皆さんの中にも、ある特定のボトルだけ内部に水滴が発生するものがありませんでしょうか?
所謂、ボトル内に汗をかくという状況です。
私が保有するコニャックの中にも、同じ保存環境ににあるにも関わらずある特定のボトルだけ水滴が発生するものがあります。このボトル内部の水滴問題は以前から気になっていたものの、とある方からもご相談頂いたことがきっかけでより一層気になるようになってきました。また、コニャックに限らず、ウイスキーや他のお酒でも同様の現象発生したという話を何回か聞いたことがあります。

色々調べたりもしたのですが、その水滴の正確な正体と原因が分からないままだったのですが、今回はできる限り「多分これ」という回答を推測し、解決策を導いていきましょう。
途中の検証内容など読むのなげ~よという方は最後の「まとめ」だけ見て頂いても構いません。
どのような現象なのか?
実際に水滴が発生しているボトルの状態はこのようなものです。

私の場合、このコニャックCABANNE Lot58(割と高かったのでショック)や、ジャンリュックパスケ、オウデモーレン XOなどのボトルに水滴が発生します。水滴が発生する現象をまとめると下記のような状況です。
- 同じ保管環境だけど、ある特定のボトルだけ発生する
- 中身のコニャックは加水・無加水関係なく水滴が発生する
- 未開栓でも水滴が発生する
- 液体が残っていれば残量に関係なく発生する
- 一度水滴をふき取っても数時間後にはまた水滴が発生する
水滴が発生したボトルに対し、下記の方法のいずれかを取ると発生しませんでした。
- 別のボトルに移し替える
- 除湿エアコンで21℃くらいまで室温(と湿度)を下げる
水滴の正体は何なのか?
コニャックのボトル内壁に発生する水滴の正体は、液体そのものが蒸発して生成されたものではなく、ボトル内の空気中の水蒸気がガラスの内壁で凝結したものと考えられます。
ボトル内の空気には、製造・充填時にわずかに含まれる水分や、液体自体から蒸発する水蒸気が存在します。瓶のガラス内壁が温度差により冷えると、この空気中の水蒸気が飽和し、液体として凝結します。したがって、水滴の大部分は空気由来の水分です。
前提:なぜボトル内壁に水滴ができるのか
瓶の内壁に水滴(結露)ができるには、次の3つの条件がそろう必要があります。
- 空気中に水蒸気が存在する
- 瓶の内壁温度が露点温度以下に下がる
- 凝結した水分が逃げ場なく付着できる面がある
このうち、特に重要なのが「水蒸気の供給源」です。
ケース①:中身が入っているボトルの場合
中にコニャックが入っている状態では、瓶の内空間には常にアルコール蒸気と水蒸気の混合気体が存在します。
- コニャックは約40%のエタノールを含み、残りは水です。
- 液面からは常に水とエタノールが気化しています。
- ボトルの口から外気が流入し、外気中の湿気(H₂O)もボトル内に入ります(栓する前も同様)。
このため、内部の空気は「水分をある程度含んだ湿った空気」になります。
その状態で、室温変化などにより瓶が急に冷やされると、露点を下回って結露が発生します。
ケース②:中身が空のボトルの場合
一方、中身が完全に空になったボトルでは、
内部の水蒸気源はほとんど存在しません。
- コニャック液体が蒸発して供給される水蒸気がない
- 栓をしていれば、外気の湿気もほぼ入らない
- 栓を外しておけば外気中の水蒸気は入るが、ボトル内温度と外気温がほぼ同じなので、露点を下回ることは少ない
そのため、水滴は発生しにくくなります。
ただし、「完全に空」とはいっても、実際には以下の要因で微小な水滴が生じる場合はあります。
● (1) 内壁に残留したアルコール・水分がある場合
洗浄後にわずかでも残った水分が、外気温との差で凝結することがあります。
● (2) 冷えたガラス瓶を湿った空気中に置いた場合
たとえば冷暗所でボトルが冷えた状態で、湿度の高い部屋に移動させると、
外気の水蒸気が内壁側(開口部付近)で凝結する可能性があります。
この場合、瓶の内側よりも外側での結露が一般的です。
水滴発生の原因は中身の液体か?ボトルそのものか?
結論として、この水滴問題はボトルの中身のコニャック(お酒)ではなく、ボトルそのものに問題があるという回答に至りました。
大きな理由としては2つあります。
まず1つ目に、水滴が発生するコニャックを別のボトルに移し替えると全く発生しなかったことです。
2つ目にとあるコニャック生産者が同じ問題に悩んでいたところ、グラスに何かしらの問題があるという結論に至った話を直接聞いたからです。
この2つ目の理由についてもう少し掘り下げてみましょう。このとある生産者とは私も仲良くさせて頂いているコニャック生産者の「ジャンリュックパスケ」です。彼らが詰めたとある時期以降のロットのコニャックは全て同じ現象が発生する事があり、長年原因の特定に悩んでいたそうです。以前はその現象が発生していなかった事と、ボトルの一部を変更したタイミングで水滴現象が発生するようになり、もしかしてボトルに原因があるのでは?との推測に至ったという流れです。
ボトルの何が原因なのか?
結論として最も有力な原因は、ボトルのガラスに含まれる「ナトリウム」の含有量です。
これは先日2025/9/25に私が実際にパスケを訪問した際にAmyさんから聞いた話なのですが、パスケがボトルメーカーに確認したところ「Sodium Content(ナトリウム)の量に問題がある可能性がある」という回答を得たという事で、その話を前提にした考察です。あくまでもボトルメーカー側の答えと、パスケ側の経験則に基づいた内容なので、推測の領域を出ない事はご了承下さい。もちろん根拠が乏しい部分もあると思いますので「こうかもしれない」くらいの感覚で見て頂ければ幸いです。

↑同じくパスケの熟成庫で水滴が発生しているロットのボトル
なぜナトリウム(Na)が問題になるのか
※ここからは一部AIによる検証結果を含みます。
ガラスの組成
まずはガラスの組成についてみていきましょう。
瓶用ガラス(ソーダ石灰ガラス)には通常 SiO₂(ガラス骨格)に加えて Na₂O(酸化ナトリウム)や CaO(酸化カルシウム) 等が含まれます。Na₂O(酸化ナトリウム) はガラスの成形を容易にする働きがありますが、表面の化学的安定性をわずかに低下させる側面もあります。
Na⁺溶出
次に着目するのはガラス表面でのNa⁺(ナトリウムイオン)溶出です。
ガラス表面の ≡Si–O–Na 結合が水や微量の酸性成分と反応して崩れ、次のような反応が進行し得ます(模式式):
≡Si–O–Na+H₂O → ≡Si–OH+Na⁺+OH⁻
結果として表面にシラノール基(≡Si–OH)や微量のアルカリ(NaOH様)の局所層ができます。
※シラノール基:ケイ素原子(Si)にヒドロキシ基(-OH)が結合した官能基(Si-OH)で、ガラス表面のシラノール基(Si-OH)は、ガラスの親水性(水になじみやすい性質)や表面処理に影響する重要な官能基です。シラノール基の存在は、水滴がガラス表面に広がるか弾かれるかに影響し、表面の汚れや他の化学物質との結合に関わるため、ガラス製品の親水性を持続させるための表面処理にも利用されます。
凝結が目立つ
シラノール基やNa塩は極性が高く親水性が強いため、表面が「水を引き寄せる」性質になります。
これにより、同一の内部空気条件でもナトリウム含有が高いボトルだけに凝結が目立つことになります。
長期的変化(推測)
繰り返しの溶出・再吸着で薄い「多孔性のシリカゲル様層」ができ、吸湿性がさらに増す可能性があります。
注:上記はガラス表面化学の一般論に基づく説明です。個別ボトルのNa濃度や溶出速度はICP等の分析で確認しないと確定できません(ここは推測の余地あり)
結露(凝結)が起こる物理条件
結露が生じるかは表面温度と内部空気の露点の関係で決まります。露点は「その温度で空気中の水蒸気が飽和して液化する温度」を示します。例を示します(Magnus式により計算):
室温 25℃、相対湿度 65% → 露点 約 17.95℃
室温 21℃、相対湿度 40% → 露点 約 6.88℃
※計算は Magnus 式を使用。詳細は省略しますが、上記数値は物理的根拠に基づいた実用的な指標です。
もし瓶内壁や瓶内部の局所温度が露点以下になれば凝結します。25℃・65% の環境では露点が約 18℃なので、瓶の一部が 18℃ 以下になれば結露し得ます。一方、21℃で湿度を下げて露点を約 7℃まで下げれば、瓶内部がその温度まで冷えない限り結露は起こりません。これが「除湿エアコンで21℃にしたら水滴が出なくなった」理由です(後述
注ぐたびにコニャックが薄まるのか?
ここで発生する懸念は「注ぐたびに内壁の水滴が混ざって徐々に希釈されるのでは?」ということです。その懸念に対しては現実的に「香味が明瞭に薄まる」レベルではないという結論に至ります。
下記の通り前提の数値は仮定ですが、現実的な上限シナリオを計算して影響の大きさを確認します。
前提:
- ボトル容量=700mL(一般的な洋酒瓶)
- 初期アルコール度数=40%
- 注ぐ頻度=週3回(年156回)
- 期間=10年→総注次数=156×10=1560回
実際は1560回も注ぐとボトル内は空になってしまいますが、まぁそこは仮定の数値ということで・・・。実際には注がなくても「水滴とコニャックが混ざる+毎回栓を開ける」という過程で話を進めていきます。実際に注ぐとその度に中の容量が変わるので条件も変わりますが、そこまで検証すると大変なことになるので、容量は変わらないものとして考えて頂ければ幸いです。
以下、1回当たりの「内壁から落ちる水滴量」を 3つのケースで仮定し比較します(1mg、10mg、100mg)。1mg = 0.001g として、密度 1g/mL を仮定しmL換算します。
計算手順
- 総追加質量(g)=(1回あたりmg) ×(総注次数 1560)÷1000
- 総追加体積(mL)≒総追加質量(g)(密度1 g/mL仮定)
- 最終総液量(mL)=700+総追加体積
- 最終アルコール度数(%)=280.0(エタノール量 mL)÷最終総液量×100
- 初期40.0%との差を計算
ケース別結果(ケースA:1 mg / 回)
- 総追加質量=1mg×1560 = 1,560mg=1,560÷1000=1.56g
- 総追加体積≒1.56 mL
- 最終総液量=700+1.56=701.56mL
- 最終アルコール度数=280.0÷701.56×100= 39.9110553623%(小数第6位四捨五入で 39.9111%)
- 差=40.0000−39.911055...=0.08894%(約 0.09% の低下)
希釈の影響度:1回あたり1mg(非常に微小な量)の水滴量の場合、10年でのアルコール度数低下は約 0.09%。風味やアルコール度の変化としてはほとんど無視できるレベルです。
ケース別結果(ケースB:10 mg / 回)
- 総追加質量= 10 mg×1560=15,600mg=15,600÷1000=15.6g
- 総追加体積≒15.6mL
- 最終総液量=700+15.6=715.6mL
- 最終アルコール度数=280.0÷715.6×100=39.1280044718%(約39.1280%)
- 差=40.0000−39.128004...=0.8719955%(約 0.87% の低下)
希釈の影響度:1回あたりの水滴量が10mgなら、10年で約0.87%のアルコール度数低下。人間の味覚で明確に「薄くなった」と感じるかは個人差ありますが、わずかに変化を感じうる可能性があります。ただし、1回あたり10mgが毎回実際に混入するというのは保守的(やや大げさ)な仮定です。
ケース別結果(ケースB:10 mg / 回)
- 総追加質量=100mg×1560=156,000mg=156,000÷1000=156.0g
- 総追加体積≒156.0mL
- 最終総液量=700+156.0=856.0mL
- 最終アルコール度数=280.0÷856.0×100=32.7102803738%(約 32.7103%)
- 差 = 40.0000 − 32.710280... = 7.2897196%(約 7.29% の低下)
希釈の影響度:1回あたり100mg(0.1g=0.1mL)の水滴が混ざるというのは非常に大きな量です。これが毎回混入するなら10年でアルコール度数が約 7.3% も下がり、明瞭に「薄くなった」と感じます。しかし日常的なボトル内の凝結滴が毎回この程度落ちるというのは現実的ではありません。100mg/回は過大見積りです。
注ぐたびにコニャックが薄まるのかの結論
現実的な水滴量が ごく微量(1mg〜数 mg/回) の範囲であれば、10年・週3回でもアルコール度数の低下はごく僅か(0.01〜0.1%程度) で、風味の希釈として体感されることはほとんどありません。
もし水滴量が10mg/回程度 なら、10年で約 0.9%の低下が見込まれ、僅かな変化を感じる可能性があります。
100mg/回程度 の水滴が毎回混入するなら影響は大きく現実的に問題ですが、通常の結露現象で毎回これだけ水滴が付着することはまずあり得ません。
「開栓後5〜10年」保存した場合の影響
- 短期〜中期(数ヶ月〜数年):ナトリウム溶出が液体全体へ拡散して風味を変えるほどにはならない可能性が極めて高いです。前節の希釈計算と合わせると、味覚的に検出できる変化はほとんど生じません。
- 長期(数年〜10年):理論的にはナトリウム由来の微量アルカリが酸性成分や一部エステルと反応(加水分解)する可能性はありますが、コニャックの高アルコール環境と低水相では反応速度は非常に遅いため、年単位でも顕著な変化を起こすには限定的です。
- より大きなリスク要因は 栓(コルク)劣化による酸化 や ボトル密閉性の低下 です。これらは香味に対してはるかに影響度が高い項目です。
結論として、開栓後5〜10年の通常の保存で「水滴発生そのもの」による風味劣化はほぼ無視できるというのが科学的な見立てです。ただし極端な条件(高Naガラス+高湿度+温度変動+長期)では微小な影響が累積する可能性は否定できません(ここは推測)。
除湿で水滴が出なくなった理由
実際に「除湿エアコンを入れて室温を約21℃にしたら水滴が発生しなくなった」という経験は、前述の露点理論で説明できます。
- 除湿機能により室内の絶対湿度(空気中の水蒸気量)が低下する。
- これにより露点温度が大幅に下がる(例:21℃・湿度40%→露点約 6.9℃)。
- 瓶の内壁が通常 6.9℃まで冷えることはまずないため、空気は飽和しない=凝結しない。
- 表面がNaによって親水化していたとしても、そもそも凝結条件(露点以下)にならなければ水は付かないため、水滴は発生しません。
つまり、除湿は「原因(表面親水化)を消す」のではなく「凝結のための物理条件(高い相対湿度)を取り除く」ことで現象を根本的に抑止しています。
ボトル内の水滴に対する現実的な確認方法と対策
確認(原因の特定)
- 別瓶へ移し替え:移し替えて水滴が消えればボトル起因が確定。
- 瓶内壁の洗浄液を採取してICP分析でNa濃度測定(専門機関)。→ 決定的な証拠。
- 顕微鏡やUV観察で微細な薄膜や曇りを確認(表面残留物を視覚化)。
ここまでやれば確実に原因は特定できるかもしれませんが、2つめ以降は専門機関での分析が必要になるので、一般家庭やお店などで実証するのはなかなか難しいですね・・・。
対策
- 問題ボトルは使用を避け、別の乾燥・低Naの容器に移して保存する。
- 保管環境を「温度安定+低湿(例:21℃・湿度40% 前後)」にする。実際に効果が出る。
- 製造者にガラス組成(Na₂O比)や製造ロット・洗浄工程を問い合わせ、ロット交換や説明を受ける。
- 再充填・再利用時は十分高温での乾燥を行う(専門業者推奨)。
- 長期保存には低アルカリ(例:ホウケイ酸ガラス)の容器を検討する(推奨だがコストや入手性の問題あり)。
ボトルの内部に発生する水滴まとめ
ちょっと長くなってしまいましたので、今回の内容を端的にまとめます。途中の検証内容などはすっ飛ばしてこのまとめだけ見る形でもOKです。
- コニャック瓶内の「特定ボトルだけに現れる水滴」は、空気中の水蒸気が瓶内壁に凝結したものである。
- ガラス中のナトリウム(Na)が表面で溶出すると、シラノール基や微量のアルカリ塩が形成され、表面が親水化して凝結を促す。
- ナトリウム含有が高いボトルだけに凝結が目立つ。
- 実際にコニャックの風味やアルコール度に与える影響は通常は極めて小さい。長期(5〜10年)でも、現実的条件下で水滴由来の希釈や化学的劣化による変化はほとんど起きない。
- 「除湿エアコンで室温21℃にしたら水滴が出なくなった」事実は、露点低下により凝結条件が満たされなくなったためであり、理屈として合っている。
- 専用セラーでも持たない限り室温21℃以下湿度40%以下を常に保つには現実的に難しい。
- 厳密に分析するのであればICP 等で瓶の表面や洗浄液を分析するのが確実である(ここは専門機関による測定が必要)。
- 水滴が発生したボトルで問題を回避するにはボトルを移し替えるのが一番効果がある。
この記事の内容はあくまでも推測の域をでませんが、何かしら同じ疑問を持つ方の解決策のきっかけの一つになれれば幸いです。
逆にもし専門家の方でこの記事をご覧になっていらっしゃいましたら「実際はこうなんじゃないか」「これは違うかも」「合ってるかも」といったご意見を頂けますととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。