一般価格とは異なる飲食店価格で販売される特典(?)が当然あります。
もう少し詳しく見てみましょう。
①生産者から②輸入業者への流通と価格
まず大元となるのは①の生産者が②の輸入業者に売る価格です。ここが全ての始まりとなります。
一般的には①生産者が「このボトルはこの値段であなたのところに売るね~」と価格設定をし、②の輸入業者に提示します。そこから②の輸入業者が入れる本数や取引状況に応じて価格交渉したりする場合もあるでしょう。全ての値段の大元はここから始まります。
どのような単位で購入するのか?
輸入する際は「1本だけ」なんて単位で輸入することはまずありません。一般的には各ボトルに対して最低購入単位があり「SKU」「ケース」「パレット」「レイヤー」といった単位が存在します。
「SKU」は最も小さな管理単位で、基本的にはボトル1本1本のことを指します。
「ケース」はSKUのまとまり。一般的にはボトルが複数入った段ボール箱です。ボトルの大きさや形状にもよりますが、一般的な700mlスリムボトルの場合1ケースの中には6本のボトルが入っている事が多いです。よく販売単位の資料としては「SKU Pre Case」といった表記で記載されています。多くの場合輸入本数の単位はこのケース単位となります。
「パレット」はケースのまとまりです。よく倉庫などで見かける木の板に乗っている状態のものを指します。これも板の大きさや運搬業者にもよることがありますが、一般的には1パレットあたり最大90ケース前後くらいまで乗せられます。
つまり仮に1パレット90ケースで、1ケースあたり6本(SKU)の場合、1パレットあたり最大で540本のボトルが乗ることになります。
「レイヤー」は最も大きな単位で、パレットのかたまりです。一度に出荷可能なレイヤー数は規模によってもことなりますが、4~5レイヤーあたりでしょう。
日本において大手を除くコニャックの流通量はウイスキーと比べると驚くほど少なく、一度に輸入するボトルの量も多くありません。年間の輸入量が1パレット以下なんてブランドも全然あります。
コニャックの場合は3万円あたりを境界線に価格の高いボトルは販売リスクも考え一度にそんなに多量の本数を輸入しません。そしてその高価なボトルが在庫切れになったからといって、そのボトルだけをその都度輸入するなんてことはありません。諸経費がかかりすぎるからです。そのため同ブランド、または同じ地域の他のボトルを輸入タイミングで一緒に持ってくることが多いです。
フランソワヴォワイエ エクストラなんかはそうかもしれませんが、ネットショップや酒屋などで一度在庫切れになった3万円以上くらいのボトルがしばらく販売されず、半年後くらいにようやく在庫が復活する現象はのはそのためです。
どのような経路で日本に入ってくるのか?
一般的には船便で輸入されることが多いです。貨物船のコンテナに乗せられてきます。船便の場合は結構期間もかかり、生産者の元から出荷されて輸入業業者の倉庫に入ってくるまでに早くても1ヶ月半~2ヶ月程度の期間を要することがほとんどです。空輸の場合はもっと早く、数日~数週間程度で到着する場合があります。
コニャックで船便の場合はフランスから直接東京に来る場合もありますし、シンガポールなどを経由する場合もあります。色々な国のボトルを取り扱っている輸入業者であれば他の国の違う商品と混載して手配する場合もあります。混載の場合はより安くなりますが、入荷までの期間もかかることになります。
通関ではどんな資料が必要なのか?
海外から入ってきた商品は必ず通関が必要になってきます。
通関(Customs Clearance)とは
引用:https://www.fbscorp.com/word/?id=1408427556-408808
貨物の輸出または輸入をする際、貨物の内容を税関に申告し、税関長から輸出入の許可を取る手続き。またはその貨物が税関を通過することを指す。
通関に際しては、輸出入をしようとする者が貨物の品名・種類・数量・価格など所定の事項を申告し、検査を受ける。
日本では税関で輸入税が課せられるため、輸入の場合は通関の際に関税を納付する。
通関手続きを経ていない貨物は、輸入の場合は外国貨物から内国貨物への切り替えができず、保税地域から国内に貨物を持ち出すことはできない。また輸出の際は船や航空機への積載ができない。
輸出入申告は誰が行ってもよいが、手続きには専門知識が必要なため、税関への輸出入申告を代行する業者(通関業者)に通関業務を委託する場合が多い。
通関には様々な資料が必要となりますが、コニャックはじめ酒類の場合は生産者側が提供する製造工程のチャート図やお酒の構成内容(原料や添加物など)、その他に第三者機関からの検査検疫証明書などです。
コニャックの場合、検疫証明書として以前記事にも書いた様々なスピリッツの成分分析を行っている研究機関である「Lacroix Christian」の分析結果を資料として提出する場合が多いように見受けられます。
参考記事
→コニャックの科学的分析と分析機関とは?
通関の要件を満たすかどうかや、一発で通るかどうかはぶっちゃけ通関時の検査員に依存することも多く、細かい担当者に当たってしまった場合は検査が長引いたり追加資料を求められたりすることもあります。通関要件を満たすための分析条件が異なり、再度検査が必要とかになると、もっかい分析からやり直さないといけないなんてこともあったりして結構大変です。(特にお酒などのアルコール類は分析時の室温なども重要な要素なので)
輸入業者側ではどんなコストがかかって価格が決まるのか?
当然、輸入業者は原価に対し自社の利益を乗せて二次卸業者や酒屋への卸値を決めることになるのですが、生産者から提示される価格に利益を乗せるだけではありません。当然それ以外にも様々なコストが発生するので、それらを全て加味・転化した上で価格が決まります。
輸入業者が価格(卸値)を決定するのに影響する要素としては次のようなものが主に挙げられます。一般的に影響度が大きいものから順に挙げます。
- 為替レート
- 海上運賃
- 酒税
- 通関諸経費(通関業者に支払う費用とか)
- 継続的な倉庫保管料(在庫を保管する場所の経費)
- インセンティブ
※個人で動くバイヤーが輸入業者と個別契約している場合は売り上げに応じた報酬が輸入業者から個人に支払われることがある - THC/D/O(入港時の諸経費:詳しくはコチラ)
- 海上保険料
- 送金手数料(生産者に支払う際の海外送金の手数料など)
これら様々なコストが相まって初めて問屋や酒屋に売る価格を構成する原価が決定します。
※この原価に輸入業者の利益(掛け率)を乗せたものが下代、いわゆる卸値となります。
原価率はどのくらいなのか?
我々一般消費者が最も気になるところはここかもしれません。
私達が酒販店(酒屋)で買うまでにどのくらいのマージンがあるのか?原価はどのくらいなのか?
これは本当に輸入業者やその商品によっても差が大きく、輸入業者や商品の利益に直結する部分なので一概どのくらいと定義することはできません。
ただ、おおむね(あくまでも一般論として)輸入業者から酒販店(酒屋)への原価率は60~75%程度であることが多いように見受けられます。
つまり、諸々経費を加味した輸入業者のとあるボトル1本あたりの原価が3000円で原価率が70%の場合、酒販店(酒屋)への売価=酒屋の仕入値は4285円ということになります。(輸入業者の利益率30%)
輸入業者が直販を行って飲食店に売る場合は飲食店価格としてもう少し原価率は低く(つまり輸入業者の利幅が大きい)設定するので、またこの価格とは異なります。
意外と輸入業者の利益少ない?と思うかもしれませんが、これは一例であり、この原価率や利益率は本当に様々なのであくまでも参考値として考えて下さい。
そしてこれは酒販店(酒屋)が輸入業者から仕入れる価格なので、我々一般消費者が手に入れるまではもう一段階酒屋さんの利益が乗った価格で購入することになります。
我々一般消費者がコニャックを飲むまで
基本的に私達一般消費者がコニャックを飲む場合は次のような手段に分かれるのではないでしょうか。
- 酒屋(実店舗・ネットショップ)で買う
- バーで飲む
- オークションで買う
- 海外通販で個人輸入する
酒屋(実店舗・ネットショップ)で買う
酒屋で買う場合は先述した通り、酒屋さんが仕入れた価格に酒屋さんの利益を乗せた値段で購入することになります。
これもそのお店やボトルによって様々なので全く一概には言えませんが仕入れ値から2~3割程度の利益が乗ったものが多いように感じられます。
単純に考えると例えば最終的な小売価格が1万円のコニャックの場合
特別価格で買える飲食店は9000円程度
酒販店(酒屋)の仕入値は7300円程
輸入業者の原価は5000円程度
生産者から輸入業者への販売価格は4000円程度(1円120ユーロ換算)
とかそんなイメージです。(何度も言いますがあくまでイメージなので10~15%くらいのブレはあります)
商品によってどのような値動きがあるのか、その値段のバックグランドはどのような状況なのかを考察するには、同じ商品で海外での販売価格も参考にもってくるとたまに面白いことになります。
国内での販売価格はどこも同じような価格帯であっても、海外での価格と国内の販売価格に2倍以上の差がある場合はその要因は酒販店ではなく輸入業者側にあることが多いです。勘違いしないで頂きたいのは商品の相場や価格設定なんてものはその時の需要で変わるものなので、それが決して悪いと言っているわけではありません。
私の場合そういった商品があると、この価格差は一体どこから生まれてくるのだろう?このボトルを輸入した人はどんなブランド価値を国内で生み出そうとしているのだろうと考えるのが楽しくなります。(買うかどうかは別)
ただ一部クレイジーな価格となっているウイスキー界と比べるとコニャック界はまだまだめちゃくちゃ平和ですね(笑)このまま荒らされない事を祈るばかりです。(自分が荒らさないようにな)
バーで飲む
これこそそのお店よりけりなので、一言で語ることなんてできないのですが、基本的にはそのお店が仕入れたボトルの価格に対して1ショットあたりの値段が決められます。
お店にもよりますが基本的に1ショット=30mlであることが多いため、700mlボトルからは23杯程度ショットで提供できることになります。
私のイメージとしては現行品の場合ボトルの仕入れ価格に対して15~30%くらいが1ショットの値段な印象が強いです。(ハーフだったら半分)
ただこれは本当にお店やボトルによって様々過ぎてキリがないので、ここで言及するのはやめておきます(笑)
オークションで買う
ヤフオクとかメルカリとか。
まぁ・・・この辺は自己責任で・・・。
海外通販で個人輸入する
Cognac ExpertやCognathèqueなどフランスに拠点を置くコニャック専門の海外通販サイト経由で日本からでもコニャックを購入することができます。
日本には入っていないブランドやボトル、また違った価格帯で多くのコニャックが手に入るので便利です。
ネックとしては国際便になるので送料が高い(4~6本入りで4000円程度)のでまとめて買わないとあまり価格面の利点が無いのと、英語かフランス語がメインなところくらいでしょうか。
もちろん通関手続きは存在しますが、輸入業者などが商用に輸入する場合と異なり個人で輸入する場合は(よほどの数のロットを購入しない限り)そのまま特に煩雑な手続きなしで自宅まで届きます。購入本数や量によっては関税を支払う必要がありますが、DHLなどの国際宅配便を使った場合は業者が手続きや支払いを変わりにやってくれるので、多くの場合は商品到着時に配送業者に関税含めた通関手数料として支払います。
それ以外は普通に楽天や他の国内ネットショップと同じような感覚で買い物ができます。まぁその辺はまた別記事にて。
ボトル1本の値段から考える世界
こうして改めて見てみると、コニャックのボトル1本届くのに想像以上の人間が関わりを持っていることを再認識しなければなりません。
コニャックはじめブランデー、ウイスキーを飲む時に我々はどうしても生産者にだけ目が行きがちです。
もちろん生産者あってのお酒なのですが、インポーターやその会社に勤める人、倉庫の管理をする人、宣伝をする人、ボトルを車で港に運ぶ人、コンテナの管理をする人、通関の手続きをする人、商品の価格設定をする人、ブランドストーリーを作る人、酒屋に営業する人、店頭で販売する人、ネットショップを構築する人・・・・挙げればきりがないほど多くの人が関わって初めてその作品が私達の手元に届くことに感動すら覚えます。
ボトルの価格を考える時
「このボトルはコスパいい・悪い」
という観点以外に少し視点を変えて
「なぜこのボトルはこの値段で私の手元に届いたのか?」
を考えると、また少し違った世界観や価値観が見えてくるかもしれません。
最後に、繰り返しになりますが・・・
今回の価格や原価の話はおおむね一般的な例であって、全てがこの通りというわけではありません。
ここまでボトルの値段に対して触れることは無粋だとかツッコミ過ぎという意見もあるかもしれません。ただ、私達が手にするコニャックの値段が決まるまでにどんな要素があるのかを知っておくことでそこに関わる人達の存在や考えに考察を巡らせることができるのは良い機会だと私は考えます。
そんなこんなで生産者以外のバックグランドにも思いを馳せながら飲むコニャックもまた興味深いものです。(笑)