これまでいくつかの記事でもまとめてきましたが、ここで改めてラベルの読み方についてまとめておこうと思います。
今回はブランデーの中でもコニャックに絞って熟成年数の読み方を少し詳しに解説していきます。
VSやVSOP、XOなど、この読み方は何が違うの?
という入門向けの内容から
Très Vieuxとヘリテージなどは表記の決まりはあるの?
といったところまで、コニャックの規定を見て行きましょう。
熟成年数の違いによるコニャックの表記の違い
蒸留されたオードヴィーはオーク樽に入れられ、コニャックとして世に出るまで最低3年。長いもので50年、60年、70年・・・と熟成庫で長い眠りにつきます。
VSやVSOP、XOなどの表記基準は何?
コニャックでよく見るVSやVSOP、ナポレオン、XOといった表記はコニャックの最低熟成年数に応じて定められている表記です。
「コント」という言葉を知っておこう
コニャックの周期は毎年4/1~翌年3月末日です。翌年3月末日までに蒸留を終えなければなりません。
3月末までに蒸留を終えたコニャックは熟成樽へと入れられます。
熟成年数の考え方としては「蒸留した年」から始まります。そして熟成年数の数え方は「コント(compte)」というワードを用います。
まず、蒸留した年のコントは「コント00」となります。
翌年4月1日から樽の原酒はコント0と数えられ、それはさらに翌年の3月末日まで続きます。そして次の4月1日からはコント1となり、以降4月1日が来るごとにコント数が繰り上がります。
コント2以上(つまり2年熟成完了)にならなければコニャックとして売ることはできません。
有名処の表記としては次の4つを抑えておきましょう。
- VS:コント2以上(最低2年熟成)
- VSOP:コント4以上(最低4年熟成)
- ナポレオン:コント6以上(最低6年熟成)
- XO:コント10以上(最低10年熟成)
具体的に、例えば2020年度に収穫・蒸留行ったコニャックの熟成は下記のような感じです。
2020年10月頃:蒸留スタート
蒸留後~樽入~2021/3/31:コント00(熟成0年目)
2021/4/1~2022/3/31:コント0(熟成0年目完了:1年目スタート)
2022/4/1~2023/3/31:コント1(熟成1年目完了:2年目スタート)
2023/4/1~2024/3/31:コント2(熟成2年目完了:3年目スタート)
→コント2で最も若いコニャックが出荷可能
2024/4/1~2025/3/31:コント3(熟成3年目完了:4年目スタート)
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といった具合です。
多くのブランデーは、その商品コンセプトに従って、様々な熟成年数のブランデーが調合(ブレンド)されて最終的に瓶詰されます。実は単一の熟成年数のブランデーのみで出荷されるブランデーはほとんどありません。
その調合されたブランデーの中で最も若いブランデーの熟成年齢に従ってVSOPやXOといったランクの呼称が定められています。例えば4年熟成(VSOP)のコニャックと11年熟成(XO)のコニャックがブレンドされた場合、そのコニャックはVSOPクラスとなり、XOとは名乗れません。
また実はVS、VSOP、XO以外にも細かい名称基準があります。
VS・VSOP・XO以外の表記
その他にも有名処では「ナポレオン」という表記や、Très Vieux(トレヴィユー)、Hors d’âge(オルダージュ)、Héritage(ヘリテージ)といった表記をよく見かけます。
実はこれらにもコントによる熟成年数の規定があります。以下がBNICによって定められている最低熟成年数別のコニャックの名称表記です(2020年4月時点)。
↓ラベル表記の最低熟成年数基準↓
- コント2以上で許可される表記
「VS(Very Special)」「3 Etoiles」「Sélection」「De Luxe」「Millésime」 - コント3以上で許可される表記
「Supérieur」「Cuvée Supérieure」「Qualité Supérieure」 - コント4以上で許可される表記
「V.S.O.P.( Very Superior Old Pale)」「Réserve」「Vieux」「Rare」「Royal」 - コント5以上で許可される表記
「Vieille Réserve」「Réserve Rare」「Réserve Royale」 - コント6以上で許可される表記
「Napoléon」「Très Vieille Réserve」「Très Vieux」 「Héritage」「Très Rare」「Excellence」「Suprême」 - コント10以上で許可される表記
「XO(Extra Old)」「Hors d’âge」「Extra」「Ancestral」「Ancêtre」「Or」「Gold」「Impérial」「XXO(Extra Extra Old)※」
※「XXO」は最低熟成14年を経たコニャックのみに適用可能
実態としては基準よりも長熟のものが多い
ここに記載しているのはあくまでもその表記基準を満たすための最低熟成年数であり、例えばXOだから全て10年!なんてことはありません。
実態としてはこの最低熟成年数よりも長熟のコニャックであることがほとんどです。
最低基準さえ満たしていればどの表記を使用するかは生産者の自由です。
例えば有名処でいうとポールジロー ヘリテージなんかで使われている「Héritage」。上記の例ですとコント6以上からとなっていますが、ポールジローヘリテージの熟成年数はおよそ50年ほどとなっており、ずいぶんと長熟であることが分かります。
私の感覚的には
VS:3~5年
VSOP:4~10年
XO:15年以上
といったボトルが多いように見受けられます。
この規定はあくまでも最低基準ですので、実際にその表記のあるボトルが何年熟成のものがブレンドされているかは商品によって様々です。
メーカー独自の表記
ここに書かれている以外にもラベルには様々な表記を見かけます。
たとえば
Tradition(トラディション)
とか
VESPER(ヴェスパー)
とか。
これらは熟成年数というよりも商品名という意味合いが強く、これといって熟成年数表記の規定には抵触しません。
ただ、消費者が混乱しないように新しい商品名を付ける際には一応BNICの許可が必要です。
コニャックのヴィンテージ
コニャックは収穫年数表記のある所謂「ヴィンテージもの」のラインナップは少ないです。厳格な管理が必要となりコストも上がるからです。
コニャックではヴィンテージの正確性と品質を担保するため、ヴィンテージ年表記を行う場合は、コニャックAOCを管理しているBNICによって
「樽に蝋封をする」
または
「2つの鍵付きでヴィンテージ専用の熟成室を作る(一方の鍵をBNICが保管)」
という条件が定められており、どちらかを実施する必要があります。
ヴィンテージのコニャックに対して何かしら作業を行う場合にはBNICの立ち会いが必要となり、その管理コストは最終的にボトルの価格に跳ね返ります。
従って同じブランドで同じ程度の熟成年数でも、ヴィンテージものとそうではないコニャックではヴィンテージコニャックの方が最終的な商品価格が高くなる傾向にあります。
抜け道的な熟成年数表記
ヴィンテージではなくとも消費者として気になるのは「結局これはどのくらいの熟成なの?」というところです。
そのためにVSOPやXOといった表記以外に具体的かつヴィンテージ表記の決まりに抵触しないように「Lot.94」や「No.20」といった表記を見かけます。
この数字はメーカーによっても意味が異なりますが、「最低でも19○○年以前の原酒がブレンドされていますよ」だったり「この熟成年数のコニャックがブレンドされていますよ」といった意味合いです。
コニャックを手に取る際に、このような数字を見かけたら注目してみて下さい。
何となく覚えておくとよい
コニャックの熟成年数表記のルールを知っているとコニャックのラベルを読むのがより楽しくなってきますね!
すべての表記を覚える必要はありませんが、ポイントとして先述したように、よく見かける表記かつコニャックの基本となる「VS」「VSOP」「ナポレオン」「XO」くらいは最低熟成年数を覚えておくと便利かもしれません。
XOの表記ルールが2016年にコント6からコント10に引き上げられたように、今後数年、数十年単位でこのルールも変更となるかもしれません。その際は「なぜ変更になったのか」を考えるのもまた一興ですね。
是非まめ知識として参考になれば幸いです。