滞在2日目その2
2019年12月4日(水)
オルドノーコニャックへの訪問を終え、午後からは大手コニャック生産者であるマーテル(Martell)に訪問します。
マーテルはコニャック市街地、シャラント川の近くに本部を構えています。
本部・・・というよりもここは主に来賓用の建物となっており、ここには実際の熟成庫や蒸留所はありません。
大きな建物の1階部分にはマーテルのブティックがあります。
そして最上階はコニャックの景色を360度見まわせる展望スペースとなっており、夏季には展望バー「INDIGO」として多くのカクテルを振る舞うパーティースペースとなっています。
この大きな建物の奥にはもともとマーテルの熟成庫がありましたが、今は全て改装されで、マーテルの歴史や特徴、その他諸々を学ぶことができるミュージアム的なスペースとなっています。マーテルブランディングのための総合施設といってよいでしょう。まだ2階と3階は改装途中で、2020年中くらいには完成するそう。
アンバサダーと一緒に回るマーテル
今回のマーテル訪問に関しては、マーテルの製造工程を見たり、生産者と直接話したりというよりも、現マーテルのブランドアンバサダーであるAlexandre氏と一緒に楽しみながらマーテルの歴史やミュージアムを回り、テイスティングを楽しむ回となります。
観光要素多めです。
※Chiristoph氏の計らいにより特別にアンバサダーに個別案内して頂くことになりました。
Alexandre氏のインスタグラムはコチラ
@alex.martellcognac
コニャック地方を一望!360度の絶景
このマーテルの最上階の展望ラウンジ「INDIGO」はコニャック市街地の中で最も高い位置にある場所のつです。
ここから見る景色はまさに絶景。
この日は普段解放していないのですが、特別に開放してもらったため貸し切り展望でした!
しかも快晴で超絶景!
こうやって高いところから見ると、コニャックおよびその周辺の町はまさにコニャック産業のための農業・工業地域だということを再認識させられます。
ブドウ畑や蒸留所はもちろん、樽製造からボトル工場、流通センターまでコニャックの生産に必要なものが全て一望できる範囲に収まっていることが良く分かります。
マーテルミュージアムへ
建物を奥に進んでいくと、そこはもともと熟成庫だった場所を改装して作られたマーテルのミュージアム。
こちらは観光客向けのドでかい施設です。
マーテルの歴史はもちろん、マーテルの特徴的な蒸留方法やそれによるオードヴィーの比較や、熟成の段階による香りの違いなど、様々なことを楽しむことができます。コニャックやマーテルの事を知る上では大変有意義な施設です。
ちなみに、マーテルの創始者であるジャン・マーテルはもともとスパイスや剣などを売る商人であり、最初からコニャックを作っていたわけではありません。その中にインドから輸入していた青色のスパイスがあるのですが、それが現在のマーテルのシンボルカラーである「インディゴ・ブルー」の元となったそうです。なのでバーの名前も「インディゴ」
↑は実際に昔使われていたスタンプ。海外に樽を出荷する前にこのスタンプで樽に焼き印を入れていました。デザインも昔のまま。
ちなみに、このマーテルのシンボルとなっている鳥とハンマーですが、鳥のほうは「アマツバメ」です。英語ではSwift、フランス語では Martinet(マルティネット)と呼び、その発音がMartellと似ていることと、大陸を超えて世界を駆け巡る様子を見てこのツバメのシンボルにすることにしたそうです。ハンマーも同じ理由。フランス語でMarteauと呼び、 Martell と発音が近いことと、樽を作る様子からこのハンマーのシンボルが採用されたそう。3つあるのはマーテルの創始時代の重要な3人を表しています。
特に彼が強調していたのはやはりマーテルコニャックを作り出す最大の特徴となる次の4点。
マーテルの蒸留所と地域
マーテルのコニャックは基本的にボルドリ主体 。その他にはファンボアとグランドシャンパーニュを使用する。
自社が所有する蒸留所はボルドリ地区に1か所、ファンボア地区に1か所。
マーテルの畑と契約農家
マーテルのコニャックはボルドリを主体としており、自社で所有する畑は合計で435ヘクタール。
ボルドリに200ヘクタール、ファンボアに200ha、グランドシャンパーニュに35ヘクタール。
しかしこの435ヘクタールの畑から取れるのはマーテルが生産するコニャックの4%にしか満たない。あとは全て契約農家から提供されるワインや原酒を使用しています。
マーテルには合計約1200の契約農家があります。
内訳は800が蒸留前のワインを提供するワイン生産者。そのワインはマーテル本社、または特定の契約蒸留家にて蒸留されマーテルのオードヴィーとなります。そして残り400が蒸留後のオードヴィーを提供する蒸留家です。
ちなみに以前伺ったレミーマルタンの契約農家数も合計1200。ヘネシーはもっと多い・・・。
また、別記事で詳しく書きますが、クルボアジェは合計700の契約農家があります。
オリを使わない蒸留
マーテルは蒸留時にワインのオリを取り除いて蒸留する方法をとっています。(いわゆるマーテル式)
よりクリアで軽やかなボディ感のあるコニャックに仕上げるためです。また、実際にコニャックとなる液体が出来上がる2回目の蒸留(bonne chauffe)の際の最初の数リットルの液体を、ワインに戻して再度1回目の蒸留に使用することが特徴的です。(ワインに戻すことによって、初留と再留を再度行うことになり、よりクリアなオードヴィーとなる)
オーク樽の種類
マーテルはFin Grain Oak・・・ つまり木の繊維の隙間が締まっている、いわゆるトロンセ産オークしか使わない。
なお、樽の種類には大きくトロンセの森で取れるトロンセオーク=「Fin Grain(繊維の隙間が締まっている)」とリムーザンの森で取れるリムーザンオークに代表される「Gross Grain(繊維の隙間が粗い)」2種類あり、マーテルは基本的に前者の Fin Grainタイプのオークを熟成樽として使用しています。その方が抽出されるタンニンが少なく、よりマーテルの特徴にあったクリアなコニャックに仕上がるからです。
この辺の樽の特徴については、樽工場に行ってきた際の記事で詳しく書こうと思います。
そしてこちら↑は昔実際に使われていてたChai du Marriageと呼ばれていた熟成庫・・・というか最終ブレンディングが行われていた場所。かつては大きな部屋で最終ブレンディングされたものが樽に詰められ、奥の扉から出荷されていました。
現在は展示用のためだけの場所なので、実際の熟成は行われていませんが、すごく開放感のある空間に圧倒されます。
2階部分に熟成が完了したコニャックを保管する大樽(トノー)があり、そこから直接下の段へコニャックを流し込めるように設計された機能的な空間です。
現在は使用されていませんが、樽が劣化しないように若干量のコニャックが樽の中に入っているそうです。
ちなみにこちら↑は実際に出荷に使われていた樽。周りにに巻かれているのはバラの木で、樽を転がしやすくするために巻かれていました。現在の樽は機械で移動させ、人が転がして移動させることはありませんで、このようなものが巻かれることはありませんが、熟成庫にある古い樽だとまだ巻かれたままのやつが残ってたりしますね。
マーテルテイスティング会
一通りマーテルミュージアムを案内してもらった後はお決まりのテイスティング会。1階のブティックの中で行いました。
今回テイスティングとして用意してもらったのは次の3つ
コルドンブルーとXOは日本でも定番ですが、ブルースウィフトはあまり知られていないかもしれません。ブルースウィフトは現在アメリカで爆発的な人気を誇っているマーテルの商品です。一応日本でも並行輸入品が入手可能です。
中身としてはマーテルVSOPのフィニッシュにバーボンの古樽を使用したスピリッツです。"スピリッツ"と書いたのには訳があり、BNICの規定的に厳密にいうと「コニャック」ではないので、ラベルにCOGNACの表記はありません。
ポイント
フレンチオーク以外の樽を使ったフィニッシュに関して
2019年12月時点でのBNIC(フランスコニャック協会)の規定としては、マーテル ブルースウィフトのバーボン古樽ように他のスピリッツで使用済みの樽を使ってフィニッシュをかけた場合はコニャックとは認められず、フレンチオーク以外でも未使用の新樽でのフィニッシュであればコニャックとしてはOKだそうです。
なのでブルースウィフトはコニャックとしては不認可で、Cognac Parkのミズナラ樽フィニッシュは今のところコニャックとして認可が出ている模様。ただし、フィニッシュ期間の規定は今のところ曖昧で、最大でも1年を目安としているらしい。
現時点ではまだブレの多い規定であり、今後この規定は変更される可能性も無きにしも非ずといったところです。
ブルースウィフト、意外と美味しいんだよね・・・。
もともと味がクリアなマーテルのコニャックにバーボン樽特有の焦げの強い樽感が加わったことで、コシがでます。簡単にいうとVSOPに樽香とタンニンを強くした感じです。
一見マーテルの特徴とは相反するフィニッシュですが、味わった瞬間のクリアさと、後味のバーボン感、バニラ感がちょうど良いのかも。
あとは定番のマーテルコルドンブルーとマーテルXO。
マーテルXOに関してはこちらの大手コニャックXO比較検証でも触れていますが、個人的には好きな部類。
なお、コルドンブルーとマーテルXOの大きな違いは原産地の比率と熟成年数です。
コルドンブルーはボルドリ比率が多め。マーテルXOはグランドシャンパーニュ比率が多めです。
また熟成年数もマーテルXOの方がやや長め。
詳細な比率や内訳は非公開のため不明です。というか本当にマーテルの現9代目マスターブレンダーのみ知るレシピだそうで、アンバサダーの方もマーテル上層部も本当に知らないようでした。
表記上のスペックとしてはマーテルXOの方が上位ということになります。
改めて飲み比べてみると違いが分かります。
う~ん、何かXOや自宅にあるマーテルシャンテルーパースペクティブよりもコルドンブルーの方がこの日は美味しく感じたかもしんない。まぁその時の気分か・・・。
その他、ここでしか買えないオリジナルボトルなども売っていましたが、今回はパス。
マーテルの新作XXO規格「マーテル シャンテルーXXO」も販売されていました。
参考記事
ついに出たXXO規格のマーテル新作「マーテル シャンテルーXXO」
「これテイスティングできない?」と聞いたのですが、「ゴメン、これはちょっと・・・」とあえなく撃沈。ぐぬぬ・・・。
そんなこんなでマーテルの滞在時間は2時間半程。
終始Alexandre氏との会話が弾み、深く勉強するというよりも大手コニャックメーカーの規模ならではの純粋に楽しいマーテルタイムを過ごすことができました。
いざフランスコニャック協会本部へ
一通りマーテルを楽しんだ後は、コニャック中心部にあるBNIC(フランスコニャック協会)本部へ!
まさにコニャックの生産に関するあれこれを決めているコニャックの本拠地なのですが、実際にBNICの活動に関して色々伺ってみたかったのと、個人的に一つ文句を言うことが目的でした。
その文句とは・・・
と、長くなってしまったので、次の記事に移ります。
次の記事
BNIC(フランスコニャック協会)に突入 / 世界のコニャック輸出入事情
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