ブランデー知識【中級編】

【中級編】コニャックの蒸留方法:シャラント式 単式蒸留とは?

2015年7月8日

ブランデーの製造工程入門編の記事でブランデーの一般的な蒸留方法を紹介しました。今回はコニャックの蒸留方法に焦点を絞ってみます。

ブランデーの蒸留方法は生産地、メーカーによっても異なります。特にブランデーの最大生産地であるフランスの「コニャック」と「アルマニャック」はそれぞれで蒸留方法の基準が異なり、厳格に蒸留方法が管理されています。アルマニャックはまた別記事で紹介します。今回はコニャックのみに絞ってみてみましょう!

コニャック蒸留方法の規定

ご存じのとおり、そもそも「コニャック」とはフランスのコニャック地方で作られるブランデーで、フランスの国内法が定める様々な基準をクリアしたものが「コニャック」と名乗ることができます。生産地や使用されるブドウ、熟成年数など基準はいくつもありますが、そのうちの1つが蒸留方法です。

コニャック蒸留方法の基準は大きく以下の3つです。これは1936年に定められました。

  • 1. シャラント式蒸留器(単式蒸留器)による蒸留
  • 2. 直火での加熱
  • 3. 蒸留回数は2段階

1. シャラント式蒸留器(単式蒸留器)による蒸留

コニャックではシャラント式と呼ばれる単式蒸留器が使用されます。独特形をした釜で、上部がオリーブの実や玉ねぎのように膨らんだ形になっていて、その上が白鳥の首の様な曲管になり、その先が蛇管になってピープと呼ばれる冷却沿槽内を通ります。冷却装置を通ることで、蒸留された蒸気が再び液体に戻ります。

「シャラント式アランビック」と呼ばれることがありますが、アランビックとはアラビア語で「蒸留器」を意味する「 الأنبيق 」からきています。フランス語でalambicと言えば、コニャックの蒸留器を指します。

↓伝統的なシャラント式アランビック↓

ちなみに、アルマニャックでは単式蒸留器ではなく、半連続蒸留器が使用されます。アルマニャックの蒸留方法はまた別記事にて詳細を記載します。

2. 直火での加熱

コニャック蒸留に使用される単式蒸留器は蒸気熱などで加熱するのではなく、必ず直火で加熱し蒸留することが義務付けられています。

3. 蒸留回数は2段階

コニャックの蒸留では基本的には「初留×3回」→「再留×1回」という2段階が1セットとなります。

蒸留のもととなる白ワインは、コチラの記事にも書いているように、酸味が多く、アルコール度数の低い(8%ほど)白ワインです。 単式蒸留器を使用したコニャックの蒸留では必ず2段階の蒸留を行います。1回だけでの蒸留では不純物が取り除ききれないからです。

画像出典:http://www.cognac.fr/cognac/_es/modules/cognac_distillation/loader.html

1段階目の「初留:Premier Chauffe(プルミエショーフ) 」

初留では蒸留されて出てくる液体を順番に「テット」「ブルイ」「クー」という3種類の液体に分けています。「テット」は蒸留してすぐ出てくる液体で全体の約2%です。「クー」は蒸留の最後の方に出てくる液体で、これも全体の約2%です。

このテットとテールは精度も低く使用できない液体なので殆どは切り捨てますが、一部は2巡目の初留に再利用されます。

中間の「ブルイ」(平均アルコール度数27~30%)という少し白濁した液体をメインとして次の第2段階「再留」に使用します。

この初留は容器がいっぱいになるまで繰り返されます。原液タンクの容量は通常30ヘクトリットルで、張り込み量は約25ヘクリットル(=2500リットル)です。3回の初留で原液タンクが満タンになるので、この初留は基本的に3回が1セットです。

ただし大きな蒸留所などでは初留用に14,000リットルまで入る大型の容器を使用している所もあります。

2段階目の「再留:Bonne Chauffe(ボンヌショーフ)」

コニャックの規定ではこの再留に使用される原液タンクのサイズは30ヘクリットル(=3000リットル)を越えてはいけない決まりになっています。
※張り込み量は2500リットル

再留では初留×3回分でとれた「ブルイ」を再び釜に戻して直火で加熱し、再度蒸留されます。この2回目の蒸留を「ボンヌ・ショーフ(bonne chauffe)」と呼びます。

再留では4種類の液体に分かれます。
「テット」「クール」「スゴンド」「クー」です。

初留と同じく「テット」「クー」は取り除かれる事が多いです。(マーテルの場合はクーを取り除かない、とか例外もある。)

「スゴンド」は再留でアルコール度数が60%になった段階の液体の事です。(クール以降はアルコール度数が下がっていく)
この「スゴンド」は次回以降、次のコニャックの再留時に初留の「ブルイ」と併せて少量が再留されます。

蒸留後のコニャック熟成用の液体として使用されるのは「クール」の部分です。この時点でアルコール度数は約70%となります。コニャックの規定では蒸留時の最大アルコール度数は最大72%までと決められています。

言葉で説明するのが非常に難しく複雑な過程です。。。
何とか分かり安く図で説明すると以下の通りです。

↑クリックで拡大↑

この蒸留に要する時間はメーカーによっても違いますが、およそ初留が8~10時間、再留が10~14時間必要とされています。全体で約24時間要するのですが、ひと時も目を離ず、絶え間ない注意が必要です。

温度管理などは現在ほとんど機械で管理されていますが、ひと昔は人の手で行っていた時代はまさに芸術の域に達していますね。。。

なおこの2段階蒸留もコニャックのみの規定であり、半連続蒸留器を使用したアルマニャックでは蒸留回数は1段階となります。アルマニャックについてはまた別記事にて。

コニャック蒸留の流れをflashで解説したフランスコニャック事務局のページがありますので紹介します。
コチラ(flashなのでスマホでは見れないかもしれません・・・)

コニャック蒸留方法もメーカーにより若干の違いがある?

基本的なコニャックの蒸留方法は上記の通りですが、細かな製法や、各段階での容量等はメーカーによってちょっとずつ異なります。

例えば、コニャックで有名なヘネシー社は、火の温度を一定に保ちながらブルイやクールを抽出していきます。それと対してレミーマルタンは加熱温度を徐々に上げていく手法を取ります。

ヘネシーやレミーマルタンは蒸留に使用するワインの「オリ」を残したまま蒸留しますが、マーテルなどはオリを除去した状態で蒸留します。その方がよりクリアなオードヴィーに仕上がるからです。またマーテルは2回目の蒸留でできたスゴンドをブルイではなく初留のワインに混ぜて使用します。スゴンドをブルイに混ぜるのではなく、ワインに混ぜることにより、初留と再留の合計2回新たに蒸留されるため、よりクリアなオードヴィーができるからです。ただし、この蒸留方法は人によってはクリアすぎる(薄すぎる)と感じられることもあります。

しかしこれらは、それぞれのコニャックの方向性や特徴が決定づけるものですので、 どれが良い、どれが悪いということではありません。

これらはそれぞれ「ヘネシー式」、「レミーマルタン式」や「マーテル式」などと呼ばれており、各社のノウハウを生かした蒸留方法となります。他のコニャックメーカーやコニャック以外のブランデーメーカー(日本のブランデー等)もいずれかの方法を採用していることでしょう。ここでは全て紹介しきれませんが・・・。

まとめ:【中級編】コニャックの蒸留方法

長い文章となってしまいましたが、コニャックにおける蒸留方法のポイントをまとめると以下の通りです。

  • シャラント式蒸留器(単式蒸留器)を使用する
  • 直火での加熱が義務
  • 蒸留回数は以下の2段階で1セット
    1段階目:初留×3回
    2段階目:再留×1回
  • 再留により抽出された「クール」と呼ばれる液体が最終的に熟成樽に注がれ熟成される
  • 各社で細かな蒸留手法が異なる

最後に、コニャックの蒸留方法を解説した分かり安い動画があったので紹介しておきます。英語とフランス語のみですが、興味のある方は是非ご覧になってみて下さい。

以上、【中級編】コニャックの蒸留方法でした。マニアックな内容にお付き合い頂きありがとうございました。

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