今回はブランデーから少し離れて、たまにはウイスキーにも触れていこうかと思います。
と言いますのも、今回のボトルはコニャック生産者が作るシングルモルトウイスキー「フォンタガール」。フレンチウイスキーです。その中でもコニャックカスクとピノー・デ・シャラントカスクで熟成されたウイスキーを紹介します。
※ボトル提供:リードオフジャパン株式会社

リードオフジャパンに訪問
経緯をお話しすると、それは2025年5月のこと。私の推しコニャックであり、ピノー・デ・シャラントの生産者でもある〈Domaine du Chêne(ドメーヌ・デュ・シェーヌ)〉とのご縁がきっかけです。
参考記事
→Domaine du Chêne生産者と東京めぐり旅
実はこの「フォンタガール」の熟成に使用されているピノー・デ・シャラントの樽は、Domaine du Chêneが提供するピノー・デ・シャラントカスクなのです。逆にフォンタガールはウイスキーの熟成で使用した樽をDomaine du Chêneに提供し、Domaine du Chêneはそのウイスキー樽でピノー・デ・シャラントを熟成させたりしています。メゾンの場所もお互い近く、相互協力関係にあるわけです。
※そもそもピノー・デ・シャラントって何?という方はコチラ
→ピノー・デ・シャラントとは何か?ワイン?ブランデー?
リードオフジャパンでは2024年より「フォンタガール」を取り扱っており、上記のような繋がりの元、Domaine du Chêneのジョアキム氏とお父様のジャン=マリー氏が5月に来日された際、リードオフジャパンをご訪問されました。
私はそのタイミングでは別件がありご一緒できなかったのですが、後日ありがたいご縁をいただき、私自身もリードオフジャパンを訪問させていただきました。

コニャック用のシャラント式蒸留器で造られたモルトウイスキー
「フォンタガール」は、1878年創業のコニャック生産家、グランシェール家が新たに立ち上げたウイスキーブランドです。グランシェール家は代々コニャックの蒸留を手がけており、現在も10基のシャラント式単式蒸留器を所有・稼働させています。蒸留されたオー・ド・ヴィーは、現在も大手コニャックメーカーに提供されています。
そんな伝統ある家系が、次なる挑戦として始動させたのがウイスキープロジェクト「フォンタガール」です。初めてニューメイクができたのが2017年。比較的新しいブランドです。
ウイスキー施設も全て自前で、糖化槽や発酵槽も自社で設備を整えています。
原料には、自社農地を含む地元(蒸留所から半径100km圏内)で栽培された六条大麦のモルトのみを100%使用しています。
このウイスキーの最大の特徴は、コニャックの蒸留に用いられる自社のシャラント式単式蒸留器を使って、2回蒸留を行っている点にあります。シャラント式蒸留器は、通常コニャックの蒸留期間(毎年10月のブドウ収穫後から翌年3月末まで)にのみ使用されますが、ウイスキーの蒸留はそのオフシーズンである夏場にかけて行われています。
蒸留後は、タイプの異なる複数の樽で熟成を行うことで、樽ごとの個性を引き出しています。
なお、ボトリング時には冷却濾過を行っていない「ノンチルフィルタード」にて瓶詰めされています。
フォンタガールの基本情報
今回はフォンタガールの中でもコニャックカスクとピノー・デ・シャラントカスクの2本を取り上げます。
フォンタガール シングルモルト CGNC

アルコール度数:44%
容量:700ml
原料:六条大麦モルト
熟成年数:コニャック樽で4年
その他:ノンチルフィルタード
輸入元:リードオフジャパン(株)
フォンタガール シングルモルト PNDC

アルコール度数:44%
容量:700ml
原料:六条大麦モルト
熟成年数:コニャック樽で4年、ピノー・デ・シャラント樽で4年の原酒をブレンド
その他:ノンチルフィルタード
輸入元:リードオフジャパン(株)
2つめのピノー・デ・シャラントカスクに関してはピノー・デ・シャラントカスク単体ではなくコニャックカスクで熟成した原酒とのブレンドです。ブレンド比率はシークレットとのこと。
まだ2017年に初ニューメイクができたばかりなのでそれぞれ4年熟成となっておりますが、今後は更に長熟のウイスキーも生産予定とのこと。
それでは早速テイスティングしていきましょう。
フォンタガール シングルモルトCGNCのレビュー

立ち上がりには、若さゆえのやや鋭いアルコール感が感じられるものの、すぐに麦芽の香ばしさが風に乗って現れます。
酵母由来と思われる穏やかな発酵香に続き、バニラやバナナといった甘やかなアロマが広がります。
口に含むと、きなこを思わせる粉っぽさもあるが、レモンやジャムのような甘い柑橘類と、プルーンのようなややダークなフルーツ感が奥行きを与えてくれます。
余韻には、シャラント式蒸留機による影響か、若いコニャックを想起させるような若草のニュアンスがほんのりと漂い、ミズナラ樽を思わせるほろ苦さが心地よく残ります。
フォンタガール シングルモルトPNDCのレビュー

こちらのボトルは、より明確な杏子の香りが立ち上がり、スミレを思わせる繊細なフローラルノートが華やかさを添えます。口に含むとすぐにふくよかな甘みが広がり、はちみつのような濃密なニュアンスが印象的。
先述のコニャックカスク単体と比べてボディに厚みがあり、デラウェアや黒ブドウ由来のブランデーを思わせる、黒蜜のような重厚感が余韻へとつながっていきます。コニャックカスク単体で感じられた麦の主張は、この甘くまろやかなトーンによってうまく中和されており、よりブランデー的な印象が強まっています。
おそらく、糖度の高いピノー・デ・シャラントカスクによる影響が酒質全体に奥行きと滑らかさをもたらしており、果実感と芳醇さのバランスが秀逸な1本となっています。
コニャックカスクとピノー・デ・シャラントカスクの特徴
やはりコニャック系の樽で熟成させたウイスキーとして特徴的な要素はやや酸味のある杏子感だと個人的には捉えています。どちらも樽の個性がはっきりと感じられる1本ですが、より興味深かったのはピノー・デ・シャラントカスクの方でした。
まず感じたのは、やはり余韻の段階で「これはコニャック系の樽で熟成されたな」と思わせる風味。特にピノー・デ・シャラントのように、コニャックとブドウ果汁をブレンドして作られる酒の空樽は、ブドウ由来の甘やかさや果実感をより豊かに抽出するのに適しているように思います。
その風味は、どこか赤ワインカスクで熟成されたウイスキーを思わせるようなニュアンスにも近いですね。
面白かったのは、グラスに注いでから15分ほど経ったあたり。注ぎたてでは感じられたアルコールのとげとげしさが落ち着き、代わりに樽由来の香りがふわっと広がってきました。時間とともに香りのバランスが変化していくのも、このウイスキーの魅力のひとつだと感じました。

フォンタガールのクリアな酒質
まず両方ともウイスキーのボディとしてはかなりクリアな酒質をもったウイスキーであることは間違いありません。
どっしりシェリー系や、スペイサイドモルトなどとは明らかに方向性が違うウイスキーです。どちらかというとアイリッシュウイスキーに近い感覚を覚えます。
飲むタイミングとしては1杯目が視野に入るでしょう。やや価格は上がりますが、さっぱりハイボールでもよいかもしれません。(特にコニャックカスクの方)
なぜクリアな仕上がりになるのか?
ここは私の推測なので「そうかもね~」くらいの軽い感じで読んで頂ければ幸いです。
実はコニャック地方ではコニャック蒸留のオフシーズン中にウイスキーを作っている生産者はいくつか存在します。フォンタガールに限らずですが、コニャック用のシャラント式蒸留器で造られたモルトウイスキーは傾向としてクリアで軽やかなウイスキーに仕上がることが多いです。
これは原料や熟成というよりも、蒸留時の影響が大きく、シャラント式蒸留器の構造に関係していると考えられます。特に大きな影響を与えるのが、蒸気の通り道となるシャピトーやコルドシーニュの部分です。ウイスキーのポットスチルでいうとラインアームにあたる部分です。

この通り道がシャラント式蒸留器の場合かなり長く、細く造られています。
また、蒸留器は銅で造られており、銅は単なる金属ではなく、蒸留の過程で重要な化学反応の触媒として機能しています。ウイスキーのポットスチルよりも蒸気が銅とかなり長く接する構造です。
そのため、このパイプ部分が長ければ長いほど、ウイスキーの所謂「ボディの重さ」に寄与する発酵由来の硫黄化合物(硫化水素やメチルメルカプタンなど)が蒸留器の銅と反応して吸着・中和され除去されます。結果的に「軽やか」「フルーティ」「柔らかい」印象に結び付くと考えられます。
フォンタガールの公式サイトによると1200~2500リットル容量の蒸留器を使っているとのことです。これは中型~大型の蒸留器にあたるので割とパイプは長めの設計となっています。
銅と硫黄の反応についてはウイスキーマガジンにも詳しく記載がありますので、ご参考にご覧下さい。
→ウイスキーマガジン「銅の効果【前半/全2回】」
→ウイスキーマガジン「銅の効果【後半/全2回】」
→ウイスキーマガジン「硫黄成分は悪魔じゃない」
どのような人に受け入れられるか
コニャックカスクの魅力は、ウイスキーファンの皆さんにもぜひ知っていただきたいところです。飲むタイミングとしては、先ほども触れたように、やはり1杯目におすすめしたいですね。
クリアな酒質と杏子感が個性として捉えられるフォンタガールですが、その分この特徴はウイスキーファンにとってポジティブに捉える人もいればネガティブに捉える人もいるでしょう。飲む順番はやはり重要視したいところです。また、日頃より度数の高いモルトをよく飲まれているウイスキーファンの方々には、ボディの強さもあるピノー・デ・シャラントカスクの方が親しみやすい印象があります。
もしこの記事をバーテンダーの方が読まれているのであれば、ぜひこのウイスキーを「ちょっと面白いものがあるんです^^」といった軽いトーンでお客さまに提供してみてください。そして、ある程度その方が香りや味をじっくり楽しんで、思考を巡らせているタイミングで「実はこれ、コニャックの蒸留器で造られたフレンチウイスキーなんです」と明かす。そういった“種明かし”の演出も、きっと一層このウイスキーの魅力を引き立ててくれるはずです。
「フレンチウイスキー」という言葉に先入観を持たせず、まっさらな状態で体験してもらう方が、味わいの繊細さや意外性がより印象的に伝わるでしょう。
普段からコニャックやブランデーを嗜まれている方にとっては、どこか共通する繊細なニュアンスを感じ取れるはずです。ブランデー好きにも、ぜひ一度試していただきたい1本です。
フォンタガールまとめ

今回はいつものブランデーから少し脇道にそれ、フレンチウイスキーのご紹介でした。
コニャック生産者も面白いウイスキー造っているという一面を楽しんで頂けたら幸いです。
実は今年9月にまたコニャックに再訪します。その際にこちらのフォンタガールにも是非訪問させて頂こうと計画しておりますので、その記事をまたお楽しみに^^
もちろんここが作っているコニャックも楽しみですね~。