過去にカルヴァドス(Calvados)について記事をまとめた事がありましたが、今回は改めてまとめとしてカルヴァドスの生産工程の一連の流れとおすすめのカルヴァドスを見て行きましょう!
カルヴァドスとは何か?
カルヴァドスは古くからフランスのノルマンディー地方で作られているリンゴ(と梨)を原料とした蒸留酒です。
そう、アップルブランデーの一種ですね。広義の意味でのブランデーではフルーツを発酵させ蒸留させたお酒は全てブランデーと呼ぶことができます。その中でもリンゴを原料としているわけです。
リンゴを発酵して蒸留?
リンゴを使ったお酒に「シードル」というものがあります。シードルはリンゴを発酵させたお酒です。めちゃくちゃ簡略的にいうと、ビールの原料は麦芽ですが、それがリンゴになると「シードル」になります。ざっくりとビールのリンゴ版という認識でもいいでしょう。
そのシードルを蒸留させ、より精製度の高いアルコールを抽出したものがアップルブランデーとなります。
全てがカルヴァドスではない?
ただし、リンゴを原料とした全てのアップルブランデーがカルヴァドスと呼べるわけではなく、あくまでもフランスのノルマンディー地方である一定の条件に従って作られたお酒のみ「カルヴァドス(Calvados)」と呼ぶことが許されています。
例えばこちらのいいづなアップルブランデーは同じくリンゴを原料とした蒸留酒ですが、これはあくまでも日本の「アップルブランデー」であり「カルヴァドス」とは呼べません。
カルヴァドスの製法:りんご→シードル→カルヴァドスへの変化
では早速カルヴァドスの製法を見てみましょう。
大きく次の5ステップに分かれます。
1. リンゴの収穫
↓
2.リンゴの搾汁
↓
3. リンゴの発酵(シードル造り)
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4. シードルの蒸留
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5. 樽熟成
1. リンゴの収穫
フランスのノルマンディー地方で栽培されているリンゴの品種は500種類以上にも上ります。
その中でもカルヴァドスに使ってもよいと認められているリンゴは48種類ほど存在します。その限られた品種は大きく下記の4つのタイプに分けられます。
「甘味(スイート)」
「甘苦味(ビタースイート)」
「苦み(ビター)」
「酸味(サワー)」
1997年以降に植えられた果汁園では、園に対しそれぞれの品種が成る木の割合が決まっており、酸味の強い品種は最大10%まで。苦甘味タイプは最大70%となっているようです。
リンゴ以外に、カルヴァドスの原料として認められているのが洋ナシです。ある一定の規定量までならりんごの他に洋ナシをブレンドすることが認められています。洋ナシのブレンド比率は後述する生産域によっても規定があり、それも制御されています。
リンゴの収穫は毎年9月下旬から12月初旬にかけて行われます。リンゴの品種によって収穫時期は異なります。
完全に熟して柔らかくなった状態で次のステップに進みますので、熟成が足りないリンゴは納屋で追熟されたりします。
2. リンゴの搾汁
熟したリンゴはそのまま発酵に進むわけではなく、まずはそのリンゴから果汁を取り出し、その果汁が発酵へと進みます。
果汁は圧搾して取り出すのですが、完熟したリンゴでもかなり硬いため、そのままでは圧搾できません。そのためまずはリンゴをそのまま機械で破砕し、どろどろの状態にします。
そのどろどろになった状態のリンゴを更に圧縮して果汁を取り出します。
現在、圧搾には主に2種類の方法があります。
- どろどろになったリンゴを何層かに重ね、それを上から機械で圧力をかける方法
- 空圧式圧搾機を使う方法
の2つです。
後者の空圧式はコニャックなどで葡萄から果汁を取り出す際にもよく使われています。長方形(あるいは円柱形)の機械の中で、バルーンが膨らみ、その圧力で果汁を取る方法です。昔は高価だったので一部の生産者しか持てませんでしたが、近年ではだいぶ普及してきたようです。
こうして搾り取られたリンゴの果汁はステンレスやスチールのタンクの中に溜まり、次の発酵工程に進みます。
3. リンゴの発酵(シードル造り)
圧搾された果汁はリンゴが持つ自然の酵母を利用して6週間~3ヶ月ほどかけて発酵が進みます。
その発酵の結果出来上がるのがカルヴァドス用の辛口シードルです。
このシードルはアルコール度数が4.5%より高い必要があります。
そして発酵完了から最低3週間を経たシードルが次の蒸留のステップに進みます。
4. シードルの蒸留
蒸留のサイクルとしては毎年7/1に始まり、翌年の6/30までの1年間です。
どんな蒸留器を使うかや何回蒸留するかなどの蒸留方法は後述するカルヴァドス生産域によって規定が異なります。
詳しくは次の段落「カルヴァドスは3つの生産域に分かれる」をご覧ください。
この蒸留が完了するとアルコール度数69~72%の無色透明のスピリッツが抽出されます。このスピリッツが樽熟成へと進み、最終的にカルヴァドスとして出荷されることになります。
5. 樽熟成
蒸留されたカルヴァドスの元となるスピリッツはオーク樽で熟成されます。最低2年の熟成を経なければカルヴァドスとして出荷することはできません。
コニャックや他のブランデー同様、樽の中ではゆっくりとアルコール度数が下がり、徐々に円やかなカルヴァドスへと熟成が進んでいきます。
熟成年数は製品によって様々で、5年程で出荷されるものもあれば、20年、30年・・・50年といった時を経るものもあります。
ほとんどの場合は熟成期間中に加水され、ブレンドされ、出荷時のアルコール度数は40%~45%くらいに落ち着く場合がほとんどです。中にはカスクストレングス(加水なし)で出されるカルヴァドスもあります。
カルヴァドスの熟成年数表記
コニャックのVSOPやXOなどの表記に最低熟成年数の規定があるように、カルヴァドスにも規定の熟成年数表記があります。
様々な表記がありますが、主要な表記と基準は次のようになります。
Fine / VS(Very Special)
→最低2年熟成(カルヴァドス ペイドージュAOC、カルヴァドスAOCでの最低熟成年数)
Vieux(ヴィユー) / Reserve(レゼルヴ)
→最低3年熟成(カルヴァドス ドンフロンテAOCでの最低熟成年数)
Vieille Reserve(ヴェイユレゼルヴ) / VSOP
→最低4年熟成
Hors d'Age(オルダージュ) / XO / Très Vieux(トレヴィユー) / Extra(エクストラ) / Napoléon(ナポレオン)
→最低6年熟成
この表記は、そのボトルにブレンドされているカルヴァドスの中で最も若い原酒の熟成年数が基準となります。
余談
※たる出版 クリスチャン・ドルーアン著「Calvados Book」を見るとVieille ReserveとVSOPが「3年以上熟成したもの」と記載されていますが、idacやCalvados AOCのサイトを見てもVieille ReserveとVSOPは「at least 4 years」と書かれているので、これは「Calvados Book」の翻訳ミスではないかと考えています。もし近年で基準が変わっていたり、間違っていたらすみません・・・。
カルヴァドスは3つの生産域に分かれる
先述したように、フランスのノルマンディー地方で造られるカルヴァドスは3つの生産エリアに分かれています。カルヴァドスはその3つのエリアでしか作る事はできません。
そしてさらにこの3つの地域では、エリアごとにそれぞれ原料や蒸留方法に規定が存在します。カルヴァドスを名乗るにはその条件を全てクリアする必要があります。
これを規定しているのがAOCと呼ばれる法律です。
「Appellation d'Origine Controlee(アペラシオン・ドリジヌ・コントローレ)」の略で、日本では「原産地呼称統制」などと呼ばれています。コニャックやシャンパーニュ、ワインなどのお酒始め、チーズなどのフランスの農業製品に課される品質保証の制度です。
その地域の名前を冠するには、AOCで決められた基準をクリアしていなければいけないということです。
これはフランスで作られる、その地域の名前が使用された商品にある一定以上の品質を保たせ、その名に恥じない商品であることを保証さ、信用を失わせないようにするためです。
例えば簡単にいうと、コニャックの場合はフランスのコニャック地方で造られ、蒸留方法や熟成年数など一定の基準をクリアしたものだけが「Cognac(コニャック」を名乗ることを許されます。
ちなみにコニャックのAOCに関する簡単な説明はコチラから
このような基準がカルヴァドスにも存在します。それではその3つのエリアと基準を見て行きましょう。
3つのエリアと名称
カルヴァドスの生産エリアは下記の3つに分かれます。
- カルヴァドス ペイ・ドージュ(Calvados Pays d'Auge) AOC
→(下図)オレンジの地域 - カルヴァドス ドンフロンテ(Calvados Domfrontais) AOC
→(下図)黄色の地域 - カルヴァドス (Calvados) AOC
→(下図)緑色の地域と斜線の地域の一部
Google mapで見るとこの辺↓
ではそれぞれ少し詳しく見ていきましょう。
カルヴァドス ペイ・ドージュ(Calvados Pays d'Auge)
カルヴァドス ペイ・ドージュを名乗るには次の条件が必要となります。
- カルヴァドス ペイ・ドージュの地域で製造すること(カルヴァドス県の他、オルヌ県(Orne)とウール県(Eure)の一部を含む)
- 蒸留時の洋ナシ(梨ワイン(ポワレ))の混合割合は30%以下にすること
- 単式蒸留器で2回蒸留すること(コニャックの蒸留と大体同じ)
- 最低2年間オーク樽で熟成させること
- アルコール度数最低40度
ペイドージュの地域は浅い斜面で粘土と火打石、粘土と石灰質、粘土と石灰岩、沈泥質などの土壌が多く、粘土質は共通してペイドージュの代表的な地質です。リンゴは根が浅いのでしっかりと根が固定できる粘土質が理想的な土壌となります。一般的にはこの地域のカルヴァドスが最も高値で取引されることが多いです。
日本において流通量も多く手に入りやすいカルヴァドス ペイ・ドージュは「シャトー・ド・ブルイユ 」「アドリアン・カミュ 」などでしょう。Amazonや楽天などの通販でもお手軽に入手できます。
↓シャトー・ド・ブルイユ 15年↓
↓ペールマグロワール20年(現在入手困難)↓
カルヴァドス ドンフロンテ(Calvados Domfrontais)
このエリアは原料となる果樹園全体の25%が洋ナシ果樹園であることも特徴的です。
カルヴァドス ドンフロンテの条件は主に次の通りです。
- カルヴァドス ドンフロンテの地域で製造すること
- 蒸留時の洋ナシ(梨ワイン(ポワレ))の混合割合が30%以上であること(ペイ・ドージュとは逆)
- 連続式蒸留器で1回蒸留すること(アルマニャックと大体同じ)
- 最低3年間オーク樽で熟成させること
- アルコール度数最低40度
ドンフロンテの土壌は粘土と片岩、花崗岩がメインでリンゴの根が張れる土壌が浅いためリンゴの育成にはあまり向きません。しかし洋ナシの根は岩層まで根を張れるため、このドンフロンテでは洋ナシの方がよく育ちます。 洋ナシの使用割合が多く定められているのもそのためです。
↓半連続式蒸留器のイメージ(アルマニャック用ですが・・・)↓
日本において流通量も多く手に入りやすいカルヴァドス ドンフロンテは「ローリストン 」「ルモルトン」などでしょう。Amazonや楽天などの通販でもお手軽に入手できます。
カルヴァドス (Calvados) AOC
単に「カルヴァドス」と呼ばれるこの地域。最も大きいこの地域。そして生産条件としては最も緩いエリアです。生産域はカルヴァドス県の他にマイエンヌ県(Mayenne)、サルト県(Sarthe)、オワーズ県(Oise)の一部を含みます。
この「カルヴァドスAOC」は上二つのペイドージュ、ドンフロンテのエリア以外でカルヴァドス製造を認められたエリアです。つまり、ペイドージュとドンフロンテ以外のエリアでカルヴァドスを造る場合、この条件を必ずクリアする必要があるということです。
主な条件としては次の通りです。
- この領域全体またはカルヴァドス・ペイ・ドージュ地区及びドンフロンテ地区周辺で造られるもの、または、それらをブレンドしたもの
- 最低2年間オーク樽で熟成させること
- アルコール度数最低40度
ペイドージュやドンフロンテと違い、実はこのカルヴァドスACのみ蒸留方法に法的な規制がありません。単式でも連続式でもどちらでも可能。ただ、多くは連続式蒸留器で1回の蒸留方法が用いられるようです。
おすすめのカルヴァドスは?
以上がカルヴァドスの製造に関する一連の流れとルールに関して大まかな決まり事です。もちろん、もっと細かい規定や製造工程はあるのですが、それはまた個々の過程で詳しく書ければと思います。
ここで私が個人的におすすめするカルヴァドスを見てみましょう。お手頃なものと、中間のもの、少し値が張るけど余裕があれば是非飲んで欲しいものに分けました。
お手頃なおすすめカルヴァドス
まずはシャトードブルイユ フィーヌ。
若いカルヴァドスで、カクテルのベースとしても使われることも多々あります。価格帯としては販売店にもよりますが3000円~4000円くらい。
ストレートでも行けますが、ソーダ割にしたりてカルヴァドスハイボール(カルボール)として楽しむのもおススメの飲み方ですね。
中間くらいのおすすめカルヴァドス
中間(?)の価格帯でもある1万円くらいでおすすめするのであればこちら。
ペイドージュ規格のカルヴァドスとして高品質なボトルを提供しているアドリアンカミュ。私が最も好きなカルヴァドス生産者のひとつです。アドリアンカミュの代表作といってもいいこのボトルは、他の12年熟成のカルヴァドスと比較して特有のふくよかで重厚感のある味わいを楽しむことができると私は感じます。
余裕があれば是非飲んで欲しいカルヴァドス
私としては是非おすすめしたいのがこの2本。
「カルヴァドス モラン アンセストラル」と「ルモルトン ラルーテ」
モランアンセストラル
モラン アンセストラルは見た目のインパクトも凄いですが、およそ30年の樽熟成のあと、更に瓶の状態で10年地下洞窟の貯蔵庫で保管する製法によって独特の風味を楽しむことができます。なんというか、フルーティーな燻製香のような・・・・。
この衝撃を一度味わうと忘れることはないでしょう。
参考記事
→特別な貴腐カビと共に「カルヴァドス モラン アンセストラル」レビュー
ルモルトン ラルーテ
ルモルトン ラルーテは価格帯としては約4万円となかなか高額なボトルですが、値段相応の一級品。
ルモルトンの生産域はドンフロンテ。その中でも特に洋ナシ比率の高いカルヴァドスとして有名です。このラルーテはそんなルモルトンのフラッグシップボトル。中には100年前の原酒もブレンドされています。
私も初めて飲んだ時の記憶が未だに鮮明に蘇ります。
アルコールの刺激臭は全く感じられず、グラスから30cm離れた所でも十分に感じられる洋ナシとリンゴの香り。グラスに注ぎ、鼻から息を吸うと、思わず「あっ・・・」と口に出したくなる程の香り高さ。
口に含むと、それはもう言葉にならない柔らかさ。本当にアルコール40度?と思ってしまうほどのまろやかさ。
そして鼻から抜けていくこの上ない樽と果実の香り。
昇天ものです。
バーで見かけたり、ちょっといいカルヴァドスを探している方は是非トライしてみて下さい^^