今回レビューを行うのはABK6コニャックのフラッグシップボトル「ABK6 EXTRA(エクストラ)」です。
ABK6は2005年にできたブランドですが、ブドウの栽培から醸造、熟成、蒸留、ボトリングを一貫して自社で行うコニャック生産者としては最大規模を誇ります。彼らはそういった一貫して自社で生産を行う、原酒も他社に提供しない自社のスタイルを「Single Estate Cognac」と呼んでいます。
いわゆる我々が知るところの「プロプリエテール」との違いは生産規模の違いが印象として残ります。プロプリエテールは家族経営、少人数、ブドウ畑の管理から蒸留、熟成まで責任者が同じであるのに対し、シングルエステートコニャックは従業員30名以上の中堅規模の生産者であり、畑の管理や蒸留、熟成、ブレンドなど各工程においてそれぞれ責任者が存在しまとめ役としてセラーマスター(マスターブレンダー)が存在するようなイメージですね。
ABK6コニャックも私が訪問した2019年より2022年現在はもう少し規模が大きくなり、畑の所有面積も370ha→380ha、従業員も50名→60名にパワーアップしました。
ABK6コニャックに関しては2019年の訪問記に詳しく書いていますので、そちらをご覧ください。
- コニャック滞在記⑱:ABK6の全てを語ろう(1) 最大級のシングルエステートコニャック
- コニャック滞在記⑲:ABK6の全てを語ろう(2) 100年ものコニャック直飲み!ABK6の蒸留と熟成庫
- コニャック滞在記⑳:ABK6の全てを語ろう(3) マスターブレンダーとの貴重な2時間対話と10分で作ったオリジナルブレンドコニャック
- コニャック滞在記㉑:ABK6の全てを語ろう(4) 樽メーカーに潜入!そして蒸留体験と猫
ABK6エクストラの詳細
ABK6は2022年にセラーマスターが交代し、少し生産体制も変わりました。先日来日したアルノーの話では、今後はシングルカスクのコニャックやグランドシャンパーニュ100%のコニャックも登場する予定のようです。
しかしながら2022年現在ABK6コニャックの現行ラインナップは基本的にファンボアとプティットシャンパーニュのブレンドコニャックで、ABK6エクストラも同様です。
ABK6エクストラに関してはもちろんブレンド比率はその時々によって変わるものの、基本的にはファンボアを主体としています。メーカー説明にはファンボア100%とありますが、ほんの少しだけプティットシャンパーニュもブレンドされていたはずです。
ABK6エクストラの基本スペック
容量:700ml
アルコール度数:43%
熟成年数:50年~60年くらいのブレンド
生産域:ファンボア主体(+プティットシャンパーニュ、グランドシャンパーニュ少々)
輸入業者:スコッチモルト販売株式会社
購入価格:税込52,800円(2021年1月購入)
ちなみに皆さん気になる添加物ですが、基本的にノンキャラメル、ノンシュガーですが、加水はアリです。
最低でも50年越えの原酒が使用されているABK6エクストラですので樽出しのままのブレンドでも十分にアルコール度数は下がっているのですが、通常ラインナップのためアルコール度数を43%に統一する必要があり、度数調整のための限りなく少量の加水が行われています。
ABK6を展開するAbécassis社自体も2000年に発足したコニャック生産者ですが、これらの長熟コニャックは彼らが買い取った畑を所有していた元の生産者の原酒を使用してブレンドしています。
価格帯もなかなか高額なラインですが、果たして・・・・
ABK6エクストラの香り立ち
色合いはゴールドを帯びたクリアな褐色。長熟だからといって極端に色が濃くないこともポイント。その分タンニンの少なさを想像させる色合い。
初手はオレンジ、レモンなどの柑橘系ど真ん中。
そこにパッションフルーツやパイナップルといった果実要素が多く感じられます。最後の方に洋ナシのコンポートを連想させる甘く心地よい香り立ち。
適切な表現が難しいですがジャスミン・・のような要素を少し感じますがありますが、お花系要素は少な目。圧倒的果実感
ほんのりと樽由来のウッディさ・・・レザーや腐葉土を感じるものの、香り立ちでの樽感は極小。
ABK6エクストラの味わい
あぁ・・・うまい・・・。
というと全て終わってしまいますが、うまい。華やかさと余韻は過去トップレベルに炸裂しています。
ボディ自体はライトな印象。舌の上にじっとりと乗るというよりも、どちらかというとサラっとしています。しかしながら意外とパンチがある。アルコールの攻撃的な刺激ではなく口と鼻腔に広がる花火のようなパンチ(何いってるんだ)。
50年熟成を超えた長期熟成コニャックに見られるマンゴー、ピーチを中心とした南国系ランシオ炸裂系コニャック。
グランドシャンパーニュコニャックのようなオレンジ感は少な目ですが、余韻にもちゃんといますよ白桃が。これはピーチ感うるさいファンも十分に納得できるレベルでしょう。
あと、控えめではありますが樽感はあります。香り立ちで感じた時よりも少しばかりウッディさは気になるかも。程よいレベルではありますが、同じ系列のABK6 XO ルネサンスを引き継いで少し樽樽しさを控えめにした感じ。
元よりABK6コニャックは同じAbécassis社が作る3つのコニャック「LEYRAT(レイラ)」「ABK6」「Reviseur(レヴィゾール)」のうちの一つで、レイラはフルーティーさ重視、レヴィゾールは重厚感重視、そしてABK6はその中間を担う商品コンセプトなので、ウッディさの塩梅としてはコンセプトに沿った形なのかなと思います。好みが分かれるとしたらこのポイントですね。
全体的に長熟ファンボアとは思えないほど果実味溢れる味わいと余韻です。
これはひとえにABK6の土壌に由来する部分が多いのかもしれません。ABK6のファンボアの土壌は地域的にはファンボアでありながら、その土地には非常に石灰成分が多く含まれ土質としてはグランドシャンパーニュおよびプティットシャンパーニュに大変近い土壌であることで有名です。そのミネラルを多く含んだ土壌がゆえにファンボアでありながらここまで果実味が豊かで長期熟成が可能なコニャックに仕上げることが可能と言えます。
またこのABK6エクストラの原酒は湿度の高い熟成庫で保管されていることも重要なポイントです。2019年に訪問した際、セラーマスターのイザベルさん伺ったことがありましたが、ABK6のファンボアコニャック×湿度の高い熟成庫での熟成がこの果実味豊かなランシオを産み出す秘訣とのことでした。
また今年2022年にセラーマスターに就任したDavid氏によると、ABK6のコニャックにおいては生産域と熟成庫の湿度の違いで下記のような使い分けをしているようです。やや抽象的なのであくまでもイメージです。ブレンドの最終的な判断はその時々でセラーマスターが決定します。
ファンボア産コニャックの場合
ドライな熟成庫:ややスパイシーな仕上がり。
湿度の高い熟成庫:丸みを帯びた砂糖漬けフルーツのような余韻、ランシオを産み出す。
プティットシャンパーニュ産コニャックの場合
ドライな熟成庫:強くたくましいコニャック。特に若いコニャックとの組み合わせが良い。
湿度の高い熟成庫:複雑で丸みを帯びたランシオを産み出す。
グランドシャンパーニュ産コニャックの場合
ドライな熟成庫:若いグランドシャンパーニュコニャックとの相性がよく、よりパンチの効いたコニャックになる。
湿度の高い熟成庫:長期熟成向きエレガントで甘くかなり複雑性を持った仕上がりになる。
上記でいうとこのABK6エクストラにメインとしてブレンドされているのはファンボア×湿度の高い熟成庫で保管されたコニャック達です。
ABK6エクストラまとめ
総じてかなりレベルの高いコニャックであることは間違いないものの、一番のネックとしてはやはり価格帯ですね(笑)
元々小売価格5万円代のフラッグシップボトルでしたが、ABK6も例に漏れず原材料価格の高騰で2022年に一斉値上げが行われましたので、下手すると小売価格6万円くらいという更に手に取りにくい価格までいってしまいました。
まぁこのくらい高価なコニャックなので美味しくて当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが・・・
同価格帯のコニャックでも「上品でスイスイ飲める系コニャック」と「ランシオ炸裂系コニャック」に二分されるのですが、ABK6エクストラは確実に後者の部類です。
味わいや余韻に関しては全く文句ないものの、コスパという観点からみるとやはりどうしてもフランソワヴォワイエ エクストラやジャンフィユーCF50といったボトル達と比較してしまうと、約2倍の価格差を埋めるに至るかどうが・・・・その価値観は人それぞれではありますが、購入資金に余裕がある方で一本南国系ランシオが効いた高級ラインナップを置いてみたい!という方は買ってみて損はないボトルだと思います。(木箱がめちゃめちゃ重いですが)
コスパの話をし出すと嫌がる方もいると思うので、それを抜きにして考えると繰り返しになりますが、味わい余韻のレベルとしてはフラッグシップボトルを名乗るにふさわしいクオリティ。50年、60年熟成に耐えうるファンボアメインのコニャックでピーチ感あふれるランシオを楽しむことができる1本だと思います。