数あるブランデーを代表するフランスの「コニャック」、「アルマニャック」、「カルヴァドス」。
今回はその中でも「アルマニャック(Armagnac)」について定義、生産域や製法、ラベルの読み方などアルマニャックの基礎的な事を網羅して参ります。
なお、コニャックに関するまとめはコチラ
→【保存版】コニャックの製造工程、原料ブドウ、生産エリア、熟成年数:コニャックに関する基礎知識まとめ
カルヴァドスに関するまとめはコチラ
→カルヴァドスはどうやって造られるのか?定義と生産方法・おすすめのカルヴァドス
今回はアルマニャック入門者向けにあくまでも基本的な事柄です。これを読んで是非アルマニャックって何?を理解して頂けると幸いです。
最も古いフレンチブランデー
アルマニャックの歴史はコニャックよりも更に古く、フランスの中では最も歴史のあるブランデーの一つです。
アルマニャックという名前が商品として使われた明確な証拠として残っているのは西暦1411年に遡ります。その後、1461年にはアルマニャックが一般市民の常飲ブランデーとしてガスコーニュにあるランド県で飲まれていたという記述が残っています。
アルマニャックとは何か?コニャックやカルヴァドス、ウイスキーとの違い
まずアルマニャックはブランデーの一種ですが、全てのブランデーがアルマニャックという訳ではありません。
アルマニャック は、フランス南西部の歴史的地方名であるガスコーニュの中央部に位置するアルマニャック地方で造られるブランデー(ランド県、ロット・エ・ガロンヌ県、ジェルス県の三県にまたがる地域)。
その場所で造られ、製造方法においてある一定の条件(原産地呼称統制=Appellation d’Origine Contrôlée=AOC)に則ったブランデーだけが「アルマニャック(Armagnac)」と名乗ることを許されるのです。
アルマニャックとは
アルマニャックの重要なポイントを簡単にまとめると次の通りです。詳細はそれぞれ後述します。
- フランス南西部アルマニャック地方で作られるブランデー
- 原料は白ブドウ
- 基本的に連続式蒸留器(1塔式連続式蒸留器)で1回蒸留用
- オーク樽で最低1年の熟成を完了させる
なお、参考までに広い意味でのブランデーとウイスキーの違いは次の通りです。
- ブランデー:果物(ブドウ、リンゴ、サクランボ等々)を発酵・蒸留させたお酒
- ウイスキー:穀類(大麦、ライ麦、トウモロコシ)を糖化・発酵・蒸留させ、木の樽にて熟成を行ったお酒
アルマニャックAOCや全体を管理しているのはどこ?
1936年に制定され、アルマニャックの製法に関する様々な法律を定めているAOCですが、アルマニャックの場合は全てBNIA(The Bureau National Interprofessionnel de l'Armagnac)という国立アルマニャック事務局によって管理されています。ちなみにコニャックにもBNICという同様の管理団体があります。
BNIAは現在、フランスの農林水産省にあたるthe Ministry of Agriculture and Financeの監視のもと、AOCの管理、アルマニャック農家のサポート、アルマニャックに関する品質やマーケット調査などアルマニャックに関する様々な事を管理する団体として機能しています。
BNIA公式サイトはコチラから
アルマニャックの生産者と年間生産量
アルマニャックはコニャックのヘネシー、マーテル、レミーマルタンのような大手ブランド的存在はなく、小規模生産者多いのが特徴です。
現在、アルマニャックの生産者は約800社(独立生産者500社、協同組合300社)、生産者から原酒を買い付け自社ブランドとしてリリースするネゴシアンは40社ほど存在します。
アルマニャックの年間生産量は約700万本。ちなみにコニャックは年間約1億7千万本の生産量があるためコニャックと比較すると20分の1程度の生産量ということになります。
またコニャックの場合、生産量の97%は海外輸出されますが、アルマニャックの場合輸出量は50%程度に留まっています。そのためアルマニャックは国内消費が多く、これが「アルマニャックは地酒的」と言われる所以です。
アルマニャックの原料となるブドウ品種は何?
ブドウを原料として造られるアルマニャックですが、アルマニャックでは10品種の白ブドウが原料として認められています。その中でも現在アルマニャックで主に使われているブドウは下記の4品種です。
ユニ・ブラン(Ugni Blanc)
- アルマニャックの60%に使用されている
- 別名サンテミリオン(St.Emillion)
- 酸味が強くアルコール度数が上がらないので蒸留酒向き
- コニャックでも多く使用されている
- 繊細で上品なブランデーが造られる
フォル・ブランシュ(Falle Blanche)
- アルマニャックの4~5%に使用
- かつては主要品種だったが、カビなどに弱く栽培に手間がかかるためユニ・ブランなどに植え替えられてきた
- フローラルでエレガントな香り高いブランデーが造られる
- 一部コニャックでも使用されている
バコ(Baco)
- アルマニャックの30%に使用
- フィロキセラによる被害の後に開発された品種で、フォル・ブランシュとノアの混種
- 特にバ・アルマニャックの土壌に適しており、長期熟成によりふくよかで複雑な香味を呈する
コロンバール(Colombard)
- アルマニャックの数%に使用
- ワイン用として多く作付されている
- 酒精強化ワイン、フロック・ド・ガスコーニュのベースとして利用
- アルマニャックに使用すると、ボディー感やフルーティーさがもたらされる
- 一部コニャックでも使用されている
アルマニャックの生産エリアは3つ
アルマニャックの原料となるブドウの生産域 (クリュ=Cru)は土壌の性質によって3つのエリアに区分けすることができます。
コニャックの場合、一般的に長熟で良いコニャックはグランドシャンパーニュに代表される石灰質土壌からできるとされていますが、アルマニャックの場合は使用するブドウ品種の違いから砂質土壌が最良とされています。
- 1.バ・アルマニャック(Bas-Armagnac)
- 2.テナレーズ (Tenareze)
- 3.オー・アルマニャック (Haut-Armagnac)
↓こちら↓がアルマニャック地域をクローズアップしたものです。
※地図はアルマニャック公式サイトより借用
それでは地図と併せて各地域の特徴を詳しく見ていきましょう。
1. バ・アルマニャック(Bas-Armagnac)
一般的にはバ・アルマニャック産のアルマニャックが最も高級とされています。最も西に位置し、珪砂や酸化鉄、海洋性堆積物を含む砂質土壌が特徴です。それ故、土壌は黄褐色となります。フォル・ブランシュやバコなどのブドウ品種が適しており、フルーティーで繊細な味が特徴的です。
2. テナレーズ (Tenareze)
アルマニャックの中央に位置するテレナーズ。重い粘土石灰岩質の土壌が特徴です。ユニ・ブランやコロンバールなどのブドウ品種の栽培に適しています。バ・アルマニャックより若干コクが強くなるようです。
3. オー・アルマニャック (Haut-Armagnac)
南部と東部に広がっている地域がオー・アルマニャックです。石灰質や粘土石灰質の土壌が特徴です。この地域のブドウ畑は広く疎らに広がっています。 品種としてはユニ・ブランが適していると言われています。
生産者は点在していますが、あまり生産量は多くありません。
(その他)AOCアルマニャック
アルマニャックのAOCとしては「Armagnac(アルマニャック)」というそのまんまの呼称も存在します。これは上記3エリアのうち2つ以上のエリアの原酒をブレンドしたものを呼ぶ場合に使用されます。
アルマニャックの製造工程:ブドウの収穫から瓶詰まで
アルマニャックの生産周期は基本的にコニャックと同じく毎年4月1日から翌年3月末までの1年間です。
ざっくりと次のようなサイクルでアルマニャックの生産が行われます。
①4月~9月頃:原料となるブドウが育つ
②9月~10月:ブドウの収穫・発酵・ワイン作り
③11月~翌3月31日まで:連続式蒸留器で蒸留
④熟成
⑤ブレンド
⑥ボトリング
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①4月~9月頃:原料となるブドウが育つ
毎年新たなブドウがこの時期に育ち9月末頃までには収穫の準備が整うようになります。
②9月~10月:ブドウの収穫・発酵・ワイン作り
10月頃にかけてブドウの収穫が行われます。
プレスを終え搾り取られた果汁はワインにするために発酵タンクへ送られます。ブドウ品種ごとに発酵を行います。また亜硫酸添加や加糖は禁止されています。
発酵期間は生産者や収穫量によっても異なりますがブドウ収穫後3週間程続きます。発行時のアルコール度数は8~10%となります。
③11月~翌3月31日まで:連続式蒸留器で蒸留
コニャックが単式蒸留器で2回蒸溜であるのに対し、現在アルマニャックの製造の95%は連続式蒸留器にて蒸留(1回蒸溜)されています。通常1~2週間連続して稼働させます。
一般的には毎年11月からから蒸留を行います。蒸留は翌年3月31日までに完了させる必要があります。
アルマニャックも以前は単式蒸留器を使用していましたが、この連続式蒸留器は1818年頃から使用され始めました。
1972年以降コニャックで使用されるシャラント式単式蒸留器での蒸留も認められ、現在一部ではシャラント式単式蒸留器(2回蒸留)を使用しているアルマニャック生産者も存在します。
アルマニャックの連続式蒸留器は1回の蒸留でアルコール度数52%~72%の蒸留液を取ることが可能です。現状、一般的には52%~60%の間で蒸留液を取り出します。
アルマニャックの蒸留の様子を分かりやすく動画にしたものはコチラです↓
④熟成
蒸溜された原酒は容量400~420ℓのオークの樽に詰められます。樽主にリムーザンで取れるオーク樽(リムーザンオーク)が使用されます。一部、地元で取れるガスコンオークが使用されることもあります。なおガスコンオークの使用率は10%程度です。
アルマニャックを名乗るには最低1年間の樽熟成が必要となります。
熟成年数は商品によってさまざまで、5年、10年、20年・・・古いものだと60年、80年、100年・・・といったアルマニャックも存在します。
樽での熟成は一般的に長くても50年程のものが多く、それ以上のピークを越えたアルマニャックは樽からボンボンヌ(ディミジョン)というガラス瓶に移されその中でさらに長い眠りにつきます。
VSOP、XO、ヴィンテージなどアルマニャックの熟成年数による表記の違いやラベルの読み方は後述します。
ダローズなど一部のネゴシアン(自社で蒸留せずに原酒を買い取り自社ブランドとしてボトリングする)は買い取った原酒を自社で熟成させる場合があります。
⑤ブレンド
コニャックと比較してアルマニャックはヴィンテージ品が多く存在し、ブレンドアルマニャックの比率は多くはありませんが、さまざまな年代や原酒をブレンドしてボトリングする場合ももちろんあります。
⑥ボトリング
熟成を経て世に出してもOKと判断されたアルマニャックはいよいよボトリングされます。
ボトリング方法は生産者によっても様々で、機械によるボトリングを行うところもあれば1本1本手動でボトリングする所もあります。小規模生産者が多いためコニャックのように大規模なボトリング施設を持つ生産者は少ないのが現状です。
アルマニャックで許可されている添加物
アルマニャックの製造工程ではコニャックと同様の下記添加物が認められています。主にブレンデッド アルマニャックに使用されますが、使用するかしないかはそのブランドや生産者、状況によりけりです。
水(Water)
加水のこと。加水は「添加物」というよりもアルコール度数を下げるために一般的に行われている手法です。しかしながらコニャックと比較するとアルマニャックは加水なしタイプのものが多く存在する印象です。
糖(Sugar)
アルマニャックに円やかさを付与するため加糖されることがあります。
カラメル色素(Caramel Coloring)
ブレンド後のアルマニャックの色を過去のブレンド商品と同一に保つためや、最終的な色素の調整などの目的に使われることがあります。一般的にスピリッツカラメルとしても知られる「E150a」というカラメル色素のみ使用可能です。カラメルは少しの量で色が大きく変わるため、添加量は多くとも全体量の0.01%以下(1Lに対し1mg以下)であることがほとんどです。
オークチップ(Boise (Bwah-zay))
アルマニャックに濃い色と樽感を出すため、あるいは新樽を使わずともよりタンニンと樽の熟成感を出す「ショートカット」としてオークチップが用いられる場合があります。使用する場合はオークチップを水でボイルした後、チップを取り除き、ゆっくりと水を取り除きながら残ったオーク樽感とタンニンを含んだ液体を使用します場合が多いので。しかしながらオークチップの添加は本来の味わいから大きく変わるため使用されるのはかなりレアケースのような印象です。
アルマニャックの熟成年数とラベルの読み方
アルマニャックにもコニャックと同様にVSやVSOP、XOといった熟成年数に応じた表記が存在します。
しかしながらコニャックと比較してその表記が使用される事が圧倒的に少ないのが特徴的です。その代わりアルマニャックでは最低熟成年数をラベルに記載したものや、ヴィンテージアルマニャックが多く存在します。
それぞれの特徴を見てみましょう。
最低熟成年数で表す表記
主にブレンドされたアルマニャックに用いられる表記です。ブレンドされているアルマニャックで最も若い熟成年数を表記することが可能です。
例えば熟成年数20年、25年、40年のアルマニャックがブレンドされていた場合、そのアルマニャックのラベルでは「20 ans(20年)」といった表記が可能となります。
VSOP、XOなどのラベル表記
アルマニャックにおけるVS、VSOP、XOなどの表記基準は下記の通りです。
VS(Very Special)・★★★(スリースター/Trois Etoiles)
→最低熟成年数1年経過
VSOP(Very Superior Old Pale)
→最低熟成年数4年経過
XO・HORS D'AGE
→最低熟成年数10年経過
先述した熟成年数表記と同様、ブレンドされている場合はブレンドされている最も若い熟成年数が適用されます。例えば熟成年数4年、15年、20年のアルマニャックがブレンドされていた場合、そのアルマニャックの表記は「VSOP」とする必要があります。
コニャックの場合VS・スリースターは最低2年必要でアルマニャックとは違いますのでそこだけ注意が必要です。
ヴィンテージ アルマニャック
アルマニャックの最たる特徴といってもいいのがヴィンテージアルマニャックの豊富さです。むしろヴィンテージ品がアルマニャックにとってスタンダードといっても過言ではないかもしれません。
ヴィンテージ表記は原料となるブドウの収穫年を表記します。ヴィンテージアルマニャックはもちろんシングルヴィンテージである必要があり、他の収穫年のアルマニャックをブレンドすることはできません。例えば1982年10月に収穫されたブドウで造ったヴィンテージアルマニャックの表記は「1982」となります。
ちなみにヴィンテージ表記を行う場合最低でもXOクラスにあたる最低10年の熟成年数を経る必要があります。
おすすめのアルマニャック
アルマニャック生産の基本が分かった所でいくつかBrandy Daddy的おすすめアルマニャックのブランドを紹介します。とはいってもアルマニャック自体国内に入っている数が少ないので限られた選択肢になってしまいますが、少しでも購入の参考になれば幸いです。
自社で蒸留や熟成を行う生産者(ドメーヌ)と自社で蒸留せずに原酒を買い取り自社ブランドとしてボトリングするネゴシアンに分けて紹介します。後者のネゴシアンはウイスキーでいうボトラーズのようなものと思っていただければ良いです。
おすすめのドメーヌ
ドメーヌ・ボワニエル
→高品質で濃厚なアルマニャック生産者として知られるボワニエル。この重厚感は他のアルマニャックと一線を画します。
シャトー・ド・ラキー
→「グラン・バ・アルマニャック」とも評される更なる黄金地帯に位置するアルマニャック最古の家族経営シャトー。
おすすめのネゴシアン
ダローズ
→買い付けた原酒を自社で熟成させベストなタイミングでボトリングするネゴシアンの代表格。高品質なヴィンテージアルマニャックが豊富。
ジェラス
→日本に入っているネゴシアン アルマニャックの代表格。定番品のブレンドアルマニャックが多く存在するので初めてのアルマニャックの基準として最適。
よいアルマニャックライフを
コニャックと比較して「男性的」「荒々しい」なんて表現されるアルマニャックですが、よく味わってみるとコニャック以上に一つ一つが個性的でボトルごとの違いを楽しむことができるのが最大の特徴。
まだまだ魔境的存在のアルマニャックですが、是非様々なアルマニャックを楽しんで頂けると幸いです^^
よいアルマニャックライフを!