まずおさらいとして、コニャックの生産エリアは下記6つのエリアに区分けされます。
- グランド シャンパーニュ(Grande Champagne)
- プティット シャンパーニュ(Petite Champagne)
- ボルドリ(Borderies)
- ファン ボア(Fins Bois)
- ボン ボア(Bons Bois)
- ボア ゾルディネール(Bois Ordinaires)
その中でも最も良いとされている土壌が1つめのグランドシャンパーニュの生産エリアです。
各生産エリアの基本情報に関しては下記記事をご参照下さい。
→コニャックの生産エリア
生産エリアの詳細な境界線はコチラのGoogle Mapで参照可能です。
→最強コニャックマップ by Google my map
ではなぜグランドシャンパーニュの土壌はそれほど良いとされているのでしょうか?そしてそうなった経緯とは?
今回は少しマニアックですがコニャックの土壌の成り立ちをもう少し詳しく見ていきましょう。
グランドシャンパーニュの基本情報
ではまず一般的なグランドシャンパーニュの土壌の特徴を記載します。
グランド・シャンパーニュ地域は全体で約34,700ヘクタールあります。このうち葡萄作付面積は約13,250ヘクタールです。
土壌は白亜紀後期の地質。灰白色の軟土質の石灰岩(炭酸カルシウムの微粒の岩)の地層の上に、浅く粘土質の砂とゴロゴロとした石灰岩の土壌に覆われて構成されている事が特徴です。
ではこの白亜質の地質をもう少し細かい地層で分けてみましょう。
白亜紀・ジュラ紀の地層の名前
まず前提として、コニャックの生産エリアは白亜紀(約1億4,500万年前から6,600万年前)とジュラ紀(約2億130万年前から1億4550万年前)の地層で成り立っています。白亜紀の方が新しい時代ですね。
それぞれエリアによって種類が違うのですが、まずは参考情報としてジュラ紀と白亜紀の地層の名前だけ記載しておきます。この辺りはワインの土壌に詳しい方やソムリエの方はご存じかと思います。上に行くほど新しく、下に行くほど古い地層です。
白亜紀の地層
- カンパニエン(Champanian)
- サントニエン(Santonien)
- コニアシエン(Coniacien)
- トゥロニエン(Turonien)
- セノマニエン(Cenomanien)
ジュラ紀の地層
- チトニエン(Tithonien) / ピュルベキエン(Purbecken)
- チトニエン(Tithonien)/ ポルティアンディエン(Portiandien)
- キンメリジャン(Kimmeridgien)
- オクスフォディエン(Oxfordien)
- バトニエン(Bathonien)
- バジョニエン(Bajonien)
グランドシャンパーニュ内で異なる土壌
まず、現在のコニャックの生産エリアの区分けが確定したのは1860年に遡ります。
1860年代にフランスの地質学者であるアンリ・コカン(H. Coquand)氏が行った地質調査に基づき、1909年5月1日に規定され、1938年に正式に認可されました。現在の区分けは1938年から動いていません。ここまではコニャックファンの方であれば知っている方は多いかもしれません。
しかし、この1909年と1938年の間には実は大きな変動がありました。
現在のグランドシャンパーニュのエリアはシャラント川とネ川を境界線にして広がっています。もちろんコニャックの名がついた中心の街、その名の通り「Cognac」もグランドシャンパーニュに含まれています。しかし、当初アンリ・コカンが行った調査ではコニャックの街はグランドシャンパーニュに含まれる予定がありませんでした。
それにはグランドシャンパーニュ内でも異なる地質の違いがありました。
グランドシャンパーニュ周辺の3種の土壌
まずグランドシャンパーニュ周辺の土壌の話をするにあたり、特に白亜紀の3つの地層が重要になってきます。
- カンパニエン(Champanian)
- サントニエン(Santonien)
- コニアシエン(Coniacien)
カンパニエン
この中で最もコニャックのブドウ作りに適しているとされる地質が1つめのカンパニエンです。グランドシャンパーニュの70%くらいをカバーしています。
このカンパニエンとは白亜紀時代(約1億4,500万年前から6,600万年前)に作られた特殊な白亜質地層で、白亜紀の地層の中では最も新しい地層です。他の生産エリアの土壌には見られない「Ostrea Vesicularis(オストレア ヴェシキュラリス)」という白亜紀の牡蠣の貝殻が堆積してできた石灰質を多く含んでいる土壌です。
このカンパニエンの石灰土壌はコニャック用のブドウを育てる上で最も適している土壌とされています。灰白色の軟土質の石灰岩(炭酸カルシウムの微粒の岩)の地層の上に、浅く粘土質の砂とゴロゴロとした石灰岩の土壌に覆われて構成されている事が特徴です。コニャックの年間降雨量は800ml程度なのですが、このほとんどは冬場の雨によるもので、夏場は乾燥している事が多いです。しかし、この特殊な石灰土壌のおかげで雨季の雨水をスポンジのように吸収し蓄え、夏の降雨量が少ないコニャック地方でも地中に十分な水分をブドウの木に供給することができます。灌漑(人工的な水やり)が禁止されているコニャック作りにおいては大きな利点です。また砕けやすく隙間も多い土壌のためブドウの根が深くまで入りやすくより多くのミネラルを吸収できるという特徴もあります。
このカンパニエン土壌は白亜紀の地層の中でも最も上部の地層にあたるため、グランドシャンパーニュの中でも丘状に隆起した部分に顕著な土壌です。他のエリアは気候によりカンパニエン土壌が洗い流されたりして残っていない事が多く、グランドシャンパーニュの中でも最も良いとされる丘状の畑の特権です。この特徴はコニャックの生産域でもグランドシャンパーニュにのみ見られる土壌で、グランドシャンパーニュの石灰質土壌が評価が高い所以でもあります。
ちなみに、日本の北海道にもこのカンパニアンと同質の土壌が存在しています。ただ、気候(気温・日照時間・降雨量)が違うのでコニャックと同じようなブドウを育てるのは難しいですね。
サントニエン
サントニエンはカンパニエンの次に古い地層。主にグランドシャンパーニュ北側と、隣接するプティットシャンパーニュエリアに見られる地質です。
こちちらも同じ白亜質の土壌なのですが、カンパニエンより少し石灰質は少なく固い。カンパニアンに次ぐ良い白亜質(石灰質)土壌とされています。このサントニエンは一部グランドシャンパーニュエリアにも存在し・・というかカンパニアンとサントニエンは混ざり合っており、実はその境界線は非常に曖昧なのです。
コニアシエン
コニアシエンとはまさにその名の通りコニャックの中心地である街「Cognac」を形成している土壌です。
コニアシエンも白亜質の石灰土壌ではあるものの、カンパニエンやサントニエンとはやや異なり、オストレア ヴェシキュラリスを多く含まず、更にやや硬い石灰質土壌で構成されており、コニャック用のブドウの栽培のにおいてはカンパニアン、サントニエンと比較するとやや劣る(という言い方は不適切かもしれませんが)という特徴を持ちます。
コニャックの街はグランドシャンパーニュじゃなかった?
元々1909年の時点ではアンリ・コカン氏考えたグランドシャンパーニュのエリアは、カンパニエンが多く含まれる土壌を指すものでした。
そのためコニアシエン土壌を主とするコニャックの街はこのグランドシャンパーニュエリアには含まれませんでした。しかしながらやはりコニャックの貿易の中心となった町、かつコニャック自体にこの街の名前がついていることから、簡単にいうと「コニック作りの中心地であるコニャック(街名)がグランドシャンパーニュに含まれないのはいかがなものか」といった様々な議論があり最終的にコニャックの街もグランドシャンパーニュに含まれることになったのです。
白亜紀がキーポイント
やはりこう考えると、白亜紀の地層、白亜質というのがいかにコニャックのブドウ作りにとって重要で、その中でもカンパニアンという特殊な地質で構成されたグランドシャンパーニュエリアがなぜ貴重で最も取引値が高いエリアなのかが改めて良く分かります。
境界線は目安である?
今となっては当たり前となったコニャックの生産エリア。
しかしながら、その生産エリアの境界線が地図に書いた線のように実際の土壌で明確にバツっと区切られているかというとそうではありません。自然ですからね。
グランドシャンパーニュとプティットシャンパーニュの間でも曖昧なエリアはあったりします。ファンボアの中にもグランドシャンパーニュと同じ地質を持つエリアも実はあったりします。もっと遠くのファンボアやボンボア、ボアゾルディネールにおいては混ざり合うように境界線は曖昧に変化していきます。
その辺りはコチラの「コニャック6つの産地(クリュ)は明確に定義できないし地図通りではない?」にも少し書いていますので是非ご参考に。
しかしながらやはりコニャックの値付け、主に大手がコニャックの原酒や元となるブドウやワインを買い取る際の値付けには生産域の境界線というのはなくてはなりません。
ボルドリだけは明確だった?
例外として最も小さい面積の生産域であるボルドリ(Borderies)エリアだけは他の生産域とくらべかなり境界線が明確だったようです。このボルドリエリアはグランドシャンパーニュの隣に位置するのですが、グランドシャンパーニュが白亜紀(約1億4,500万年前から6,600万年前)の土壌だったのに対し、このボルドリエリアはその一つ前のジュラ紀(約2億130万年前から1億4550万年前)の粘土質土壌と白亜紀のコニアシエンの石灰質が少し混ざったような地質をしています。Champanian Bordriesなんて呼ばれたりします。
このボルドリエリアは約1000万年ほど前からシャラント川の浸食作用によって、本来ジュラ紀の地層よりも上にあるはずのコニアシエン(白亜紀)の石灰質が徐々に削られていきました。そのためコニアシエンの石灰質とジュラ紀の粘土質が混ざり合う独特な地質となっています。
ボルドリ(Borderies)とは元々ボーダー:境界線や国境を意味する言葉で、このエリアだけ境界線がかなり明確だったことに由来しています。
結局は生産者次第である
生産域とは別の視点で地層や地質そのものに着目するとまた違った視点で見る事ができ面白いですね。数億年前のジュラ紀や白亜紀の土が今のコニャック作りに欠かせない存在で、いかに我々に恩恵を与えているか驚くばかりです。
しかしながら最終的にそれをコニャックとして形作るのは人間の手。生産者の手にかかっています。
同じグランドシャンパーニュの同じ土壌でもやはり手入れが行き届いているかいないかで大きな差がでますし、ましてや何十年と熟成させるコニャックです。
生産域や土壌の「面」を把握するのはもちろん大事ですが、やはり最終的には「点」。行きつくのはその生産者がいかに土壌の良さを引き出しているかどうかですね。
少しマニアックな話ではありますが、コニャックの生産域の新たな視点、グランドシャンパーニュの土壌の更に細かい特徴として参考になれば幸いです。
参考記事
→コニャック地方のブドウ生産域による細かな区分け
→最強コニャック マップ完成!約300の生産者と生産域のエリア分けができるGoogle Map
→コニャックの製造工程、原料ブドウ、生産エリア、熟成年数:コニャックに関する基礎知識まとめ