コニャック滞在記2023年 冬

コニャック滞在記2023冬⑧1805年蒸留のコニャックと対面:歴史を飲むA.E.ドールコニャック達

2023年2月24日

滞在6日目
2023年1月16日(月)

この日は1800年代の原酒を最も多く持つコニャック生産者のひとつ、A.E.DOR(アウドール)へと訪問します。

日本でも並行輸入品として以前よりA.E.ドールNo.7やNo.8は入手可能なので、このブランドは知っている方も多いと思います。現在、フレンチレストランや料亭などを展開しているひらまつ氏の「株式会社ひらまつ」により正規入されており、実はNo.6~No.11も国内で入手可能です(→オンラインショップ)。ただ、武川蒸留酒販売やその他のオンラインショップで入手可能な並行品があまりにも有名でこちらのNo.9~No.11が日本に輸入されていることはあまり知られてないかもしれません。

現在A.E.ドールのブランドは会社としては合併を繰り返し、少し複雑な構成になっています。現在A.E.ドール単体としての会社は存在せず、A.E.ドールのブランドはMaison ANSACが所有しています。

Maison ANSACは他にもジュールゴートレというコニャックブランドも所有しています。(→ジュールゴートレXOのレビュー)
かなり大きなコニャックメゾンです。更にややこしいことに、このMaison ANSAC自体もOcéalia Cooperative Group という巨大な食品会社グループに合併され子会社となっており、A.E.ドール自体の立ち位置は大きな会社の1つのブランドとなっています。

会社の体制が変わったとは言っても、 A.E.ドールのブランドの中身やマスターブレンダー、働いている方々やA.E.ドールの自体の体制はそのままで、畑や蒸留、セラーなどは昔のまま引き継いでいます。

ジュールゴートレの蒸留・熟成施設へ

A.E.ドールに伺う前に、同じMaison ANSACの所有ブランドであるジュールゴートレの醸造、蒸留施設と熟成庫、ボトリングラインを見学させてもらいました。この施設はあくまでもMaison ANSACとジュールゴートレ用のコニャックを作る施設。A.E.ドールのコニャックとは全く別です。

コチラに関してはまた別記事でまとめられたらと思います。

ここの蒸留施設もかなり大きく、ワインを予め温めておくショーフヴァンが蒸留器とは離れた場所にかなり大きなものがあるのが特徴的。その他写真のダイジェストでお送りします。

10機以上の蒸留器が並ぶ大きな施設
これは独立してワインを蒸留前に事前に温めるショーフヴァン
ワインタンク
ラック式に積み上げられた熟成樽

A.E.ドールの概要

その後、ランチを頂いた後、A.E.ドールのパラディセラーがあるジャルナックへ移動。

A.E.ドールのパラディセラーはずっと変わらずジャンルナックの中心部にあります。

おさらいとしてA.E.ドールの成り立ちと概要を記載しておきます。

A.E.ドールの創設は1858年。名前の由来は創設者であるAmédée Edouard DOR(アメデ・エドゥ・アール・ドール)のイニシャルです。

A.E.ドールのセラーには19世紀後半のフィロキセラ禍以前のコニャックなど貴重な1800年代の原酒がガラス瓶(ダムジャン)の中に多く保管されています。最も古い原酒を持つ生産者の一つです。

グランドシャンパーニュ、プティットシャンパーニュ、ボルドリ、ファンボアに23ヘクタールの自社畑も所有していますが、ここから取れたブドウ以外に契約農家から買い付けたブドウ、ワイン、オードヴィーも使用しています。

A.E.ドールの商品ラインナップ

A.E.ドールにはいくつか商品カテゴリがあるので、一応全部上げておきます。日本でよく見るのはNoシリーズですね。

Traditionシリーズ

一番リーズナブルなシリーズ。

A.E.Dor Sélection
A.E.Dor Rare fine Champagne
A.E.Dor Embleme
A.E.Dor Napoleon
A.E.Dor vieille fine Champagne XO
A.E.Dor Cigar
A.E.Dor Albane

Noシリーズ

日本で最も見かけるNoシリーズ。Noの意味は後述。

A.E. Dor Vieille Réserve No.6 (最低35年熟成 40度)
A.E. Dor Vieille Réserve No.7 (最低40年熟成 42度)
A.E. Dor Vieille Réserve No.8 (最低45年熟成 47度)
A.E. Dor Vieille Réserve No.9 (最低75年熟成 40度)
A.E. Dor Vieille Réserve No.10 (最低70年熟成 41.5度)
A.E. Dor Vieille Réserve No.11 (最低70年熟成 43度)

デカンタ

この辺りはかなり高級ラインナップ。最高級のA.E. Dor Sign Of Timeは飲ませて頂いたので後ほどレポートを!

A.E. DOR Extra Grande Champagne
A.E. Dor Coffret Prestige
A.E. Dor Sign Of Time

Noの意味は?

A.E.ドールといえばNoシリーズ、ということでこのNoの意味を少し掘り下げてみましょう。

No.6の由来は創業者のDOR氏が好きだった競馬に由来します。

1875年、馬のレースでDOR氏が選んだ馬は最初かなり眠たそうな目をした馬でしたが、レース終盤になって急に目覚めたようなすさまじい走りでレースを勝ち抜きます。そしてDOR氏は大金を手にすることに^^
その馬の名前はナターシャ、番号は6番でした。

という逸話を基に1970年にプロデュースされたのがA.E. Dor Vieille Réserve No.6。約35年熟成のグランドシャンパーニュコニャックです。

古いヴィンテージでNo.1やNo.2、No.3、No.4、No.5などもありますし、それ以降のNo.7、No.8、No.9、No.10、No,11もありますが、直接的に馬に関係しているかというとそうではなく、馬に関連しているのはNo6のみ。それ以外の番号は単純にNo.6からの連番で付けたそうです。

ジャルナックに移りA.E.ドールのパラディセラーへ

ランチを頂いた後、A.E.ドールのパラディセラーがあるジャルナックへ移動。ここに最古の原酒の一つが眠っています。

厳重なカギを開けて中に入ると・・・まず見えてくるのは古いボトルや当時の資料がそのまま残っている部屋へ。後ほどここでテイスティングタイムを設けて頂きました。

ここが全ての始まりの場所。創業時は全てここでボトリングなども行っていたそうです。

スペースの問題で2012年にボトリングや出荷場所などは全て移動されましたが、セラーは当時のまま残されています。

さらにその奥、鉄格子の扉を開けると・・・そこはまさにA.E.ドールのパラディセラー。天国です。長い長い眠りについている1800年代のコニャック達がお目見えです。

天国への扉を開けてもらう・・・・
ここはまだ天国の入り口

このパラディセラー内にあるガラス瓶(ダムジャン)で最も若いもので1893年!

そして最も古いものは1805年蒸留のコニャック!!

ナポレオンが皇帝にった翌年、ナポレオン率いるフランス軍が、ロシア・オーストリア連合軍を破った戦い「アウステルリッツの戦い」の時代です。恐らく最も古いコニャックの一つです。

その他1811年、1834年、1840年、1858年、1889年、1875年・・・・など様々な1800年代の貴重なコニャックがこのパラディセラーに眠っています。もはや歴史そのもの。

ちなみにこれらのコニャックはA.E.ドール・・というかコニャック全体にとっても遺産のようなものなので、この中身を商品化することは無いとのことです。

アルコール度数が40度を下回ってもOK?

写真を見て気づいたと思いますが、このダムジャンに入っているコニャックはアルコール度数が40%を下回っています。

あまりにも古いためアルコール度数はどうしても少しづつ下がっていき40%以上をキープするのは難しいのです。

例えば1840年のものはアルコール度数34%、1858年のものはアルコール度数37%、最も若い1893年でもアルコール度数36%。

1805年の最も古いコニャックに至ってはアルコール度数30%です。

コニャックの規定ではアルコール度数40%以上でなければコニャックとして認められません。しかし、このA.E.ドールだけは例外なのです。

理由は当時からのトレーサビリティが正確で、ちゃんとその年のヴィンテージコニャックであることが証明されているから。

そのためアルコール度数30%や35%の1800年代の原酒でも未だに「コニャック」として認められ存在しています。

歴史そのものを所有しているA.E.ドールだけの特権です。

ちなみに、封蝋が一部新しかったりするのは、毎年にいくつかのダムジャンを一度開封してアルコール度数や中身の状態を確認するからだそうです。また、ダムジャンの周りを覆っている木や藁もやはり経年でどうしてもボロボロになってしまうため、必要に応じて交換しているものもあるのだとか。

戦争中 隠し通した秘密のセラー

その背景として一つ面白かった話がこのコニャック達が200年以上の歴史中で多くの戦争に耐えてきたか。

特に大きかった出来事はやはり第一次世界大戦と第二次世界大戦。

第一次世界大戦の間はここのコニャック達は移動して洞窟の中で保管されていたそうです。

第二次世界大戦の際はDOR氏のひ孫にあたるNoël Denieuil-Dor氏(1922年-1972年のA.E.ドール当主)がセラーを全て壁で覆ってしまい、中に入れないようにしたそうです。彼の就任が終わった後、建物の設計図を構造上あるはずの部屋が無いことを不思議に思った関係者が壁を壊して1972年以降にこの部屋にDenieuil氏が隠したダムジャンが残っていたのを発見したそうです。部屋自体が壁で覆われて、その後20年~30年の間誰にも見つからず何も被害を受けずそのままの形で奇跡的に残っていたのです。

このセラーはDenieuil-Dor氏の時代から何も変わっていないそうです。

ちなみこのDenieuil氏が初めてA.E.ドールの古いコニャックをアルコール度数40%以下でもコニャックとして販売できる許可を取ったのは1951年のことです。

1800年代のコニャックをテイスティング

A.E.ドールのパラディを堪能させて頂いたところでテイスティングタイムへ。

ここで頂いたのは主にNoシリーズ。

日本でNo.6、No.7、No.8は飲んだことありましたが、それ以降のNo.9、No.10、No.11は初めて飲みました。

この日はNo.6からスタート。少し商品スペックの詳細を見てみましょう。

A.E.ドール No.6

アルコール度数40%
グランドシャンパーニュ100%
最低35年熟成
湿度の高い熟成庫で熟成
ノンシュガー・ノンカラメル・ノンチルフィルタード
加水あり

先述したナターシャが基になってできたコニャック。

A.E.ドール No.7

アルコール度数42%
グランドシャンパーニュ100%
最低40年熟成
湿度の高い熟成庫で熟成
ノンシュガー・ノンカラメル・ノンチルフィルタード
加水あり

A.E.ドール No.8

アルコール度数47%
グランドシャンパーニュ100%
最低45年熟成
ドライセラーで熟成
ノンシュガー・ノンカラメル・ノンチルフィルタード
加水無し

このNo.8から加水無しの全てナチュラル仕様となります。ドライセラーでの熟成とアルコール度数もありNo.7よりも熟成年数は長いけどNo.7よりもパワフルな仕上がり。

初めて知ったんですが、10年毎に新樽に変えて熟成させるそうです。

A.E.ドール No.9

ここから先は私自身初めて飲んだシリーズ。

アルコール度数42%
グランドシャンパーニュ80%、ファンボア20%
最低70年熟成
ノンシュガー・ノンカラメル・ノンチルフィルタード
加水無し

一部1914年の原酒が使用されている最低70年熟成という貴重なコニャック。

小売で1400~1500ユーロ、日本国内でも14万超えというなかなかの価格。でも当然かもしれませんが爆裂美味い。

A.E.ドール No.10

アルコール度数41.5%
グランドシャンパーニュ100%
最低70年熟成
ノンシュガー・ノンカラメル・ノンチルフィルタード
加水無し

A.E.ドール No.11

アルコール度数43%
グランドシャンパーニュ100%
最低70年熟成
ノンシュガー・ノンカラメル・ノンチルフィルタード
加水無し

1910年と1893年も使用してブレンドして作られている貴重な存在。

1914年と1858年のコニャックを飲ませて頂く

この2つは恐らく今回の旅全体で飲ませて頂いた最も古い且つ最も高価なコニャックとなります。

A.E. Dor Sign Of Time

A.E.ドール150周年記念として2008年にリリースされたコニャック。

言葉にならないくらい余韻が素晴らしい。炸裂するランシオ。

ちなみに小売価格としては約7,000~8,000ユーロ前後(約110万円!)

A.E. Dor No.4 (1858年)

歴史を飲ませて頂いた。

このセラーに残っている1858年に蒸留されたA.E. Dor No.4 Napoleon iii。アルコール度数37度。

ナポレオン3世時代のコニャックを口にすることができました。

いやぁもうここまでくると味がうんぬんというより、歴史の重圧で舌が溶けそうですね。。。

ちなみにオークションでは現在120万~200万くらいで取引されていた。

No.1~No.5

こちらは今や一般販売されていないA.E.ドールのNo.1~No.5のボトル。

どれもアルコール度数40度を下回るけどコニャックとしてに認可された唯一無二のコニャック達です。

お土産に凄いの頂いた

お土産に貴重なA.E.ドールNo.10のハーフボトル(350ml)を頂きました。しかも当時のボトルを再現した赤蝋封。

70年熟成、じっくり堪能させて頂きたいと思います。

歴史を飲み終え、新時代へ

19世紀の歴史を堪能し、その後は新たなる時代を開拓するコニャック生産者Jean Luc Pasquetへ!

こちらも前回2019年の訪問から約3年ぶりの再訪となります。優しく迎え入れて頂いたAmyさん、そして進化したJean Luc Pasquetのセラーとは!?

至高のフォルブランシュに迫ります。

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