ブランデー知識【中級編】

コニャック6つの産地(クリュ)は明確に定義できないし地図通りではない?

2016年10月20日

コニャックまめ知識中級編「コニャック地方のブドウ生産域による細かなランク付け」でコニャック地方における6つの産地について書きました。

しかし、実は実態としてこの6つの産地は明確にこの通りに土地の特徴が分かれているかと言えば、そうではありません。今回はコニャックの土地についてもう少し詳しく見ていきましょう。

まずはコニャックの産地(クリュ)おさらい

  • 1.グランド・シャンパーニュ(Grande Champagne)
  • 2.プティット.シャンパーニュ(Petite Champagne)
  • 3.ボルドリ(Borderies)
  • 4.ファン・ボア(Fins Bois)
  • 5.ボン・ボア(Bons Bois)
  • 6.ボア・ゾルディネール(Bois Ordinaires)

この中で一般的に最もよいとされているのはグランドシャンパーニュです。
34,703ヘクタールの土地のうち、50~60%が石灰質の土壌となっています。水分が少ない石灰石の土壌ゆえ、ブドウは水分を求めてより強い根を張り、より良質なブドウが栽培されます。

グランドシャンパーニュ黄金の三角地帯

このグランドシャンパーニュ、またプティットシャンパーニュの一部にかけて黄金の三角地帯と呼ばれる土地があります。

「Segonzac」「Jonzac」「Barbezieux」の3つの村に囲まれた地域です。

この三角地帯は石灰石が豊富で、元々海だったため、岩盤の上に貝の化石が多く堆積しています。その土地に雨が降ると蒸気が発生し、「糖度が低く、酸度が高い」ブドウが栽培可能となります。

この「糖度が低く、酸度が高い」という条件はコニャック造りにおいてとても重要なのです。ワイン発酵用のブドウや食用のブドウであれば糖度が高い方が美味しいと思われるかもしれませんが、糖度が高すぎるとコニャックがあまり長持ちしない傾向にあります。10年程度の熟成が限界と言われています。
また糖度が高いと、蒸留を行う前段階の発酵時にアルコール度数が高くなりすぎるので、あまりコニャック用のブドウには適さない状態となりやすいのです。(コニャックの場合、発酵時のアルコール度数は8%~8.5%程度が理想とされています)

しかしこの黄金の三角地帯の土壌含め、グランドシャンパーニュ付近の土地では「糖度が低く酸度が高い」ブドウが栽培可能なので、長期の熟成が可能となります。「グランドシャンパーニュは35年が最も華開く」と言われているのはその故でもあります。

これは粘土質の多いファンボアや日本の土壌ではなかなか真似できない事です。

ファンボアでもグランドシャンパーニュと同じ?

この「コニャックでは6つの土壌に分かれます」とは言っても、土壌は自然の産物です。実際の土壌の性質は地図のように明確に「ここからここまではファンボアの土地!!」と線引きされているわけではありません。

6つの土壌は誰が決めた?

そもそもコニャックの産地(クリュ)は、1909年5月1日の法令で規定されました。6つの産地に分けられたのはその後の1938年のことで、1860年に地質学者アンリ=コカン氏が行った調査に基づいて指定されています。

現在の地質調査結果においても「およそ」合っているそうです。

シャトーボーロンはファンボア?グランドシャンパーニュ?

土壌の質は面というより点によって異なり、同じグランドシャンパーニュの中でも良し悪しがあります。グランドシャンパーニュの中でも最も良い土壌とされているのがスゴンザックという地域です。ここにはポールジローやラニョーサボラン等、コニャックの名手が存在しています。

そして更に面白いのが、グランドシャンパーニュ以外の土地でもグランドシャンパーニュと同質の土壌が存在するということです。

粘土質の多い土地で有名な産地(クリュ)のファンボアですが、実はここにも一部石灰質の多い土壌が存在し、地層の形状や土壌の質としては実質グランドシャンパーニュとほぼ同じという場所が存在します。

実は上質なファン・ボア地区のコニャックで知られる「シャトーボーロン 」や「レイラ」という銘柄がそうなのです。

このようにファンボアと定義されている所でも場所によってはグランドシャンパーニュの土壌という状態はレアケースですが、面白いですね。この事実はあまり公表されていません。

コニャックの本当の性質は6つの産地(クリュ)ではなく、村単位でなければ精確な性質を掴むことはできないというのはまさにこの事です。

シャトーボーロンのGoogleマップはコチラ
(公式サイトはコチラ)

なぜ6つの区分けが存在するのか?

このように、同じ産地(クリュ)内でも性質は異なるし、それぞれの土壌によってその性質にあった良いコニャックができます。そのため、「グランドシャンパーニュが一番!」「ボンボアのコニャックは5番目」といったコニャックの産地(クリュ)による「ランク付け」的な表現は避けられるようになっています。フランスコニャック協会も一昔前まではHPにランク付け的な表現がされている事もありましたが、最近は見ないですね。

ブドウの買取値はクリュによって決まる

とは言いつつも、この区分けはまだコニャックの取引に用いられています。
具体的にはヘネシーやレミーマルタンといった「ネゴシアン」が買い取るブドウの価格です。大手メーカーのようなネゴシアンは自家栽培は行わず様々な農家からブドウ、またはコニャックを取り寄せて自社製品としています。

出典:http://www.remymartin.com/jp/savoir-faire/cellar-master-baptiste-loiseau/

その買取価格の基準となるのが6つの地域なのです。現在もネゴシアンの買取価格は上から順に「1.グランド・シャンパーニュ」→「2.プティット.シャンパーニュ」→「3.ボルドリ」→4.ファン・ボア」→「5.ボン・ボア」→「6.ボア・ゾルディネール」というのが一般的です。

しかし、ここ最近はマーテル社 が「ボルドリ」産のブドウを多く使い始めたことから、ボルドリ産のブドウがグランドシャンパーニュ産より価格が高騰しているという実態もあります。

買取価格の変動はブドウ農家や自家栽培を行っているコニャック農家にとっても大きな影響を与えます。「自家栽培コニャックこそ至高!」というコニャックマニアの方も多くいるかもしれませんが、やはり大手メーカーの影響は無視できないのがコニャック事情の現実でもあります。パワーバランスの難しいところです。

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