滞在7日目その2
2019年12月9日(月)
前回のABK6の全てを語ろう(1) 最大級のシングルエステートコニャックに引き続き、ABK6の話。今回は主にABK6の蒸留と熟成庫に迫ります。
前回の記事で、ABK6は自社が所有するファンボア、プティットシャンパーニュ、グランドシャンパーニュの3つのエリアごとにそれぞれ蒸留所と熟成庫を保有していることを述べました。それぞれの畑の特徴や気候を活かすため、各地区ごとに蒸留・熟成を行っています。
今回はその中でもABK6のメインオフィスがあるファンボア地区に属する蒸留所と熟成庫です。
場所は117ヘクタールあるファンボア畑の一つ、 Domaine Chez Maillard(72ヘクタール)です。
9人のマスターディティラー
ABK6含む、LEYRAT、REVISEURといったDOMAINES FRANCIS ABECASSIS(ドメーヌ・フランシス・アベカシス) が保有する3つのブランドには、合計で9人の蒸留責任者が存在します。(2019年12月時点)
そのうち、ファンボア地区の蒸留を担当している蒸留責任者は大ベテランのダニエルさん。
全体で蒸留責任者は9人ですが、この蒸留所はダニエルさん1人が全ての責任を負っています。なぜなら長年ABK6で蒸留責任者を担当してきた蒸留のスーパープロフェッショナルだからです。
ちなみにABK6本社オフィスのすぐ横にあるこのファンボア蒸留所は2機のシャラント式単式蒸留器が存在します。
前回の記事で紹介したワインの発酵タンクにてワインとなった液体は地下を通ってなるべく酸化させないようにこの蒸留所のタンクまで運ばれます。
ABK6の蒸留
伺ったタイミングはちょうど2回目の蒸留(ボンヌショーフ)を行っているタイミングで、コニャックの元となるハートの部分が抽出されている最中でした。
参考記事
→【中級編】コニャックの蒸留方法:シャラント式 単式蒸留とは?
ここの蒸留器は2500リットルのワインを蒸留できるスタンダードなシャラント式単式蒸留器です。
ワインをあたためるショーフヴァン(玉ねぎのようなヤツ)の中にはスワンネック(細い管)が通っていて、そのネックの中を通る蒸気の温度でワインを予め温めておきます。
ちなみに、蒸留したワインの蒸気が通ってくるコンデンサーの上の方は100℃くらいあってかなり熱い。
それが冷水により18℃くらいまで下がり、蒸気が液体に還元され蒸留液(オードヴィー)となって出口から出てきます。
ABK6の蒸留工程
「 【中級編】コニャックの蒸留方法:シャラント式 単式蒸留とは? 」でも簡単に説明していますが、ここの蒸留所の蒸留工程を図にまとめました。お時間のある方はご参考に。
※クリックでPDF表示
これはあくまでもABK6のファンボア地区での蒸留方法です。細かい蒸留方法はメーカーや蒸留器の大きさやによっても異なりますのでご注意下さい。
特にボンヌショーフのSecondとQueuesをプルミエショーフのワインに戻すか、ボンヌショーフのブルイに入れるかなどは各生産者によって大きく異なります。マーテルやクルボアジェ(ファンボア)はここと同様にワインに戻します。 ヘネシーやレミーマルタン、クルボアジェ(グランドシャンパーニュ、プティットシャンパーニュ、ボルドリ)は、ブルイに戻すそうです。メーカー毎やブドウの産地の特徴が分かれる面白いパートです。
この辺はまた蒸留関連のまとめで別途詳しく書きたいと思います。
今年のボンヌショーフを頂く
ダニエルさんによると、今年の蒸留液の香りは昨年よりも少しイチゴ系の香りが強く出ているらしいです。昨年はもうすこしピーチやアプリコットの香りが強かったそう。今年の気候は7月~9月にかけて例年よりもドライで気温が高い日が続いたことがこの違いに影響しているそうです。
それらのサンプルをとって、正確にセラーマスターに伝えるのもダニエルさんの重要な仕事です。
ちょうどコニャックとなるハートの部分を抽出していたので、蒸留中のものを直接試飲させて頂きました。
試飲といってもアルコール度数70度近くあるので、舐める程度です。
なるほど、これが今年の蒸留の結果か・・・(分かった風)
そんなこんなで一通りダニエルさんに蒸留の流れや今年のABK6オードヴィーについて教えて頂きました!ありがとうございました!
ダニエルさん、本当に良い方です。
数時間後にオフィス周辺でまた会ったのですが
「いい感じのボンヌショーフが取れたから、これからイザベル(マスターブレンダー)に見せにいくんだ^^」
とウキウキ顔でサンプルボトルを片手に小走りでオフィスに向かって行ったのが凄くかわいい感じでした(笑)
ABK6のパラディセラーで100年物コニャックを
ABK6コニャックのファンボア地区の蒸留工程を学ばせて頂いた後は、いよいよ熟成庫に向かいます。
熟成庫も各畑エリアごとにいくつか存在しており、合計でここでは主にファンボアのコニャック達が熟成されています。
ここは若いコニャック達が眠る熟成庫。
ABK6のファンボアコニャックの場合、新樽での熟成期間はおよそ8ヶ月~10ヶ月。その後はセラーマスターの判断でポンプを使って中身が古樽に移されます。やはりファンボアのコニャックは繊細でフルーティー感を出したいので新樽期間は短いです。グランドシャンパーニュやプティットシャンパーニュはもう少し長く新樽で寝かせることが可能です。新樽のタンニンに耐えられるくらいパワフルだから。
2017年に蒸留されたコニャック(熟成2年目)をダイレクト試飲。無加水状態でさすがにアルコール度数も高く、さすがに「オフッ・・・」となる。
こちらは主にブレンドを行う熟成庫。そしてブレンドされて出荷目前の大樽(トノー)。
いつも同じクオリティを保つため、何百もの樽からサンプルをとってマスターブレンダーがブレンドを施しています。
そしていよいよお待ちかね。ABK6の最古のコニャック達が眠るパラディセラーへ向かいます。
100年ものコニャック直飲み
DOMAINES FRANCIS ABECASSIS創設当初のオフィスがある建物のすぐ横にパラディセラーがあります。
ちなみにこの旧オフィスは現在使用されていませんが、近々改装して使えるようにするらしいです。
厳重な鍵を開けて・・・
ドン!!
ドドン!!!
わーい!!
これが歴史か・・・
中には蝋封をされたヴィンテージコニャック入りの樽もあります。
補足:コニャックのヴィンテージ
コニャックのボトルにヴィンテージを入れる場合は、樽が開けられてないかや違う年数のものがブレンドされていないかなどのチェックをBNIC(フランスコニャック協会)から受ける必要があります。ヴィンテージコニャックの樽は
- 樽に蝋封をする
→BNIC立ち合いのものでしか蝋を開けることはできない - 熟成庫にや熟成庫内の部屋に鍵をかけてBINCがカギを保有する
→この場合は樽に蝋風の必要なし
の2択があるのですが、後者の方はコストがかかりすぎるので、前者の蝋封だけで済ますところが多いようです。
ということで、パラディセラーに眠る樽の一つからダイレクト試飲させてもらうことになりました。
今回頂いたのは、1918年、1949年、1962年のコニャックがブレンドされた古樽。最も古いもので100年前の原酒がブレンドされています。第一次世界大戦時代です。
この頃の原酒は戦争の影響を避けるため、当時は見つかりにくい場所に移動され、その過程でいくつかの樽は正確な年代が分からなくなってしまった樽もあるようです。
今回、特別に自分の手で取り出せてもらいました。
うひゃー><
さすがの100年。
熟成庫の中は寒く、液体の温度も10度くらいで冷たいのですが、十分な程にアロマを楽しみ、歴史を感じることができました。
実はこの後グラスに余ったコニャックを持ち帰って、ペットボトルに入れてもらい、少し温まった状態で頂いたのですが、これまた最高でした。(帰国する前に飲み干してしまった・・・)
ここに置いている樽はかなりの古樽ばかりでこれ以上ほとんど熟成が進むことはありません。もっともっと年数が経てば、これ以上樽の成分が出るのを防ぐためにDemijohn(デミジョン):または Bonbonne(ボンボンヌ) と呼ばれる瓶に入れられて静かに時が経つのを待ちます。
ベストな状態を保ったままこれから何年もこのパラディセラーの中で眠り続けます。
このパラディセラーでの体験は今回のコニャック滞在の中でもなかなかエキサイティングな時間となりました。
ランチの後はセラーマスターとマンツーマン2時間
パラディセラーで楽しいひと時を過ごした後は、近くのレストランにてランチをば。
コニャックとは打って変わって今日は珍しくランチビールを頂きます。ここしばらくコニャックかワインしか飲んでなかったので新鮮です。
比較的胃に優しいお魚料理。
相変わらず濃いけど、やっぱりフランスの料理って基本どこでもめちゃめちゃ美味しいです・・・。
ゆっくりと1時間半ほどランチを楽しんだ後、午後からはABK6の現セラーマスター兼マスターブレンダーのイザベルさんとのマンツーマン対談およびBrandy Daddyオリジナルブレンドコニャック作りの時間!!
このイザベルさんがまたかわいいキャラクターで・・・。
私のために2時間以上も時間を割いて頂いてほんと感謝です><
次の記事
→ABK6のマスターブレンダーとの貴重な2時間対話と10分で作ったオリジナルブレンドコニャック
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