今回はまだ日本には未入荷のコニャックたち。実は私がひっそりと某サイトとコラボでやってる別ブログ(そっちは完全プロモーション用)で既に紹介したのですが、面白いボトル達だったのでBrandy Daddyでもレビューして参ります。特に、以前レビューしたコニャックMauxion同様に珍しいボンボア産100%コニャックがラインナップにあるのも注目です。
前知識として、コニャックの生産域とその特徴については下記記事をご参考にして下さい。
→コニャックの生産エリアと特徴
今回のコニャックは Cognac Expertより3つのシングルカスクがリリースされたコニャック「Vallein Tercinier(ヴァラン テルシニエ)」です。
実は前回の以前の記事でもちらっと出てきたKyoto Fine Wine & Spiritsのプライベートボトルの方のヴァラン テルシニエ Lot.70の生産者です。今回はそれとは異なるヴィンテージラインナップを個人輸入しました。
Vallein Tercinier( ヴァラン テルシニエ )とは?
1850年創業のコニャック生産者Vallein Tercinier(ヴァラン テルシニエ)。コニャックファンの間では近年密かに人気の高まりつつ生産者です。
グランドシャンパーニュ、プティットシャンパーニュ、ファンボア、ボンボアを中心に通常のVSOPやXOといったラインナップから、良質なヴィンテージコニャックまで幅広くコニャックを生産しています。ヴァラン テルシニエ)は特定の畑を持ちませんが、提携生産者から良質なワインを買い取り、それを自社で蒸留・熟成を行っています。
ヴァラン テルシニエが出すヴィンテージコニャックに関してはカスクストレンクス・ノンチルフィルタードを基本としており、それぞれの生産域の味わいをダイレクトに楽しむことができます。
こういったクラフト系の生産者は大きな生産者に埋もれがちですが、ヴァラン テルシニエはそのコニャックの質の高さからも近年注目を浴びている生産者の一つです。
Vallein Tercinier Brut de Fût 1989 Single Cask(グランドシャンパーニュ)
まずは1本目「ヴァラン テルシニエ1989 シングルカスク(グランドシャンパーニュ)」です。基本的なスペックは下記の通り。
生産域:グランドシャンパーニュ100%
容量:700ml
アルコール度数:47.7%(カスクストレンクス)
蒸溜年:1989年
ボトリング:2021年
熟成年数:32年
生産本数:328本限定
購入価格:205ユーロ(約27,000円) 2021年8月購入
蒸溜年からボトリング年まで詳細なスペックが分かるのは大変ありがたいですね。ではさっそく中身を見て参りましょう。
香り
まず最初に感じるのは蜂蜜レモン。桃。キンカン。そしてマンゴーといったグランドシャンパーニュに代表される柑橘系と南国フルーツ感。
あまり近づけすぎるとややアルコール感のある香りも漂うのでちょっと惜しい部分もあります。
熟成年数32年。35年あたりから華開くグランドシャンパーニュの最高のタイミング一歩手前といった印象を受けます。ポテンシャルは高いですけど。
その後少し経つとグラスの香り立ちが変化し、革やミント、少しばかりのサフランといったようにややスパイシーな香り立ちが顔を出すようになります。
このあたり、グランドシャンパーニュコニャックとしてはかなり個性的な香り立ちでとても面白いです。
味わい
パッションフルーツ、ビターオレンジといった要素が口の中に広がります。その後少しレモンでしょうか。
ここまでは熟成年数30年前後のグランドシャンパーニュコニャックとしてはよく感じる要素です。
カスクストレンクスも相まって、非常に力強いパンチ力を持ったコニャックです。
その後、胡椒やスパイス感のある風味を楽しむことができます。あとプルーンかな。
舌の上に残るのはオレンジ感ですね。
余韻としては木の香りも程よく感じることができます。40年以上の長期熟成に見られる南国フルーツ系のランシオは残念ながら強く感じることはできませんが、熟成30年前後のコニャックに見られる中長期ランシオを代表するシガーボックスやタバコの葉、スギの木(森)といった要素はふんだんに感じることができます。
印象として、想像していたよりもウッディな感じです。グランドシャンパーニュコニャックの程よいオレンジ感と、ウッディな力強さをバランスよく組み合わせたとても興味深い味わいです。
同じヴァラン テルシニエのグランドシャンパーニュコニャックで以前Bar Ravenさんで頂いたヴァラン テルシニエ Lot.70と比較すると、さすがに今回の1989は見劣りしてしまいますが、スパイス感やウッディ加減は同じ系譜を感じる部分があります。
ただ、価格帯としては日本円で約27,000円と同32年熟成以上の他グランドシャンパーニュコニャックと比較するとやや割高感はあります。ヴィンテージなのでしょうがないけど。定番華やか系のグランドシャンパーニュコニャックを求めるのあればラニョーサボラン フォンヴィエイユNo35(約35年熟成)を買った方が良いかもしれないという部分もぶっちゃけあります。カスクストレンクスでパンチの効いたコニャックを求めていたり、ただの華やかグランドシャンパーニュに飽きたという方は試してみると面白いかもしれません。
Vallein Tercinier Brut de Fût 1990 Single Cask(ボンボア)
2本目は「ヴァラン テルシニエ1990 シングルカスク(ボンボア)」です。こちらは珍しいボンボア産100%のコニャック。基本的なスペックは下記の通り。
生産域:ボンボア100%
容量:700ml
アルコール度数:42.9%(カスクストレンクス)
蒸溜年:1990年
ボトリング:2021年
熟成年数:31年
生産本数:571本限定
購入価格:165ユーロ(約22,000円) 2021年8月購入
ボンボアのシングルカスクは大変珍しいですね。扱いが難しいボンボア産からこそ、このコニャックに対する自信が伺えます。果たしてその実力は・・・
香り
圧倒的に「秋」の香り。
具体的には湿った低木、アーモンドといった「木」の心地よさ。
そしてシナモン、リコリス、さらに山椒といったスパイス要素満点。
ややアプリコットを感じるものの、先程の1989年グランドシャンパーニュコニャックとは全く異なり、フルーツ要素は少なく、「木」「スパイス」に全振りした印象。
やはりボンボアの特徴はここに出ます。めちゃめちゃボンボア産コニャックらしい。
味わい
キャラメル、蜂蜜、ヴァニラの印象が強く口の中に広がります。あと、どことなくラムっぽい・・・あの独特のゴム臭(ポジティブな意味で)というのでしょうか、そのゴム感が鼻に抜けていきます。
そのほかには、干したアンズ、カカオなどでしょうか。
意外と「甘味」を感じるコニャックでもあります。でも樽はちゃんと効いている。
しかしながら、そもそもボンボア産100%のコニャック自体数が少ないので、比較に困ってしまいます。同じ熟成年数で探すのであれば尚更。
そもそもボンボアコニャックのスタンダードってどんな味わいなの?というところから始まってしまいますね。ボンボア100%のコニャックの場合、その産地の特徴としては基本的にはやや平たくスパイシーな方向に仕上がるので、それに合わせて樽感をしっかり出してそのスパイシーさを強調するコニャックが多く樽感強めで単調な味わいになりがちなのですが、この1990はその樽感とキャラメル・ヴァニラ系の甘味が絶妙なバランスで折り重なっています。
この点は他のボンボアコニャックにはあまり見ない特徴です。同じボンボア100%コニャックですが、樽感に全振りしたMauxionマルチミレジムとは全く異なる方向性です。ボンボアコニャックって面白い。
ボンボアのスパイシーさも活かしつつ、ほのかに舌を包んでくれる甘みを残す。なかなか高レベルな複雑性を持ち合わせたコニャックです。
Vallein Tercinier Brut de Fût Lot96 Single Cask(ファンボア)
3本目は「ヴァラン テルシニエLot96 シングルカスク」です。こちらはファンボア100%コニャック。
なぜこれだけヴィンテージ年ではなくLot表記なのかはコニャックのヴィンテージ表記基準によります。コニャックで正確なヴィンテージを表記するためには樽に蝋封を行いBNIC(フランスコニャック協会)監視のものとに樽を厳密に管理する必要があるのですが、おそらくこの樽はそこまでの管理を行っておらず厳密なヴィンテージ表記ができません。
そういったコニャックの抜け道的なヴィンテージ表記として「Lot+数字」といった表記が行われます。Lot表記ではあるものの、基本的には1996年ヴィンテージと考えて頂いて差支えないかと思います。
基本的なスペックは下記の通り。
生産域:ファンボア100%
容量:700ml
アルコール度数:48.7%(カスクストレンクス)
蒸溜年:(おそらく)1996年
ボトリング:2021年
熟成年数:(おそらく)25年
生産本数:435本限定
購入価格:160ユーロ(約21,000円) 2021年8月購入
香り
なぜか最初に感じたのは「紫蘇」(笑)
その後マンゴーとヴァニラといったあまーい香り。そしてスミレ、ジャスミンといったお花系の香り立ちがうまく重なり大変心地が良いです。
傾向としてはフルーティーというよりもフローラルです。
味わい
マンゴー、そしてレモン。少し白コショウのスパイス感。
余韻はかなりパイナップルとマンゴー要素が強いです。
フローラルさとフルーティー感をちょうどよいバランスで表現しているコニャックだと感じます。今回の3つの中では一番バランス取れてるのかも。
ヴァラン テルシニエ シングルカスクシリーズまとめ
やはりシングルカスク・シングルヴィンテージはものによって全然違うのでとても興味深い。これら3つとも面白いくらいはっきりと特徴が分かれます。
1989:ビターオレンジを中心としたフルーツ感と程よい樽感
1900:ボンボア特有のスパイシー感とほのかな甘み
Lot96:フローラルさを中心とし、フルーティーさも感じるバランス派
といったところでしょうか。
余韻の長さと柑橘感は1989年が一番で、ここはさすがグランドシャンパーニュといったところ。
個人的に最も面白いのは1990年のボンボア100%ですね。ただこれは正直ある程度コニャックを飲みなれた人向けで、ちょっとマニアックだと思います(笑)
ボンボア100%のコニャックはボルドリ産コニャックよりもレアです。そのままだとどうしても単調になりがちなので、主にブレンドにしか使われないボンボア。それだけボンボア単体で商品化するのが難しいのです。そんなボンボアに対して「ボンボア100%を商品化するとどんな感じ・・・?」という方にはちょうどよい指標になるかもしれません。ボンボアを知るためのコニャックとして有能な立ち位置にいるボトルだと思います。
順序としてはLot96→1989年→1990年といった流れで飲み比べてみると、徐々に濃い方向に向かうと思うので面白いのではないでしょうか。
どれも個性的ですが、高品位なコニャックであることは間違いないのでぜひお試しあれ。
→ヴァラン テルシニエ1989(グランドシャンパーニュ)
→ヴァラン テルシニエ1990(ボンボア)
→ヴァラン テルシニエLot96(ファンボア)