滞在4日目その4
2019年12月6日(金)午後
前回の「ジャンリュックパスケのオーガニックコニャック達」に続き、Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ) 訪問後半です。
畑に続き、蒸留器、熟成庫、そしてテイスティング会に移ります。
1つの蒸留器で丹精を込めて
Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ) で使用されているシャラント式単式蒸留器は1基のみ。大きさとしては1度に18ヘクトリットルのワインを蒸留できる中型の蒸留器です。
ワインを温めておくためのショーフヴァンは無いタイプの蒸留器です。スペース的におけないし、そんなに一度にたくさんは蒸留しないから必要ないそうです。
Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ) ではワインのオリは全て使用して蒸留します。蒸留を主に担当しているのはJeanさんです。Jeanさんのお父さんで先代のJean Lucさんは2011年に引退して第一線から退きましたが、毎年蒸留時期には一緒に蒸留を見ることが多いそうです。
本当は蒸留する日に合わせて予定を組んでもらったけど、急遽予定が変わり1日ずれてこの日は蒸留器は稼働していない日でした。
この写真は1980年代の頃の写真。
まだJeanさんが子供の頃。この時からずっとお父さんがコニャックを作る姿を見ながら育って今に受け継がれているわけですね~。
この写真のシャラント式単式蒸留器はかなり昔のもので、1989年まで使用されていました。その後は博物館に寄贈され、今も展示されているそう。
この頃はまだコンピューター制御などは無かったし、加熱方式も薪で火を焚く伝統的な手法だったため、蒸留時期は蒸留器の横にベッドを設置し、蒸留器の横で寝泊まりし、まさに24時間体制で蒸留を行っていたそうです。
現在使っている蒸留器の加熱方式はガスで、2014年からコンピューター制御盤を取り入れたそうです。
大手へのオードヴィー共有は行っていない
一般的にJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ) のような小規模生産者の場合、自社の製品に加えて、蒸留したオードヴィーをヘネシーやマーテル、レミーマルタンなどの大手コニャックメーカーに卸している所が多いのですが、Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)の場合は大手に卸すことはしていません。
大手との契約になると、どうしても製法だったり蒸留方法に制限が出てしまいます。(売り先の大手の手法に合わせなければいけない)
やはりオーガニックという特性上、そういったやり方に合わせたり、生産方法を分けるのは難しいし、 Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ) のオーガニックコンセプトに合わないので大手との契約は無いとのこと。完全独立のコニャック生産者です。
実は○○○○のコニャックも蒸留している
大手にはオードヴィーを卸していないものの、Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)では他の親しいコニャック生産者のコニャックの一部を蒸留しています。
これは「蒸留したものを売っている」というよりも「蒸留を手伝っている」という表現の方が正しいです。
あくまでも他の生産者が持ってきたワインをJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)の蒸留器で蒸留して、蒸留したものをその生産者に戻すという事です。蒸留家のようなイメージですね。
なので蒸留するものにはグランドシャンパーニュの他、プティットシャンパーニュやファンボアからのワインもあります。
実際にいくつか蒸留した他生産者のオードヴィーを味見させてもらいましたが、それぞれ全く異なる個性があって大変興味深かったです。同じグランドシャンパーニュでも全然違うし、フォルブランシュ100%のオードヴィーはやはり超個性的。ファンボアとグランドシャンパーニュの比較も面白かったです。
そして驚くべきことに、その中にはプロプリエテールコニャックとして有名な、あのコニャック生産者のコニャックの一部も実はJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)にて蒸留されていました。(ほんとにごく一部だけだけど)
噂では聞いていましたが、その話は本当だった・・・。というか進んで教えてくれた。
そのコニャックとは・・・・
・・・
うっ・・・
なっ、何だこれは!?
何か見えない力が働いて名前を書くことができない!!!
くそっ!!
・・・ということですみません、これだけは当ブログでの公表は避けたいと思います(笑)
一応「これ書いても大丈夫なの?」と聞いたところ「うーん、たぶん大丈夫(笑)」と言われたのですが、やや曖昧で提供先には直接確認取ってないのと、
何というか、あまりにもインパクトが大きいというか・・・。
「葡萄の栽培から蒸留、熟成、ボトリングまで一貫して自分達の手でやる」という我々のプロプリエテールの概念に照らし合わせると、そこはもうプロプリエテールではなくなってしまいそうな気がするのと、公表したところでマイナスの影響しかない気がするので、具体的な名前は伏せさせてください。
「期待させといて言わねーのかよ!」と思われた方は申し訳ありません。
ん?
そうそう、あのコニャックです。
ということで、何が言いたいかというと、そういった高品質なコニャックを世に出している他の生産者からも蒸留を任せられる程Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)の蒸留技術は確かなもので、大変信頼されているということです。
パスケ家の熟成庫へ
Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)は3つの熟成庫を保有しています。
1つは若いコニャックを置いておく熟成庫。こちらはやや乾燥した環境にある熟成庫です。
2つめはそこそこ熟成したコニャックを置いておく熟成庫。より円やかに熟成を進めるため、比較的湿度の高い熟成庫です。
3つめはピノーデシャラント専用の熟成庫。こちらも湿度高め。
今回訪れたのは2つめの長熟向けの熟成庫です。
Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)がメインで使っている樽はTonnellerie de Cognacという樽メーカーのもの。ここから車で10分くらいの所にある地元の樽屋さんです。
樽は全てリームーザンオーク。トロンセオークは使用していません。やはりグランドシャンパーニュコニャックにはより力強さを付与してくれるリムーザンが良いのとこと。
今年から別の樽メーカーの樽も使い始めたそうです。やはり樽メーカーによってやや特製は異なるため、この新しい樽を使ったコニャックがどのようなコニャックになるか様子を見ているところだそうです。
また今年からデンマークのラム生産者に使い終えた樽を提供して、ラムのフィニッシュに使ってもらう試みも始めたそうです。
こちらの中身は1973年プティットシャンパーニュですが樽自体は100年くらい前のやつ。
前回の記事でも書いたようにJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)として自社コニャックをリリースしはじめたのは1977年の事。それ以前は大手メーカーに蒸留したオードヴィーやコニャックをほとんど売っていたため、あまり古いコニャックは残っていません。残っている最も古いものでも1962年くらいのやつで量も少ないそう。(いや十分古いんだけど)
でもやっぱり世の中のコニャックファンたちは古酒に興味があり、Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)ブランドの古酒にも多くの要望があったそう。そのニーズを満たすために作られたのが後ほど紹介するJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)のエスプリシリーズ。これはJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)が厳選した親しい小規模生産者の樽をJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)ブランドとしてリリースしたシングルバレルコニャックです。
ダニエルブージュが他生産者のコニャックをセレクトして自信のセカンドブランドとしてリリースしている「フランソワ・マランジェ」や、ネゴシアンのジャングロスペランあたりがイメージとしては近いでしょうか。
テイスティングタイムで幸せなひと時を
セラーを一通り見終わったらオフィスに戻ってレッツテイスティングタイム。
先述した通り現在Jean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)には主に3タイプのコニャックラインナップがあります。全ての感想を書くとめちゃめちゃ長くなるので、ひとまず頂いたコニャック達の紹介。細かい感想等は別のレビュー記事にて書ければ幸いです。
①オーガニックコニャック
現在のメイン商品。全て自社畑のオーガニック栽培の葡萄で作ったコニャック達。ノンシュガーノンキャラメル。
L'organic 04 Grande Champagne Cognac
L'organic 07 Grande Champagne Cognac
L'Organic 10 Grande Champagne Cognac
れぞれ数字の通り、4年熟成、7年熟成、10年熟成です。
実は各裏ラベルの隅に「何年のヴィンテージがブレンドされて、いつボトリングされたか」が数字とアルファベットで記載されています。
例えばこの数字。これは L'organic 04(4年熟成)のものですが
L1413M120919
との記載があります。
これはL以降の数字1413はブレンドされているヴィンテージを表します。この場合は1413となっているので2014年と2013年に蒸留されたコニャックがブレンドされているという意味です。
そしてM以降の数字はボトリング日付。120919となっていますので、2019年9月12日ボトリングという意味です。
ここまではっきりと記載がありトレースできるのは消費者にとっても嬉しいことですね。
ちなみにこの数字は現在日本に流通している古い Jean Luc Pasquet Tradition familiale にも同様の記載があるとのこと。お持ちの方は是非チェックしてみて下さい。(ただし近年のものには記載がないかもとのこと)
私はオーガニックコニャック10年がめちゃめちゃ気にいったので1本直接購入しました。
私が買ったボトルはL0706M090919。つまり2007年と2008年ヴィンテージのブレンドで、2019年9月9日ボトリングされたものです。
ちなみに、この現在のロゴとラベルは2016年に刷新されたもの。Jeanさんがアングレームのデザイン会社に依頼して作ってもらったものだそう。現地のデザイナーさんと協力して生み出したラベルです。
実はオーガニックコニャックをリリースし始めた当初、こういった04、07、10といった表記ではなくVS、VSOP、XO表記でリリースしていく予定もあったそうです。しかしこのアルファベット表記だと分かりにくく、いつ作られたコニャックなのかを明確に見せたかったので表記を変更。そしてトラディショナルな方にもう一本別のXOがあり、そちらは25年熟成で値段も全然違うので、2つのXOがあると消費者も混乱するだろうとのことでVS、VSOP、XO表記は取り止め、今の数字でのラベル表記に決まったそうです。
ラベルデザインや表現方法にも生産者の様々な葛藤があり、それもコニャックを生み出すにあたり大切な過程の一部です。
② Espritシリーズ(トラディショナルタイプ)
主にJeanさんのお父さん、Jean Lucさん時代のコニャック。現在日本にメインで流通しているジャンリュックパスケのコニャック達です。
Jean Luc Pasquet Tradition familiale
Jean Luc Pasquet Napole'on
Jean Luc Pasquet XO
Jean Luc Pasquet Tles Vieille Reserve
あとは限定ボトルでPasquet Nostalgie Limited Editionというのもあります。
このうち上から3つ
Jean Luc Pasquet Tradition familiale
Jean Luc Pasquet Napole'on
Jean Luc Pasquet XO
は現在は生産は行っておらず、市場に流通している分だけとなります。
それにしても Jean Luc Pasquet Tles Vieille Reserve の香り立ちと味わいがやはり圧倒的。最低熟成40年(1974年の原酒)で、それ以外にブレンドされているのは古くて(というか明確な記録がなくて)生産者自身も分からないという、色々とすごいコニャックだ。
③その他Esprit de Familleシリーズ
こちらも現在の主力商品の一つ。
先述したようにこれはJean Luc Pasquet(ジャン・リュック・パスケ)が蒸留や熟成を行ったものではなく、ネゴシアン的な立ち位置で親しい小規模生産者たちの古酒から超厳選した樽をボトリングしたもの。シングルバレルのカスクストレングスコニャックです。シングルバレルなので数量限定商品。
ダニエルブージュがリリースしている「フランソワ・マランジェ」やジャングロスペランあたりがイメージとしては近いもの。
ラインナップは次の4つ。各コニャック名の最後についているBernadette、Jean、Chiristian、Andreはこの樽を持っていた各生産者の名前です。
"L´Esprit de Famille" Bernadette
ブートビル村にあるBernadetteさん家のグランドシャンパーニュコニャック。1974年ヴィンテージ。アルコール度数44.8%。限定433本ボトリング。
→商品詳細
"L´Esprit de Famille" Jean
グランドシャンパーニュコニャック生産者Jean Blaisさんのコニャック。1969年と77年のヴィンテージのブレンド。アルコール度数49.6%。限定488本ボトリング。BernadetteとJeanは同じグランドシャンパーニュコニャックで、同じくらいの熟成年数、そして場所的にも4km程しか離れていませんが、香りも味わいも全く異なるコニャック。とても面白い。
→商品詳細
"L'Esprit de Famille" Christian
プティットシャンパーニュコニャック。300リットルの小樽で熟成されたもの。1988年のヴィンテージ。アルコール度数54.1%。限定303本ボトリング。
→商品詳細
"L'Esprit de Famille" André
ボルドリに近い場所にあるプティットシャンパーニュコニャック。このAndreだけは直接の知り合いではなく、2017年にオークションでバレルごと購入したものだそう。しかしそのバックグラウンドと何よりもコニャック自体が凄くよかったので、Angreのストーリーと共にEspritシリーズとして製品化することを決意。1973年ヴィンテージ。アルコール度数51.4%。限定525本ボトリング。
→商品詳細
なぜか4本ともコースターの上にグラスではなくボトルを置いて撮影してしまいましたが(笑)
いづれのコニャックも凄いコニャックばかりで、これを選んだ彼らの見る目の鋭さが光ります。
どれも甲乙つけがたいコニャック達ですが、個人的にはBernadetteとAndreの香り立ちと味わいのインパクトが大変強く印象に残るコニャックでした。今回はJean Luc Pasquetの直接の知り合いであり、グランドシャンパーニュコニャックのBernadetteを1本購入!
各ボトルの箱の中には小さなブックレットが入っていて、それぞれのボトルの詳細なストーリーや生産者の背景が書かれています。
わーい。
日本に帰ってじっくりと楽しみます。あと誰か一緒に飲みましょう。
Jeanさんとお父さんもご一緒に
テイスティングの後半にはJeanさんとお父さんとJean Lucさんも参加。
日本の事やフランスの事など色々な雑談をしながら楽しいひと時を過ごさせて頂きました。
「好きに飲んで~」と言われたので厚かましく色々と飲ませて頂きました。本当にありがとうございます。
とういうことで合計3、4時間程滞在させて頂き、オーガニックコニャックへのコダワリやJean Luc Pasquetの歴史を学ぶことができました。(うち2時間はコニャック飲み会(笑))
気付けば18時を回っており外は真っ暗。
JeanさんもAmyさんもまだ日本に来たことがないそうなので、是非一度日本に来て頂いて今度は日本でもまた一緒にコニャックを楽しみたいですね。
そんなこんなでまた翌2020年の夏にコニャックに来ることを約束しながらお別れ。
Amyさんのご厚意に甘えて帰りはコニャックのホテルまで車で送って頂きました。何から何までありがとうございます。。。
さて、今夜のホテルはシェモネから移動して、コニャックの中心部にある有名ホテル「フランソワ・プルミエ」です。
ホテルについて一息して隣にあるバーへ。
しかしそこで顔が青ざめてしまう出来事が・・・・
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