コニャック地方で生産されるコニャックの中には、製品化されてないけどすばらしい原酒が樽のまま眠っている所が数多く存在します。
ひと昔前まではコニャック作りをやっていたけど、もう生産しなくなってしまった作り手や、先代が魂を込めて作ったコニャックが樽に詰められたまま貰い手が現れないままその事業をクローズしてしまった生産者など、様々な背景があります。その多くはコニャック作りをやっていた父親世代で跡取りや引き継ぎ手がいないまま現役を引退された生産者などです。
そんな眠り続けるコニャックの原石をダイヤモンドに昇華させたのが最近(というかここ2年くらい)注目しているジャンリュックパスケの"L´Esprit de Famille"シリーズです。
魂を紡ぐL´Esprit de Familleシリーズ
このL´Esprit de Familleシリーズは私が2019年に初めてジャンリュックパスケに訪問した際に飲ませて頂き、衝撃を受けたコニャックの一つ。 L´Esprit de Familleシリーズは当Brandy Daddyでも何回か紹介したことがありますが、改めて何なのか見ていきましょう。
参考記事
→パスケEsprit de Familleシリーズ
→さすがの官能評価:ジャン・リュック・パスケのコニャックL´Esprit de Familleシリーズを味わう
ジャンリュックパスケは家族経営でブドウの生産から蒸留、熟成まで一貫して行う生産者(プロプリエテール)ですが、このL´Esprit de Familleシリーズは先述したようにパスケ家が作ったコニャックではなく、現当主のJean氏と奥さんのAmeyさんが自らの官能評価に基づいて親しい小規模生産者や現在はコニャック作りをやっていない元作り手たちの古酒から超厳選した樽をボトリングしたもの。ネゴシアン、ボトラーズ的な存在です。
Esprit de Familleシリーズの目的は、そのコニャックが造られた当時のその生産者の背景や想いを現在に伝えることにあります。 自分ではブランドを持たず大手コニャックメーカーに原酒を提供していたが、提供しないままコニャックの生産を止めて残った樽だけ長期保管されているコニャックや、世代交代してコニャック作りを止めてしまった生産者、ずっと熟成庫に眠ってるけどボトリングの予定がない樽など、発掘しなければ日の目を見なかった宝石のようなコニャックがパスケ氏の手によってダイヤモンドのように輝きよみがえるのです。
L´Esprit de Famille エリザベスを味わう
このパスケのL´Esprit de Familleシリーズ、2019年に最初のリリースがあったのは下記の4ボトル。
- Le Cognac de Christian 1988:プティットシャンパーニュ(54.1%)
- Le Cognac de André 1973:プティットシャンパーニュ(51.4%)
- Le Cognac de Bernadette 1974:グランドシャンパーニュ(44.8%)
- Le Cognac de Jean 1969/1977:グランドシャンパーニュ(49.6%)
特に私の印象に残っているのはAndreとBernadette です。Bernadetteは我が家にも1本おいています。500mlなので勿体無くてチビチビ飲んでいますが・・・。
これに加え、2021年11月時点ではさらに次の4つもリリースされています。
- Le Cognac de Paul 1949:プティットシャンパーニュ(41.9%)
- Le Cognac de Pierre 1962:プティットシャンパーニュ(41.3%)
- Le Cognac de Elisabeth 1989:プティットシャンパーニュ(46.3%)
- Le Cognac de Le Cognac de Noel 1994:プティットシャンパーニュ(46.4%)
いずれも数量限定生産のため、現時点でほとんど売り切れてしまっている貴重なボトルです。また田地商店から180本限定で日本市場向けに出ている上記とは別樽のAndré1973以外は正規に輸入されているボトルがないため、Cognac Expertなどの海外通販や現地で個人輸入する他ありません。
いくつかのコニャックで有名なBarでは取り扱いがあるかもしれませんので、見かけたら是非飲んでみてください^^
そんな中、私もよく伺わせて頂く神楽坂のBar 柿沼さんにて、このL´Esprit de Famille Le Cognac de Elisabeth 1989を味わう機会に恵まれました!最近コニャックやカルヴァドスに力を入れているBar 柿沼さん。怒涛の仕入れ。これは嬉しい!!
ここ最近、神楽坂周辺では優良なコニャック、カルヴァドスの品ぞろえが最も豊富なのではないかと(私の中で)噂のBar 柿沼さん(笑)
このElisabethは元々La Grande du Boisというコニャック生産者が造ったコニャックで、ずっとそこの熟成庫に眠り続けていたコニャック。La Grande du Boisは2020年を最後にコニャックの生産を廃業し保有しているコニャックを売りに出すことにしました。
そんな中いち早く手を挙げ、この素晴らしい樽を選定したのがパスケ家。 Elisabethという名前はLa Grande du Boisブランドを経営していたメゾンの娘さん(Elisabeth Belenfantさん)の名前です。
このやはり心地よいオレンジ系、柑橘感たっぷりのフルーティーなコニャック。
1989年蒸留、2020年10月2日ボトリングの31年熟成を得たこのプティットシャンパーニュコニャック。
このポテンシャルや驚嘆に値します。
これまで私は6種類のL´Esprit de Familleシリーズを飲んだことになりますが、Esprit de Familleシリーズは香り・味わい・余韻のどれをとっても一級品でハズれなしです。
ベタ褒めに近いですが、パスケ夫妻の鋭い鼻と官能評価には本当に素晴らしいです。
自分の手でコニャック生産の全ての工程を行うプロプリエテールの場合、自社のコニャックの味に慣れてしまい他の生産者の樽を偏見なく選定することが難しい場合もあるようですが、その樽を選ぶことができるJean氏の官能評価はさすがと言わざるを得ません。
自社で栽培から蒸留・熟成まで手掛けるパスケ夫妻の自家コニャックのみならず、他の眠ってしまった生産者に目を向け、素晴らしいコニャックを世に広め大切に守っていきたいという姿勢には感服する他ありません。
それぞれのボトル毎に光る個性があり、贅沢に飲み比べしてみるとより一層その楽しさが増します。
これからも注目のジャンリュックパスケ
パスケのコニャックは今後私も最も注目しているコニャックの一つです。
パスケのコニャックは、オーガニック製法を全面に打ち出したOrganic Cognacシリーズ、先代のパスケ氏(現当主の父)が蒸留したTraditionシリーズ(現在主に日本に流通しているもの)、現在パスケ氏が展開しているTrésors de FamilleやEravilleシリーズ、そして今回のL´Esprit de Familleシリーズなど、さまざまなラインナップがあります。
それぞれ個性の異なるコニャックで、味わいも大変異なり面白いコニャックたちです。
ちなみにOrganic CognacシリーズとL´Esprit de Familleシリーズでは全く味わいの方向性が異なります。おそらく一般的に万人に「うまい・・!」と感じるのは L´Esprit de Familleシリーズの方ですが、この違いを感じるのもまた一興です。
これだけのシリーズを展開しながら、全てにおいて高品位なクオリティを保ち自分たちの志をもってリリースするのは並大抵のことではありません。実際にパスケ家で感じた誠実さがそのままコニャックに取り入れられているかのようです。
ということでベタ褒めオンリーの記事になってしまいましたが(笑)今後ともパスケのコニャックには最優先で注目していきたいと思った今日この頃でした。
あぁ・・おいしい。