滞在7日目その2
2023年1月17日(火)
さて、一通りバッシュガブリエルセンの体制を振り返ったところで、熟成庫に移動します。
こちらはいくつかあるバッシュ・ガブリエルセンが持つ3つの熟成庫のうちのひとつ。本社、テイスティングルームのすぐ隣にあります。パラディセラーもこちらにあります。
この熟成庫はコニャック市街地中心部にあるので、消防法の制限上あまりアルコール度数の高いコニャックを大量に貯蔵することができません。そのためアルコール度数が落ちた比較的熟成年数が長いコニャック達や、容量の少ないカスクオーナー向けのプライベートカスク等(後述します)がメインに置かれています。
アメリカンオークがお出まし
熟成庫に入るとすぐ左側に見えるのはフレンチオークではなく、アメリカンオーク。
2016年にバッシュ・ガブリエルセンが革新的なコニャックとしてリリースしたアメリカンオークフィニッシュに使われている樽です。
アメリカンオークフィニッシュは大手コニャックメーカーに対抗する商品として生まれたのですが、2016年当初はまだフレンチオーク以外のオーク樽でフィニッシュをかけられたコニャックは珍しいものでした。当時からバッシュ・ガブリエルセンは何か革新的なことにチャレンジしていきたいと展望があり、そこで出会ったのがアメリカンオーク。
セラーマスターのJean Philippe氏もこのアメリカンオークの甘みとまろやかさの変化が大変気に入り、商品化に至ったそう。
アメリカンオークフィニッシュコニャックの熟成年数は約4~5年フレンチオークで熟成させた後、数ヶ月アメリカンオークで追熟させます。使われているアメリカンオークの焼きはVery Light Toasted。バーボンの様に焦さず、アメリカンオークの風味をより活かすためにかなり軽い焼き具合としています。焼きすぎるとタンニンが出すぎてしまうし、必要なタンニンは最初のフレンチオークでの熟成時に十分についているので、焼き自体はそこまで必要ないのです。
様々な実験樽が・・・
入ってすぐ左が実際に今使われているアメリカンオークなのに対し右側には様々な種類の樽が並んでいました。
このエリアはセラーマスターの実験エリア(笑)。商品化されるか分かりませんが、いろんな種類の樽でフィニッシュをかけて、どのように仕上がるかを実験している途中でした。
並んでいる樽の中には、アカシア、チェリー、栗樽などオーク以外の樽もあり、実際に熟成中のコニャックを嗅がせて頂きましたが非常に面白い仕上がりでした。ちなみにコニャックの熟成には使われる樽は「オーク」である必要があります。アカシアやチェリー、栗樽はオークではないためこの樽で熟成させたものはコニャックとは名乗れず、フレンチブランデーとなります。
どのような樽が使われるのか?
それではアメリカンオークエリア、実験樽エリアを抜けて普通のコニャックに使われる熟成樽を見ていきましょう。
バッシュ・ガブリエルセンの熟成に使われる樽のタイプは種としてリムーザンタイプの樽が使われます。木の繊維の幅が広くより力強いコニャックに仕上がるタイプの樽です。
リムーザンタイプ、トロンセタイプの違いはこちらの記事を参照してください。
バッシュ・ガブリエルセンが契約農家、蒸留所から買い取るオードヴィーは澱と一緒に蒸留された力強いオードヴィーです。
その力強さを最大限に活かす樽が選定されています。
↑こちらは、ちょうど樽の中身を取り出している所。この樽のコニャックは2011年にノルウェーの方が買い取り、これからちょうどボトリングされるところらしいです。いやぁ、私もいつかひと樽買いやってみたいですねぇ。。。
アロマ官能評価にチャレンジ!
熟成庫の奥に行くとちょっとしたイベントが(笑)
ここには8種類の瓶があり、どの瓶のコニャックがどのアロマに該当するか当てるゲームができます。アロマの種類としては次の8種類です。
フルーティー(オレンジ、洋ナシ)
フローラル(バラ、ジャスミン)
ウッディ(ヴァニラ、クルミ)
スパイシー(リコリス、ペッパー)
早速私もチャレンジ!!
結果・・・8種類中6種正解。
リコリスとクルミを間違う痛恨のミス!!!
まぁ・・・リコリスは・・日本人には馴染薄い・・から・・・ね?(言い訳)
一番分かりやすかったのはペッパー。コニャックに胡椒入れたんじゃないかってくらい胡椒です。ひと嗅ぎした瞬間に胡椒と認識しました。コニャックでここまで胡椒っぽさに特化したアロマが出せるのはめちゃめちゃ驚き。
このゲームでは特にアロマが分かりやすいコニャックが集められていましたが、Jean Philippe氏はじめセラーマスター、マスターブレンダーの方はこれの何百倍も繊細で何百倍も豊富な種類のアロマを嗅ぎ分ける事ができるのですからもう尊敬しかありません。。。。
バッシュ・ガブリエルセンのパラディセラーへ
こちらがバッシュ・ガブリエルセンのパラディセラー。
ここにあるコニャックはこれ以上熟成が進まないよう全てベストな状態でダムジャン(ガラス瓶)に入れて保管されています。
バッシュ・ガブリエルセンが持つ最も古いダムジャンは1842年ヴィンテージ。
この配置を見て真っ先に「もし地震が来たら・・・」と心配してしまうのは日本人の性でしょうか(笑)
プライベートカスクシリーズ
最後にこちら。この綺麗に並んだ小さな樽達はバッシュ・ガブリエルセンが行っているプライベートカスクシリーズ。
グランドシャンパーニュ、プティットシャンパーニュ、ファンボアのいずれか自分の好きな生産エリアからバッシュ・ガブリエルセンのオードヴィーを自分用に熟成できる人気のサービスです。
小さな樽なので熟成の進み具合が早く(というか樽の影響が強く出るので)グランドシャンパーニュは6年、プティットシャンパーニュは4年、ファンボアは2年の熟成が推奨らしいのですが、もちろん希望によりそれ以上の期間熟成させることも可能です。人によっては10年以上の熟成を希望する方も。
カスクオーナーは毎年自分のサンプルを受け取ることができます。通常の350L熟成の樽とは全く違った熟成感になるかもしれませんが、そのキャラクターも楽しみですね。
最終的には完成したコニャックを約50本程ボトリングしてもらうことが可能です。
今のところ誰でも申込ができるようなので、興味のある方は是非試してみて下さい^^
テイスティングタイム
一通りセラーを見学させてもらい、続いてはテイスティングタイム。
少し時間に余裕もあったので、スタンダードラインナップを10種類テイスティングさせて頂きました。
バッシュ・ガブリエルセンのスタンダードラインナップですが、あまり他のサイトでは熟成年数が書いていなかったので、私が今回テイスティングしたスペック詳細を記載しておきますね。
バッシュ・ガブリエルセン VS 3 Kors
ファンボアがメイン、プティットシャンパーニュ・ボンボア・グランドシャンパーニュ少々
アルコール度数:40%
熟成年数:2~4年のブレンド
バッシュ・ガブリエルセン VSOP Triple Cask
ファンボアメイン
アルコール度数:40%
熟成年数:約6年のブレンド
バッシュ・ガブリエルセン VSOP Organic 5 years
ファンボアメイン、プティットシャンパーニュ少々
アルコール度数:40%
熟成年数:5年
オーガニックコニャック
バッシュ・ガブリエルセン アメリカンオークカスク
ブレンド
アルコール度数:40%
熟成年数:4~5年ブレンド
アメリカンオークカスクフィニッシュ
バッシュ・ガブリエルセン XO フィーヌシャンパーニュ
フィーヌシャンパーニュ(グランドシャンパーニュ50%以上+プティットシャンパーニュ)
アルコール度数:40%
熟成年数:15年~20年ブレンド
ノルウェーで一番人気。
バッシュ・ガブリエルセン ダブルマチュレーション
グランドシャンパーニュ100%
アルコール度数:47%
熟成年数:フレンチオークで7年、その後ピノーデシャラントカスクで45ヶ月熟成
ピノーデシャラントカスクフィニッシュ
限定960本
バッシュ・ガブリエルセン EXTRA
グランドシャンパーニュ100%
アルコール度数:40%
熟成年数:30年~35年(最低20年)ブレンド
バッシュ・ガブリエルセン ヴィンテージ1988 (24 years)
ファンボア100%
アルコール度数:40%
熟成年数:24年 1988年ヴィンテージ 2013年ボトリング
バッシュ・ガブリエルセン ボルドリ Lot 92
ボルドリ100%
アルコール度数:47%
熟成年数:1992年ヴィンテージ 2022年ボトリング。
オーク樽熟成24年、それ以降6年はダムジャン(ガラス瓶)にて保管。
シングルバッチ、シングルカスク、限定504本(350ml)
バッシュ・ガブリエルセン HORS D'AGE
グランドシャンパーニュ100%
アルコール度数:40%
熟成年数:最低50年熟成(最大80年熟成くらいのブレンド)
セラーマスターと共に
このテイスティングルームではセラーマスターのJean Philippe氏と共にテイスティングさせて頂きました。
HORS D'AGEがめちゃめちゃ美味しいのは言うまでもないのですが、この中でも興味深かったのはアメリカンオークフィニッシュと、ボルドリ Lot 92。
アメリカンオークでフィニッシュされたコニャックは他のブランドでもいくつか飲んだことありましたが、方向性としてはやはりヴァニラ感が強くかなり甘めな印象。フランソワヴォワイエもアメリカンオークフィニッシュがありますが、ウッディさはヴォワイエのの方が強く、バッシュ・ガブリエルセンの方が同じアメリカンオークフィニッシュでもやや軽めの印象。
元のオードヴィーやフレンチオークの影響ももちろんありますが、バッシュ・ガブリエルセンのアメリカンオークは超ライトトーストという焼き具合もかなり大きいように思えます。マーテルのブルースウィフト(これは使用済みバーボン樽ですが)に少し近い印象を受けます。個人的にはアメリカンオークフィニッシュのコニャックの中ではこのバッシュ・ガブリエルセンのやつが一番好きかも。
一般的なフレンチオークで5年熟成されたコニャックとは特性がかなり異なりますが、コニャックのバリエーションを楽しんだり、少し違ったアプローチでコニャックに興味を持ってもらうには面白いボトルです。
先述しましたがこのアメリカンオークフィニッシュが出た2016年頃は、フレンチオーク以外で熟成をかけたコニャックはかなり珍しく異質な存在でした。Jean Philippe氏は1989年からセラーマスターを務める大ベテラン。そんな中、保守的にではなく前衛的にいち早く様々なコニャックの在り方を探り世に出したJean Philippe氏のチャレンジ精神に脱帽です。
ボルドリ Lot92はバッシュ・ガブリエルセンとしては珍しいボルドリ単一生産域でのリリースです。アルコール度数47%という高さもあってか、ボルドリのフローラルな香味も感じますがややパンチが派手に強いている感じもします。今後バッシュ・ガブリエルセンとしてもこのような単一生産域のコニャックは継続的にリリースしていきたいとのことで、今後の期待が高まる1本です。
そしてやはり最高位に幸せな香味を体験できるのはHORS D'AGE。グランドシャンパーニュの良さがバッチリ詰まった1本です。
グランドシャンパーニュの強みは50年、60年の熟成を経てもフレッシュさが残っていること。このフレッシュさとランシオの絶妙なバランスは他のファンボアやボルドリにはなかなか出せない香味なのですよね。
バッシュ・ガブリエルセンのセラー内には樽で60年熟成しているグランドシャンパーニュの原酒もあるけど、それはあと20年くらいダムジャン(ガラス瓶)に移すことなく古樽の中で寝かせても樽に負けないくらいフレッシュさと葡萄本来のアロマが残っているとのことです。
その後、ボルドリLot92をお土産で1本頂きました。限定生産だけどよかったのかなぁ・・・ありがとうございます!!
日本ですと鯉沼氏が輸入しているバッシュ・ガブリエルセンのボルドリ1994ヴィンテージが購入可能です。実は私も持っているので、そちらと飲み比べしても楽しそう!
そんなこんなで貴重な体験とテイスティングタイムを設けて頂き、大満足の午前中でございました。
案内して頂いたショップマネージャーのAilsaさん、セラーマスターのJean-Philippeさん、本当にありがとうございました。
また来年、必ず訪れることを誓って、コニャック市街地にあるバッシュ・ガブリエルセンの本社を後にし、午後の予定に向かいます。
午後は今回のコニャック渡航の中でも最も楽しみにしていた生産者のひとつ、ボンボアエリアの家族経営生産者「Domaine de Chêne」へと向かいます。
そこで出会った究極のボンボアコニャック、そして想像を絶するピノーデシャラント達を是非とも皆様にお伝えしたいです。