ブランデー知識【上級編】

ボルドリ地区のプラトーとペイ・バと呼ばれる区分け

2026年10月14日

今回はコニャックの生産域のひとつであるボルドリについて少し掘り下げてみましょう。私が実際にボルドリ地区の生産者「ジボアン」に訪れた際の話も織り交ぜています。

まずは基本のおさらいです。ご存じの通り(?)、コニャックは6つの生産域に分かれており、それぞれ特徴の異なる土壌で構成されています。

生産域総面積(ha)ブドウ畑の面積(ha)
グランド・シャンパーニュ34,70014,133
プティット・シャンパーニュ66,00015,796
ボルドリ12,5404,157
ファン・ボア349,80333,256
ボン・ボア372,0539,976
ボア・ゾルディネール260,0001,247

参考
→コニャック生産域 最強MAPはコチラ

この中でも最も面積の狭い生産域がボルドリです。ボルドリで生産されるコニャックは特徴的でフローラルな香味を持つコニャックも多く、他の生産域にはない香味に魅力を感じる方も多いのではないでしょうか。私もボルドリコニャックが好きで、ボルドリ100%のコニャックを見つけると積極的に試すようにしています。

生産域ごとに異なる土壌と個性

各生産域の土壌は、それぞれのオー・ド・ヴィーの個性を形づくる重要な要素です。

グランド・シャンパーニュとプティット・シャンパーニュは、白亜紀に形成された柔らかい石灰岩を基盤とし、その上に比較的浅い粘土石灰質土壌が広がっています。両者の土壌はよく似ていますが、プティット・シャンパーニュでは石灰岩層がやや薄いという違いがあります。

一方、ボルドリは珪質粘土土壌を特徴とし、石灰岩の脱炭酸によって生じた火打石(フリント)も見られます。この土壌構成が、ほかの生産域とは異なる風味の形成に関係しています。

ファン・ボワでは、「グロワ(groies)」と呼ばれる赤色の岩石を含む粘土石灰質土壌が広く見られます。また、ジュラ紀の硬い石灰岩や粘土質土壌も分布しています。

ボン・ボワとボワ・ゾルディネールでは、沿岸部や谷間、ブドウ畑の南部を中心に砂質土壌が広がっています。これらの砂は、中央高地(Massif Central)から運ばれた物質の浸食によって形成されたものです。

こうした土壌の違いが、生産域ごとの個性を生み出しています。その中でもボルドリは、丸みのある味わい、花を思わせる香り、甘み、そしてスミレを連想させる独特のアロマによって際立っています。

ボルドリの熟成特性

ボルドリのオー・ド・ヴィーには、ほかの生産域とは異なる熟成特性があるとされています。特に、グランド・シャンパーニュなどのシャンパーニュ系生産域と比較すると、比較的短い期間で熟成のピークに達する傾向があります。ボルドリのオー・ド・ヴィーは、一般的に30〜35年を超えてオーク樽で熟成させ続けることが難しくなります。

熟成が長期化すると、アルコール度数が40%を下回る可能性があり、樽内での酸化も過度に進みやすくなります。その結果、ボルドリの大きな特徴である花のような香りが失われるおそれがあります。

この熟成特性を端的に表すものとして、10年熟成のボルドリは、アロマの品質という観点で20年熟成のグランド・シャンパーニュに匹敵するともいわれています。

ジボアンの熟成庫

ただし、これはあくまでも熟成特性を比較する際の一つの見方です。実際の熟成速度は、セラーの温度や湿度、樽の状態など、さまざまな条件によって変化します。それでも、珪質粘土土壌や火打石に由来する独特の個性と、比較的早い段階で成熟したアロマを獲得する傾向は、ボルドリを理解するうえで重要なポイントです。

コニャックの生産域の中で最も小さいボルドリは、繊細さと豊かな香りを備えたコニャックを生み出す産地として、愛好家から特別な評価を受けています。

ボルドリ内部の更に細かい区画(プラトーとペイ・バ)

ボルドリは小規模な生産域ですが、その内部には土壌や地形の異なる複数の区画があります。

主要な区画として挙げられるのは、
「プラトー(Plateau)」
「ペイ・バ(Pays-Bas)」
「オー(Hauts)」
の3つです。

これらの区画は、ブドウ畑の面積や土壌構成だけでなく、原酒の品質や市場での評価、取引上の位置づけも異なります。

この中でも特に需要の高いプラトーとペイ・バについてそれぞれの特徴を見ていきましょう。

プラトー、ペイ・バ、オートの地理的な違い

ペイ・バは、シャラント川沿いに広がり、ブリ付近まで続く広大な粘土質の平野です。

一方、オートはアンテーヌ川の左岸に位置する地域を指します。

これらに対してプラトーは、ボルドリの中でも標高が高い区画です。標高はおよそ80メートルに達し、ボルドリの中で最も有名で、需要の高いブドウ畑が集まっています。さらに、プラトーの南側、サントからコニャックへ向かう国道N141号線の右側には、道路とシャラント川の間に緩やかな斜面が広がっています。

この地域は主にグロワ土壌(粘土石灰質土壌)で構成されており、川との距離によってコニャックの品質が変化します。シャラント川沿いには、あまり知られていないものの、魅力的な領地が点在しています。

プラトー:最も評価されるボルドリの区画

プラトーは、国道N141号線付近から原産地呼称地域の北部にかけて広がる区画です。シェラック、ルザック=サン=タンドレ、サン=ローラン、サン=シュルピスなどのコミューンが含まれます。ボルドリの中で最も広い面積を占めるとともに、最も高い需要を持つ地域でもあります。

その理由の一つは、大手コニャックメゾンとの歴史的な取引関係にあります。プラトーの原酒は、ペイ・バなどのほかの区画の原酒と比較して、商業的に高い需要を持ってきました。

また、プラトーの土壌構成も重要です。粘土が比較的少なく、石灰岩とシリカを含む土壌が広がっており、この組み合わせがブドウ栽培に適した環境を生み出しています。土壌の構成と商業的な背景が重なり、プラトーはボルドリを代表する区画として広く認識されています。

ペイ・バ:深い粘土質土壌が生む個性

ペイ・バはシャラント川沿いに広がり、標高の低い位置にある平野です。シャラント川よりも標高が低いため、万が一シャラント川が大きな氾濫を起こした場合は水に浸かる可能性が高い地域でもあります。

ペイ・バはボルドリ地区だけでなく、一部は隣のファン・ボアエリアまで同じような土壌が広がっています。

昨今、日本でも有名になってきたボルドリの生産者「ジボアン(giboin)」もペイ・バ地域の生産者です。

ジボアンのブドウ畑

この地域の土壌は、黒っぽい粘土を主体としています。地表から約60〜70センチメートルの粘土層、その下に約30センチメートルの石膏層があり、さらに粘土層と石膏層が続く構造になっています。

ジボアンに訪れた際に実際に畑の中に足を踏み入れさせて頂きましたが、やはり全体的に非常に柔らかく「ネチョ」っとした粘土層が深いため、ブドウの樹が水を得ることは容易ではありません。そのためブドウは水分を得るために深くまで根を張ります。私がジボアンに訪れた際は、15m近く根を張る場合もあると言っていました。

畑を案内して頂いたジボアンのピエール=ルイ氏

このような粘土層の環境は、ブドウの生育に大きな影響を与えます。水分が不足すると、果実の粒は小さくなる一方、果汁の濃度が高まります。そのため樹にとっては厳しい環境ですが、濃縮された果汁は、蒸留後の原酒の品質に好ましい影響を与える可能性があります。

ブドウの樹の育成にはデメリットも多いペイ・バですが、そのメリットを上手く活かし、凝縮されたブドウの果実が育った場合は最高のボルドリコニャックとなる可能性を秘めています。

香味の面では、ペイ・バのコニャックは、ポメロ(ザボン)、オレンジ、砂糖漬けの果物などを思わせる柑橘系の香りが特徴です。

一方、プラトーなどの区画では、スミレやアイリスといった花の香りがより際立つ傾向があります。この違いは、同じボルドリの中でも、土壌や水分条件によって香味の方向性が変化することを示しています。

ペイ・バの風味と熟成

コニャックの北側に位置するペイ・バは、粘土と泥灰土を主体とする地域です。アンテーヌ川とソロワール川というシャラント川の支流がこの地域を横切り、冬は湿潤で夏は乾燥する環境が形成されています。

また、深い石膏層を含む土壌は、主要品種であるユニ・ブランにとって特徴的な生育環境となっています。

この地域で育ったブドウから造られるワインは、レモンのような爽やかさと、バナナやグレープフルーツなどのトロピカルフルーツの香りを持ちます。蒸留によって得られるブランデーは、パイナップル、オレンジ、マンダリンなどを思わせる、甘みのある果実主体の風味を示します。口中に長く残る余韻と、熟成に適した酸味も特徴です。

オーク樽で熟成させると、比較的早い段階から丸みと複雑さが加わり、やがて砂糖漬けの果物やプルーンを思わせる風味へと変化していきます。

フィロキセラとペイ・バの歴史

ペイ・バのブドウ栽培を理解するうえで、19世紀にヨーロッパのブドウ畑を襲ったフィロキセラの被害は重要です。

ペイ・バは粘土質で湿潤な土壌が多く、一般的にはブドウ栽培に適した土地とはいえませんでした。しかし、1875年から1914年にかけて、この地域のブドウ畑はフィロキセラの被害に対して比較的強い抵抗力を示したとされています。

冬季の洪水によって水が滞留すると、フィロキセラの生存が妨げられました。また、非常に緻密な粘土質土壌が、害虫の根への侵入や生存に影響を与えた可能性も指摘されています。そのため、フィロキセラによって被害を受けた地域から移住してきたブドウ栽培農家にとって、ペイ・バは新たな栽培地として魅力的に映りました。

19世紀には、こうした事情からペイ・バにブドウ畑が増え、現在もボルドリやボワ系(ファン・ボア)生産域のペイ・バ地区には多くのブドウ畑が残っています。

ただし、ペイ・バのすべてがボルドリに属するわけではありません。1909年には、この地域の一部がボワ系(ファン・ボア)の生産域に分類されました。地理的にも、土壌的にも、ペイ・バはボルドリとファン・ボワの双方にまたがる地域として理解する必要があります。

現在でもペイ・バは重要なブドウの生産地域ですが、その歴史は、ブドウ栽培に適した土地を選ぶという単純な話ではありません。むしろ、フィロキセラという危機が、従来は不向きと考えられていた土地の利用を促したという点に特徴があります。

まとめ

ボルドリは、コニャック地方で最も小さな生産域でありながら、独自の土壌や地形、そして長い歴史によって形成された個性豊かな産地です。台地や低地、高地といった地形の違いに加え、粘土質やフリントを含む土壌の特徴が、この地域のテロワールを形づくっています。

ボルドリを理解するためには、生産域全体の特徴だけでなく、その内部に広がる地形や土壌の違いにも目を向ける必要があると感じます。限られた面積のなかに存在する多様な環境を知ることが、ボルドリという産地、そしてそこから生まれるコニャックの個性を理解することにつながることでしょう。

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