「コニャック(Cognac)」は数あるブランデーの中でも最も厳しい基準をクリアして作られるフランスのブランデーの一つです。
ストレートからハイボール、ブランデーカクテルのベースなど、様々な飲み方で世界中で楽しまれるブランデーの王様?「コニャック」の作られ方をまとめました!これを読めばコニャックの基礎知識はバッチリでしょう。(たぶん!)
※あくまでも基礎的な内容がメインなので、もっと細かい事は当記事の各所にある参考記事をご覧ください。
記事ボリュームが多いため、必要な箇所や興味のある項目を下記目次から選んで読んで頂くとよいでしょう。
コニャックとは何か?コニャックと他のブランデーの違い
コニャックはブランデーの一種ですが、全てのブランデーをコニャックと呼ぶことはできません。
フランスのパリから500kmほど南に離れたコニャック地方で作られ、製造方法においてある一定の条件(原産地呼称統制=Appellation d’Origine Contrôlée=AOC)に則ったブランデーだけが「コニャック(Cognac)」と名乗ることを許されるのです。
このAOCはフランスのコニャック管理局であるBureau National Interprofessionnel du Cognac (通称:BNIC)によって定められています。
→BNIC Webサイト
まずは基礎的な知識としてざっくりとブランデーとコニャックの違いを記します。
広義のブランデーとは
- ブドウやリンゴ、サクランボなどの果実が原料
- それらを発酵させ、さらに蒸留した蒸留酒
コニャックとは
- フランスのコニャック地方で作られるブランデー
- 原料は白ブドウ
- シャラント式単式蒸留器で2回蒸留
- オーク樽で最低2年の熟成を完了(=3年以上)させる
といった違いがあります。
それでは細かく見て参りましょう。
コニャックの原料となるブドウはどんな品種?
まず、コニャックは何からできるお酒かというと、白ブドウです。ある特定の品種のブドウが原料となり最終的にコニャックとなります。
95%がユニブラン
コニャックの原料として認められているブドウはいくつか種類があるのですが、そのうち95%が
「ユニブラン(Ugni Blanc)」
という品種です。
その他に使用されるのは
- コロンバール(Colombard)
- フォルブランシュ(Folle Blanche)
といったブドウ品種があります。
またコニャックを作る際に全体の10%までなら「フォリニャン」「ジュランソン・ブラン」「メスリエ・サン=フランソワ」「モンティル」「セレクト」「セミヨン」といったブドウ品種も混合することが認められています。(実態としてはあまり見かけませんが)
実は現在95%以上使用されているユニブランは1890年以降に植えられたブドウ品種であり、カビや疫病に強い耐性を持つのが特徴です。19世紀の終わりころ、ブドウの木をダメにしてしまうフィロキセラ(Phylloxera)というアブラムシの被害がコニャック地方でも猛威を振るっており、そのフィロキセラにも耐えうるブドウとしてこのユニブランが使われるようになった経緯があります。
そのためユニブラン以外のブドウ品種を使ったコニャック、特に育成の難しいフォルブランシュ100%のコニャックはかなり重宝されるコニャックだったりします。
コニャックのブドウは酸度が高く酸っぱい
ユニブランはじめ、コニャックに使用されるブドウは
「酸度が高く糖度が低い」
というのが最たる特徴です。
実際にユニブランなどの葡萄を食べてみたり、そのままワインにしたものを飲んでみるとかなり酸味が強く、我々が普段口にする甘い食用のブドウとは大きく異なることが分かります。
原料となるブドウの酸度が高いことで、最終的に蒸留されアルコール度数72%程のコニャックの元となる蒸留液(オードヴィー)を作る際に原料となるブドウのより豊かなアロマを蒸留液に凝縮させるためです。
原料となるブドウの酸度が高いことで、それらを発酵してワインにする工程でワインのアルコールが高くなりすぎるのを防ぎます。逆に糖度が高いと発酵が進みすぎてアルコール度数が高くなります)。
例えば原料のブドウから作られるコニャック用のワインのアルコール度数は平均しておよそ8.5%~10%程です。
※コニャックの条件としてはこのワインのアルコール度数を7%~12%の間で作るように規定されています。
最終的にこのワインを蒸留して作られる蒸留液はアルコール度数が72%程になります。極端な例えですが、アルコール度数9%のワインから72%の蒸留液を得ると8回分のワインが凝縮されることになりますが、12%ですと6回分の成分しか凝縮されないことになります。
そのためブドウの酸度が高く発酵時のワインのアルコール度数が高くなりすぎないことが重要なのです。
コニャックの気候
コニャックの生産域はアキテーヌ盆地の北から大西洋岸にかけて広がっています。地形は平野やなだらかな丘で形成されており、シャラント川やネ川、アンテンヌ川、シューニュ川といった河川で潤っています。
この地域の年間を通した平均気温は13℃前後です。(夏場は平均25℃前後、冬場は0~4℃前後)
大西洋からの海洋性気候により年間を通して穏やかな気候が特徴です。冬は日照時間も短く穏やかで極端に寒さが厳しくなることもありません。夏場も過ごしやすい気候で日も長くなり、ブドウに悪影響を与える夏場の降雨量も多過ぎないため、ブドウが過度に熟すことなく栽培に最適な気候が保たれます。
コニャックの生産エリア
コニャックの原料となるブドウの生産域 (クリュ=Cru)は土壌の性質によって6つのエリアに区分けすることができます。
- グランド・シャンパーニュ(Grande Champagne)
- プティット・シャンパーニュ(Petite Champagne)
- ボルドリ(Borderies)
- ファン・ボア(Fins Bois)
- ボン・ボア(Bons Bois)
- ボワ・オルディネール(Bois Ordinaires)
なお、この生産域の区分けは1938年に制定されました。
→コニャック生産域の詳細地図はコチラから
1. グランド・シャンパーニュ(Grande Champagne)
グランド・シャンパーニュ地域は全体で約34,700ヘクタールあります。このうち葡萄作付面積は約13,250ヘクタールです。
土壌は白亜紀後期(カンパニアン= camapanian soil)の地質。灰白色の軟土質の石灰岩(炭酸カルシウムの微粒の岩)の地層の上に、浅く粘土質の砂とゴロゴロとした石灰岩の土壌に覆われて構成されている事が特徴。
プルミエクリュとも呼ばれるこのグランド・シャンパーニュエリアは最も良い土壌と言われており、繊細さと柔軟さ、上品なアロマもったコニャックを作ることができるブドウが栽培されます。このグランド・シャンパーニュのコニャックの熟成期間は長い年月が必要で、オーク樽で十分成熟させることによってグランド・シャンパーニュ独特の風味を引き出すことができます。
ちなみにフランスのシャンパーニュ地方特産のスパークリングワインであるシャンパーニュ(シャンパン)の産地で有名な「シャンパーニュ地方」とは全く別地域です。500km以上離れています。ただし土壌の質自体はかなり近しい石灰質であり、語源は同じくラテン語の「Campania」と考えられています。
地域の名前が似ていますが、コニャックの「グランド・シャンパーニュ」地域とシャンパンの「シャンパーニュ」地域の場所は全く別なので注意しましょう。
2. プティット・シャンパーニュ(Petite Champagne)
プティット・シャンパーニュ地区の総面積は約65,600ヘクタールです。そのうちの4分の1にあたる約15,250ヘクタールでコニャック向けのブドウが作られています。
土壌の性質としてはグランド・シャンパーニュに似た性質がありますが、プティット・シャンパーニュの方がより石灰岩の粒が細かい傾向にあります。一般的にはよりライトなボディに仕上がり、グランド・シャンパーニュの方が長期熟成に向いているといわれますが、グランド・シャンパーニュとはまた違った特徴を楽しむことができます。
フィーヌシャンパーニュとは?
グランド・シャンパーニュ産のコニャックに50%以下の割合でプティット・シャンパーニュのコニャックをブレンドしたものをフィーヌ・シャンパーニュ(Fine Champagne)と表示できます。
3. ボルドリ(Borderies)
6つの生産域の中で最も小さいエリア。総面積は約12,500ヘクタールで、わずか4,000ヘクタールのみがブドウ畑。
粘土質と石灰岩が混ざったような土壌ですが、細かく言うと石灰層が分解(脱炭酸化)されたフリント質の土壌が広がっています。実は6つの土壌の中でも最も古く、ジュラ紀からの地層で構成されています。(1億3千万年前の恐竜の化石が2000個以上も発掘されたそう!)
ボルドリ地区からできるコニャックは一般的にスミレのアロマが感じられ、まろやかでやわらかいものが生産され、グランド・シャンパーニュやプティット・シャンパーニュと比べて短い熟成期間であっても上質で素晴らしいコニャックができると言われています
4. ファン・ボア(Fins Bois)
6つの生産域の中でも最も大きいエリア。ファン・ボア全体では約350,000ヘクタール。そのうち約31,200ヘクタールがブドウ畑となっています。
ファン・ボアの土壌は独特の「グルワ土壌(Groies)」と呼ばれており、グランド・シャンパーニュ、プティット・シャンパーニュと同様に石灰岩+粘土質なのですが、より硬く、きめが粗い、赤い砂利状の土壌であることが特徴です。
まろやかでしなやか、比較的熟成期間が短くフレッシュな果実味が特徴的なコニャックとなります。
ファン・ボアはその土壌の特徴から、場所によってはグランド・シャンパーニュとほぼ同質の土壌というエリアもしばし存在し、その特定のファン・ボアエリアのコニャックはまた一味違ったコニャックに仕上がることも面白い一面です。
5. ボン・ボア(Bons Bois)
ボン・ボア全体の面積は約370,000ヘクタール。そのうち約9,300ヘクタールがブドウ畑となっています。
土壌としては粘土、砂、石灰岩が混ざったものです。
このボン・ボア地域はブドウ以外の作物用の畑や放牧地、松林が栗林も多く存在し、ブドウ畑が一か所に集中せずに点在していることが特徴的です。
ボン・ボア産のブドウを使用したコニャックは一般的に他の上記①~④のエリアよりも早く熟成が進む傾向にあります。
6. ボア・オルディネール(Bois Ordinaires)
ボア・オルディネール全体の面積は約260,000ヘクタール。そのうち1,100ヘクタールあまりがコニャック向けのブドウ畑です。かなり砂地質が強い土壌であることが特徴。
カミュのイル・ド・レシリーズでも知られる「レ島」などの沿岸部の地域も含まれており、ここで作られるコニャックはかなり独特な風味に仕上がる傾向にあります。
なぜ石灰質が与える影響が大きいのか?
グランド・シャンパーニュやプティット・シャンパーニュなどのエリアに代表される石灰質の土壌ですが、なぜこの石灰質が重要視されるのでしょうか?
まず1つめの理由として、とても水はけが良く土壌に浸透し、ブドウが育つ土壌にベストな湿度を保ってくれることが挙げられます。
そして2つ目の理由としてこの石灰質の土壌のおかげで、コニャック向けのブドウとして最適な「高い酸度」をもったブドウを育てることが可能となるからです。
コニャックの製法工程・チャート
ここからはコニャックの製法をプロセス別に見て行きます。まずは全体像としてざっくりとした製造工程のチャートを作りましたので下の図をご覧ください。
※クリックで拡大PDF表示↓
文字で説明すると大きく分けて次のようなサイクルでコニャックの生産が行われまます。
- ①4月~9月:原料となるブドウの栽培・収穫・プレス
- ②9月~10月:発酵・ワイン作り
- ③11月~翌3月31日まで:シャラント式単式蒸留器で蒸留
- ④熟成
- ⑤ブレンド
- ⑥ボトリング
①原料となるブドウの栽培・収穫・プレス
まずはコニャックの元となるブドウの栽培・収穫から見て行きましょう。
なお、コニャック向けに栽培されるブドウ品種については、冒頭の「コニャックの原料となるブドウはどんな品種?」をご参照下さい。
ブドウの栽培サイクル
コニャックの原料となるブドウは4月から翌1月あたりまでが一つのサイクルとなります。
4月:ブドウの木が発芽。最初の小さな房が表れ始める。
5月:房がいくつかに分かれ始める。
6月:ブドウの花が咲く。
7月:ブドウの花が実へと変化していく。そして実のサイズが大きくなり、房がより密集する。
8月:実の熟成が始まり、実が半透明になっていく。
9月:実の収穫の準備が整う。その後実の状態を見ながら10月の終わりまでに収穫を終える。
11月:葉が落ち始める。
12月以降:来年度の収穫に向けて枝の剪定を行う。
ブドウの収穫
毎年9月中旬~10月下旬にかけてブドウの収穫が行われます。
一部手掴みで行っている生産者もいますが、ほとんどは専用マシンによる機械収穫です。
このような収穫機が畑を走っています。
GREGOIREという会社が作っている収穫機がほとんどなため、GREGOIREという固有名詞=コニャックのブドウ収穫機という認識が一般的なようです。(ステープラー=ホチキス的な感じ)価格的には最新式で1台2000万~3000万円以上と高額なため、小さな生産者は仲間内でシェアしたりしているそうです。
プレスして果汁を得る
収穫されたブドウは酸化しないうちになるべく早くプレス機に運ばれ、果汁を絞り取られます。プレス機は主に2種類あります。
横型プレス機
シンプルに横から硬い壁が迫ってブドウを圧縮していくタイプ。文字通り、壁でプレスしていきます。果汁はプレス機の下から落ちていきます。
空気圧縮型プレス機
プレス機内のバルーンを空気で膨らませ、ゆっくりと優しくブドウ果汁を取っていきます。ブドウの繊維を必要以上に破壊しないので、横型プレス機よりも品質が高い果汁が取れるとされています。
②発酵・ワイン作り
プレスを終え搾り取られた果汁はワインにするために発酵タンクへ送られます。
発酵タンクは主にコンクリート製のものとステンレス製のものがあります。古くからある従来型の場合はコンクリート製が多いですが、ステンレス製タンクは冷却システムなどを使用した温度調整などを行いやすいため、発酵タンクを新設したり入れ替えたりする場合はステンレス製を導入する場合が多いようです。
発酵期間は生産者や収穫量によっても異なりますがブドウ収穫後3週間程続きます。
1タンクあたりの発酵はおよそ5日~8日程かけて行います。
発酵・ワイン作りの条件
先述した通り、コニャックの蒸留に使われるワインはアルコール度数7%~12%の間で作るようにAOCにより定められています。
(実態としては平均しておよそ8.5%~10%のワインが多いようです)
また発酵には発酵を促す糖を添加(補糖)することや、酸化防止剤の役割を持つ二酸化硫黄(SO2)などを添加するこが禁じられています。麦などを原料とするウイスキーと異なり、ブドウ自体に糖分が含まれているため、ブドウ本来の糖分を利用して発酵を行います。
逆に添加が認められているものとしては
- 数種類のイースト菌(FC9やZymasil、その他天然イーストなど)
- 発酵を開始する際の窒素
などです。
添加可能なイースト菌の量も決まっています。また、窒素はイースト菌だけでどうしても発酵が進まない時に限り使用されるようです。
発酵の種類
発酵には2段階の発酵が存在します。
1.主発酵(Alcoholic fermentation)
2. マロラクティック発酵(Malolactic fermentation)
です。
この2段階発酵は通常の多くの白ワイン製品と同様のプロセスです。
主発酵
ブドウの中に含まれる糖分が、酵母の働きによってエタノール(アルコール)と二酸化炭素に分解される。
マロラクティック発酵
果汁やワインの中に含まれるリンゴ酸が乳酸菌の働きによって、乳酸と炭酸ガスに分解される。リンゴ酸(Malic acid)と乳酸(Lactic acid)による発酵(Fermentation)であるため、Malo-Lactic Fermentationと呼ばれています。
マロラクティック発酵を行うことで、より円やかなコニャック向けのワインに仕上がります。
③蒸留工程(シャラント式単式蒸留器)
発酵タンクで作られたワインはその後蒸留され、最終的にオーク樽で熟成されるコニャックの原液「オー・ド・ヴィー(eau-de-vie)」が出来上がります。
蒸留には「シャラント式単式蒸留器」を使用して、「2段階蒸留」を行う必要があります。
コニャックの場合、この蒸留工程は毎年3/31までに完了しなければいけないと定められています。気温の変化やワインの劣化に伴う品質低下を防ぐのが最大の理由です。従ってコニャックを蒸留可能な期間としては11月~翌3月末までとなります。
シャラント式単式蒸留器を見てみよう
①ショーディエール(chaudiere)
ヒーティングチャンバー。いわゆる蒸留窯です。
標準容量は3,000リットル。蒸留されるワイン約2,500リットルを入れ、ガス直火式で加熱します。
実は初留時のみ使用できる14,000リットルの大容量の窯も存在します(最大張り込み12,000リットル)。しかし、窯が大きくなればなる程、中のワインの一部しか蒸留できなかったり、やや精度の低い溜液になる事もあるようです。
この独特の玉ねぎ型が採用されているのには理由があります。ガスの熱を横から受けやすく、効率的に燃焼でき、燃料コストも安く済むからです。
釜の厚さは約15mmで、この厚さが釜全体に熱を通すのに最も良いとされています。
②シャピトー(chapiteau)
スチルヘッドの事。
ショーディエールの10分の1程の大きさです。10分の1以上に大きいと、アルコール分だけが先に通り精留されやすくなる。容量は260~380リットル。
蒸気を集めて流れをスムーズにします。蒸気が通り抜けずに液体に戻って落ちるのを防ぐ役割もあります。
③コルドシーニュ(col de cygne)
白鳥の首のような形から別名「スワンネック」。
より多くの蒸気を流すための管。次の④ショーフヴァンを通り、それ以降の冷却器に導く。昔の蒸留器はこのコルドシーニュが無く、シャノピーから真っ直ぐ横に伸びており、蒸気が通り抜けずに液体になって落ちてしまっていたらしい。
次の④ショーフヴァンの温度によって中を通る場合と、後方か前方に迂回する管を使い分ける場合があります。
④ショーフヴァン(chauffe-vin)
ワイン予熱器。
熱エネルギーを節約するため、ショーディエールに流す蒸留用ワインを予め温めておく装置。
容量は①ショーディエールと同じ。蒸留用のワインは35℃超えた辺りから劣化(酸化)し始めるので、35℃以下の時は中を通しますが、35℃以上になると迂回ルートに切り替えて蒸気を通します。(この基準はメーカーによっても異なる)
ちなみに、このショーフヴァンはオプション的な機能なので、別に無くても良いそうです。マーテルやラニョーサボランの蒸留器はショーフヴァンが無いです。
また最近の蒸留器はショーフヴァンは蒸留器本体と離して、別タンクでワインを温める方式もあるそうです。
⑤セルペンタン(serpentine)
冷却管。
蛇管を通ってゆっくりと一定温度で蒸気を冷やし凝結(※)させ、液体に変える装置です。
※凝結=気体から液体へ転化する現象
長さは72~78m あり、必要な温度で凝結させる。
蒸留所によっても異なりますが、1回目の初留でできる蒸溜液「ブルイ」は13℃~14℃で凝結させます。2回目の再留の際にできる蒸溜液「クール」は17℃~20℃で凝結。スゴンドは14℃くらいだそう。
※ブルイとクールについては後述
ここから最終的にブルイやクールなどの液体になって再留に使われたり、バレルに注がれたりします。
⑥コンデンサー
冷却器。
セルペンタンを冷却するために必要な水を貯めている装置。容量は約5,000リットル。下から10℃の水を流し入れ、上から80℃程で出されるそう。
pipe de refroidissement(ピプ・ド・ルフロワデスマン)やrefrigerantとも呼ばれたりする。
コニャック蒸留の工程を見てみよう
直火での加熱
コニャック蒸留に使用される単式蒸留器は蒸気熱などで加熱するのではなく、必ず直火で加熱し蒸留することが義務付けられています。
蒸留回数は2段階
コニャックの蒸留では基本的には「初留×3回」→「再留×1回」という2段階が1セットとなります。
蒸留のもととなる白ワインは、先述した通り酸味が多くアルコール度数の低い(8~10%ほど)白ワインです。
蒸留の過程は生産者によっても細かく異なる部分がありますが、代表例として大手コニャック生産者でもあるクルボアジェの蒸留工程を図にすると下記のようなチャートになります。
※クリックで拡大PDF表示
1段階目の「初留:Premier Chauffe(プルミエショーフ)」
初留はPremier Chauffe(プルミエショーフ)と呼ばれます。
上の図を基にすると、プルミエショーフでは蒸留されて出てくる液体は順番に
②「テット(Tetes)」
③「ブルイ(Brouillis)」
④「クー(Queues)」
という3種類の液体に分けられます。
②「テット(Tetes)」は蒸留してすぐ出てくる液体で全体の約2%です。④「クー」は蒸留の最後の方に出てくる液体で、これも全体の約2%程です。
このテットとテールは精度も低く使用できない液体なので殆どは切り捨てますが、一部は2巡目のプルミエショーフに再利用されます。
中間の③「ブルイ(Brouillis)」(平均アルコール度数27~30%)という少し白濁した液体をメインとして次の第2段階「再留=ボンヌショーフ」に使用します。
この初留は容器がいっぱいになるまで繰り返されます。タンクの大きさは蒸留器によっても異なりますが、基本的に容量30ヘクトリットル(=3,000リットル)、最大張り込み量25ヘクリットル(=2500リットル)のものが多いです。
実はプルミエショーフ時には最大容量140ヘクトリットル(=14,000リットル)※最大張り込み量:120ヘクトリットル(=12,000リットル)※ まで入る大型の容器を使用がOKとなっていますが、2回目の蒸留(ボンヌショーフ)時には容量30ヘクリットル、張り込み量25ヘクトリットルを超えてはいけない決まりになっていることが大きな理由で、多くの生産者はプルミエショーフもボンヌショーフも同じ蒸留器を使うからです。
25ヘクトリットルのプルミエショーフ3回で原液タンクが満タンになるので、この初留は基本的に3回が1セットとしている所が多いです。
2段階目の「再留:Bonne Chauffe(ボンヌショーフ)」
2回目の蒸留は「Bonne Chauffe(ボンヌショーフ)」と呼ばれています。コニャックの規定ではこのボンヌショーフに使用される蒸留窯:ショーディエール(chaudiere)のサイズは30ヘクリットル(=3000リットル)を越えてはいけない決まりになっています。
※張り込み量は25ヘクトリットル(=2500リットル)まで
ボンヌショーフでは初留×3回分でとれた③「ブルイ(Brouillis)」を再び釜に戻して直火で加熱し、再度蒸留されます。
ボンヌショーフでは4種類の液体に分かれます。上の図で見ると
⑥「テット(Tetes)」
⑦「クール(Coeur)」
⑧「スゴンド(Secondes)」
⑨「クー(Queues)」
です。
プルミエショーフと同じく⑥「テット(Tetes)」⑨「クー(Queues)」は取り除かれる事が多いです。(マーテルの場合はクーを取り除かない、とか例外もある。)
⑧「スゴンド(Secondes)」は再留でアルコール度数がおよそ60%程になった段階の液体の事です。(クール以降はアルコール度数が下がっていく)
この⑧「スゴンド(Secondes)」は次回以降、次のコニャックのボンヌショーフの時にプルミエショーフの③⑤「ブルイ(Brouillis)」や、最初の①原料白ワインと併せて少量が再度ボンヌショーフに使用される場合があります。(後述)
蒸留後のコニャック熟成用の液体として使用されるのは⑦「クール(Coeur)」の部分です。この時点でアルコール度数は約70%となります。コニャックの規定では蒸留時の最大アルコール度数は最大72%までと決められています。
このコニャックの元となる⑦「クール(Coeur)」から取れた蒸留液は「オー・ド・ヴィー(eau-de-vie)」と呼ばれ、その後オーク樽で最低3年の熟成を経てコニャックとなります。
コニャック蒸留の参考動画(英語字幕)
オリを残して蒸留するか、オリを除去して蒸留するか?
蒸留されるワインには、コニャックの蒸留に使われるワインのオリを残したまま蒸留するか、フィルターでオリを除去した状態で蒸留するかの2通りがあります。
どちらを採用するかはその生産者や目指すコニャック、蒸留の状況、責任者の判断等によっても異なりますが、一般的には次のような違いがあります。
オリを残す場合
香味はよりふくよかでリッチ、ボディのあるオー・ド・ヴィーとなる傾向があります。オリがあると蒸留器の窯が焦げやすくなってしまうため、蒸溜に手間と時間はかかってしまうようです。オリを残して蒸溜するコニャック生産者としては、レミー・マルタンやフラパン、ABK6などが代表例に挙げられます。
オリを除去する場合
清澄度を上げてから蒸溜することになるので、クリアな香味のオー・ド・ヴィーに仕上がる傾向にあります。熟成に使う樽それに合わせてタンニンが控えめなトロンセオークを使うことが多いようです。代表的な造り手としてはマーテルなどが挙げられます。
その他、例えばクルボアジェの場合など、グランド・シャンパーニュ、プティット・シャンパーニュ、ボルドリ産のワインの場合はオリを残して蒸留し、ファン・ボア産のワインの場合はオリを除外して蒸留するなど、細かい使い分けをしているメーカーもあります。
これは「どちらが良い悪い」というものではなく、どのようなコニャックを作りたいかによって使い分けられる手法の違いです。
「ヘネシー・レミー方式」と「マーテル方式」の違い
コニャックの二段階蒸留において、クール(Coeur)の次に出てくる蒸留液であるスゴンド(Secondes)を最初のワインに戻して再度蒸留を行うか、2回目蒸留(ボンヌショーフ)のブルイ(Brouillis)に戻すかは各メーカーや蒸留担当者の判断によってもそれぞれです。
一般的には蒸留方法は下記の2つに大別できます。
マーテル方式
スゴンド(Secondes)を最初のワインに戻して再度蒸留する方式。
名前の通り大手コニャックメーカーのマーテルなど主に採用されている方式です。
ヘネシー・レミー方式
スゴンド(Secondes)をブルイに戻して再度蒸留する方式。
こちらも名前の通り大手コニャックメーカーであるヘネシーやレミーマルタンで採用されている蒸留方式です。
図で比較するとこのようなイメージです。赤線の部分が主な違いです。
※クリックで拡大↓
ヘネシー・レミー式の方は2回目の蒸留であるボンヌショーフのブルイ(Brouillis)に戻すため、そこまでクリアになりすぎない蒸留液となります。
マーテル方式の場合はスゴンドをブルイ(Brouillis)ではなく最初のワインに戻すのがスタンダードです。スゴンド(Secondes)をプルミエショーフの最初のワインに戻して再度蒸留します。それにより1回目の蒸留と2回目の蒸留を再び通ることになるので、マーテル特有のクリアで軽い印象のオー・ド・ヴィーになります。
※マーテルの場合は更にオリを除去した状態で行うので、かなりクリアなコニャックとなる傾向にある。
これも「どちらが良い悪い」ではなく、生産者が求めるコニャックによってどちらの蒸留方法を採用するかが分かれます。
④コニャックの熟成:樽の作られ方から熟成期間、VS・VSOP・XOなどの規格について
蒸留されたオードヴィーはオーク樽に入れられ、コニャックとして世に出るまで最低3年。長いもので50年、60年、70年・・・と熟成庫で長い眠りにつきます。
VSやVSOP、XOなどの表記基準は何?
コニャックでよく見るVSやVSOP、ナポレオン、XOといった表記はコニャックの最低熟成年数に応じて定められている表記です。
「コント」という言葉を知っておこう
コニャックの周期は毎年4/1~翌年3月末日です。翌年3月末日までに蒸留を終えなければなりません。
まず、蒸留した年のコントは「コント00」となります。翌4月1日から樽の原酒はコント0と数えられ、それは翌年の3月末日まで続きます。次の4月1日からはコント1となり、以降4月1日が来るごとにコント数が繰り上がります。コント2以上(つまり2年熟成完了)にならなければコニャックとして売ることはできません。
有名処の表記としては次の4つを抑えておきましょう。
- V.S.:コント2以上(最低2年熟成)
- V.S.O.P.:コント4以上(最低4年熟成)
- ナポレオン:コント6以上(最低6年熟成)
- X.O.:コント10以上(最低10年熟成)
多くのブランデーは、その商品コンセプトに従って、様々な熟成年数のブランデーが調合(ブレンド)されて最終的に瓶詰されます。実は単一の熟成年数のブランデーのみで出荷されるブランデーはほとんどありません。
その調合されたブランデーの中で最も若いブランデーの熟成年齢に従ってVSOPやXOといったランクの呼称が定められています。例えば4年熟成(VSOP)のコニャックと11年熟成(XO)のコニャックがブレンドされた場合、そのコニャックはVSOPクラスとなり、XOとは名乗れません。
以下がBNICによって定められている最低熟成年数別のコニャックの名称表記です(2020年4月時点)。実はVS、VSOP、XO以外にも細かい名称基準があります。
- コント2以上で許可される表記
「VS(Very Special)」「3 Etoiles」「Sélection」「De Luxe」「Millésime」 - コント3以上で許可される表記
「Supérieur」「Cuvée Supérieure」「Qualité Supérieure」 - コント4以上で許可される表記
「V.S.O.P.( Very Superior Old Pale)」「Réserve」「Vieux」「Rare」「Royal」 - コント5以上で許可される表記
「Vieille Réserve」「Réserve Rare」「Réserve Royale」 - コント6以上で許可される表記
「Napoléon」「Très Vieille Réserve」「Très Vieux」 「Héritage」「Très Rare」「Excellence」「Suprême」 - コント10以上で許可される表記
「XO(Extra Old)」「Hors d’âge」「Extra」「Ancestral」「Ancêtre」「Or」「Gold」「Impérial」「XXO(Extra Extra Old)※」
※「XXO」は最低熟成14年を経たコニャックのみに適用可能
コニャックの熟成に使われる樽の種類は?
コニャックAOCとして使用が認められている樽の条件は下記の通りです。
新樽の条件
オーク由来の樽であること。
→フレンチオークはもちろん、オーク(ブナ科コナラ属の落葉性の樹種)であればフレンチオーク以外でも何年でも使用可能です。オークであればフランス以外の国のオーク樽も使用可能で樽の生産エリアは限定されません。
もちろん未使用のアメリカンオークやミズナラオークなども使用可能で、1年半や数ヶ月など期間の制限はありません。フィニッシュに限らず10年でも20年でも熟成に使用可能です。
逆にオーク以外の種類の木からできた樽は新樽でも古樽でも使用できません。チェリー樽やアカシア樽などは使用不可です。
古樽の条件
ブドウ由来のお酒に使われたオーク樽であること。
コニャックで使われた樽、またはブドウ由来のお酒(ワインやシェリー)に使われたオーク樽であることが使用済み樽を使う条件です。
ブドウ由来以外、例えばウイスキーやラムの熟成に使われた樽はオーク樽であってもコニャックとして使用不可です。
リムーザンオークとトロンセオーク
ここではコニャックの熟成樽に使われる代表格でもあるリムーザンオークとトロンセオークの特徴を見ていきましょう。
これはフランス国内のリムーザン(Limousin)地域にある森、トロンセ(Tronçais)の森で取れるオークを指し、それぞれ異なる特徴を持っています。またこれ以外のエリアで取れたオークであっても木の特徴により例えばリムーザンの木の特徴に近い樽は「リムーザンタイプの樽」、トロンセの木の特徴に近い樽は「トロンセタイプの樽」などと呼ばれることがしばしあります。
リムーザンオークの特徴
リムーザンオークはトロンセオークと比べて育ちが早く、木の繊維の密集度が低い(=隙間が多い)のが特徴。そのため、リムーザンオークを使用した樽ではコニャックがより樽に浸透し、多くのタンニンを得る傾向にある。オリを残して蒸留したコニャックや、グランド・シャンパーニュなどのパンチの強いコニャックにはリムーザンオークが使用される傾向が高いイメージがある。
トロンセオークの特徴
リムーザンオークとは逆に木の繊維の密集度が高く細かい(=隙間が少ない)のが特徴。コニャックが浸透する割合もリムーザンオークと比べて低いため、タンニンが強く出ずに軽やかな仕上がりになる傾向がある。オリを残さずに蒸留するマーテルなどで多く使われるイメージ。コニャックに限らずワインなどでも使用される割合が高い。
どちらの樽をどのような割合で、どのコニャック対して使用するかは各コニャック生産者やセラーマスター(マスターブレンダー)の判断によって千差万別です。
コニャックの樽作り
コニャックの樽の容量は270~450リットルの樽が使用され、300~350リットルの容量が最も一般的な大きさです。
コニャックの樽製造業者(Cooperage)はコニャック地方に点在しており、それぞれ素晴らしいオーク樽を製造しています。コニャックメーカーによってはオーダーメイドで樽の製造を依頼していたり、使用する木の選定から行うコニャックメーカーもあります。
コニャックの樽の製造工程に関しては実際に製造現場に行った際の記事がありますので、そちらの記事をご参照下さい。
参考記事
→クルボアジェ訪問(1)こだわりのコニャック樽はどうやって作られるか?
コニャックの熟成で起こる変化
熟成によりコニャックに起こる変化は主に「琥珀色への変化」「アルコール度数の変化」「香りの変化」です。
蒸留したてのコニャックは無色透明で、アルコール度数も70度近くあります。樽での長期熟成を経ることにより、よりまろやかなコニャックとなるのです。
コニャックのもととなる原酒(オー・ド・ヴィー)は蒸留後にオークの木でできた樽に入れます。樽の材質、貯蔵場所、温度、湿度といった要素が複雑に作用し、樽から木材成分が溶け出たり、空気と接触することによって樽の中身のコニャックの成分が変化していくのです。
新樽と古樽、大樽の使い分け
蒸留したてのオー・ド・ヴィーは最初真新しい樽、いわゆる「新樽」で数ヶ月~数年熟成されます。この期間はコニャック生産者やそのコニャックのコンセプトにより様々です。6ヶ月~10ヶ月のところもあれば、2年以上新樽で寝かせるところもあります。新樽の方がより樽の成分やタンニンが出やすいので、新樽熟成の期間が長ければ長いほどより樽感の効いたコニャックになる傾向があります。
古樽に移されたコニャックも熟成のプロセスによってはセラマスターの判断によりその後様々な樽に中身を入れ替えられることもあります。(ヴィンテージコニャックを除く)
また、VSやVSOPなど十分な熟成期間に達したり、これ以上熟成を促す必要のない場合やなどは、トノー:tonneau(=フランス語では樽の意ですが)と呼ばれる大樽に入れられ保管されます。大樽だと液体の量に対して樽が触れる面積が少なく、樽の成分が影響しづらいからです。
コニャック熟成庫の温度と湿度
熟成庫の温度と湿度もコニャックのキャラクターに大きな影響を与えます。
温度
温度に関しては地下に存在する熟成庫以外は季節によっても温度の変化がありますが、年間を通して7℃~22℃の間であることが一般的です。
湿度
湿度の低い環境で熟成させるか、湿度の高い所で熟成させるかも生産者や目指すコニャックによって様々です。
湿度の低い熟成庫(湿度40%~60%)ではアルコール成分の変化・減少よりも水分の蒸発が早く、よりドライでパンチの効いたコニャックに仕上がり、経過年数によるアロマの変化も大きい傾向にあります。
逆に湿度の高い熟成庫(湿度90%~)では水分の蒸発が抑えられ、円やかな口当たりのコニャックに仕上がりますが経過年数に対してアロマの変化は小さい傾向にあります。
これは「どちらの方が良いという」ということではなく、それぞれ異なる個性でその生産者が目指すコニャックのキャラクターやコンセプトに活かすというイメージです。
湿度の高い熟成庫で熟成されるコニャックの代表例としてはポールジローやビスキーなどが挙げられます。(川や水場が熟成庫内部や熟成庫のすぐ近くにある)
アルコール分の減少と加水
商品として出荷する際、コニャックのアルコール度数は最低40%以上であることが求められます。蒸留したてのオー・ド・ヴィーは(室温20℃で)最大でアルコール度数72.4%となっています。その後樽熟成の期間中に蒸発により徐々にアルコール度数が下がっていきます。アルコール度数の減少具合は熟成庫の状況によっても様々ですが、平均的に年間2%ずつアルコール度数が下がっていきます。
しかしながら特にVSやVSOP、その他若いコニャックにとってはこの自然の力だけによるアルコール度数の減少ではまだまだアルコール度数高すぎるため、蒸留水によって加水されアルコール度数が下げられます。どのタイミングで加水するかは各生産者によっても様々なのですが、一気に加水するとコニャックの風味を損ないやすいため、数年に分けて適切な量を少しずつ加水するのが一般的です。
※加水自体は必須ではないため、長期熟成を経たものや、商品のコンセプトによっては無加水(カスクストレングス)のコニャックも当然存在します。
天使の分け前:エンジェルズシェアと熟成庫
先述したように、樽の中のコニャックは熟成を経ると共に自然蒸発により年々樽内部の量が減少していきます。
この中身の減少は「天使の分け前(エンジェルズシェア:the angels’ share:la part des anges)」と呼ばれています。およそ年間で2%ほどのコニャックがこの「天使の分け前」により空へと消えてくそうです。
この蒸発したコニャックの成分により熟成庫の内部や外壁は嚢菌(キノコの一種)が多くみられます。熟成庫の中や外壁が炭のように黒くなっているのはこのためです。
パラディセラーと長熟コニャック達
中~大きなコニャック生産者の中には、最も古いコニャック達を通称「パラディセラー(Paradis)」と呼ばれる特別な熟成庫に移すことがあります。パラディ:つまりParadaise:楽園と呼ぶにふさわしい場所で、多くは50年や60年、古いものだと100年以上昔のコニャック達が眠っている特別な熟成庫です。
Demijohnsと呼ばれるガラス瓶へ
主に長熟を経たコニャックで、オーク樽での熟成がピークに達したとセラーマスター(またはマスターブレンダー)が判断したコニャックはDame-Jeanne(ディミジョン)やBonbonne(ボンボンヌ)と呼ばれる20リットル程のガラス容器に移し替えられ熟成をストップさせ大切に保管されます。この瓶の中でさらに何年、何十年と熟成庫で眠り続けるコニャックもあります。
多くの長熟コニャックは最大でもおよそ熟成期間50年~60年程が過ぎるとガラス容器に移されることがほとんどですが、中にはセラーマスターが「まだ樽で寝かせた状態でも良い状態のコニャックになる」と判断した場合は70年、80年・・・とそのままオークの古樽の中で寝かせられる超貴重なコニャックも存在します。
⑤ブレンド
コニャックはブレンドによってできる蒸留酒であり、多くのコニャックは様々な熟成年数の樽からブレンドしたものを商品として完成させます。
マスターブレンダーの役割
このブレンド工程においてはマスターブレンダー(またはセラーマスター)が大きな役割を果たします。
蒸留~熟成を経たコニャックはそれぞれが異なるコニャックです。シングルバレルや限定品などを除き、通常の定番品として出しているコニャックは同じ品質を保つ必要があります。異なるコニャックを調合し、これまでと同じ品質を保ったり、目指すべきコニャックになるようにブレンドを行います。それがマスターブレンダーの真骨頂です。
多くのコニャック生産者では各コニャックのブレンドの詳細は企業秘密となっており、そのコニャックメーカーの特徴を作り出すマスターブレンダーのみが知る最大の秘密でもあります。
ブレンドには科学的なアプローチはもちろんありますが、最も重要となるのはマスターブレンダーの鼻であり舌であり彼/彼女らの官能評価が大きく影響します。それだけマスターブレンダーの責任は重大であり、その技術を習得するまで長い年月を要するまさに神業的芸術の領域といっていいでしょう。
参考記事
→ABK6マスターブレンダーとの貴重な2時間対話と10分で作ったオリジナルブレンドコニャック
→クルボアジェマスターブレンダー
コニャックのヴィンテージ
コニャックは収穫年数表記のある所謂「ヴィンテージもの」のラインナップは少ないです。厳格な管理が必要となりコストも上がるからです。
コニャックではヴィンテージの正確性と品質を担保するため、ヴィンテージ年表記を行う場合は、コニャックAOCを管理しているBNICによって「①樽に蝋封をする」または「②2つの鍵付きでヴィンテージ専用の熟成室を作る(一方の鍵をBNICが保管)」という条件が定められており、どちらかを実施する必要があります。
ヴィンテージのコニャックに対して何かしら作業を行う場合にはBNICの立ち会いが必要となり、その管理コストは最終的にボトルの価格に跳ね返ります。従って同じブランドで同じ程度の熟成年数でも、ヴィンテージものとそうではないコニャックではヴィンテージコニャックの方が最終的な商品価格が高くなる傾向にあります。
ヴィンテージではなくとも消費者として気になるのは「結局これはどのくらいの熟成なの?」というところです。そのためにVSOPやXOといった表記以外に具体的かつヴィンテージ表記の決まりに抵触しないように「Lot.94」や「No.35」といった表記を見かけます。この数字はメーカーによっても意味が異なりますが、「最低でも19○○年以前の原酒がブレンドされていますよ」だったり「この熟成年数のコニャックがブレンドされていますよ」といった意味合いです。
参考記事
→なぜコニャックのヴィンテージものは少ないのか?(LIQUL寄稿記事)
コニャックで許可されている添加物について
コニャックには実は4つほど添加物が見つめられているものがあります。
多くの人は添加物が無い方が良いと考えるでしょうし、コニャック単体で考えるのであればそうかもしれません。しかしながら、例えば(特に大手メーカーなど)カクテル向けのコニャックだったり、様々な需要に即したコニャックを作ることもコニャック産業の一部です。そういった場合必ずしもこれらの添加物に否定的になる必要はありません。
もちろん、これらの添加物が一切使われていないコニャックもありますし、それを強みとしているコニャックブランドも多くあります。
どの程度各添加物が使用されているかはラベルやボトルからの判断は難しく、メーカー情報や生産者に直接問い合わせないと分からないことがほとんどです。
下記にコニャックで使用が認められている添加物を記載します。
1. 水(Water)
つまり加水のこと。加水は先述したように「添加物」というよりもアルコール度数を下げるために一般的に行われている手法です。
熟成時の自然の力だけによるアルコール度数の減少ではまだまだアルコール度数高すぎるため、蒸留水によって加水されアルコール度数が下げられます。どのタイミングで加水するかは各生産者によっても様々なのですが、一気に加水するとコニャックの風味を損ないやすいため、数年に分けて適切な量を少しずつ加水するのが一般的です。またコニャックと蒸留水を混ぜて寝かせた「フェーブル」と呼ばれる液体でアルコール度数を徐々に下げていく生産者もいます。(例:デラマン)
参考記事
→なぜコニャックは加水を行うのか?
2. 糖(Sugar)
コニャックに円やかさを付与するため加糖されることがあります。
3. カラメル色素(Caramel Coloring)
ブレンド後のコニャックの色を過去のブレンド商品と同一に保つためや、最終的な色素の調整などの目的に使われることがあります。
一般的にスピリッツカラメルとしても知られる「E150a」というカラメル色素のみ使用可能です。カラメルは少しの量で色が大きく変わるため、添加量は多くとも全体量の0.01%以下(1Lに対し1mg以下)であることがほとんどです。
4. オークチップ(Boise (Bwah-zay))
コニャックに濃い色と樽感を出すため、あるいは新樽を使わずともよりタンニンと樽の熟成感を出す「ショートカット」としてオークチップが用いられる場合があります。
使用する場合はオークチップを水でボイルした後、チップを取り除き、ゆっくりと水を取り除きながら残ったオーク樽感とタンニンを含んだ液体を使用します。
添加物の許容量はどのように決まるのか?
糖、カラメル、オークチップなどの添加物に関しては下記の様に許容量が決まっています。
「コニャックの添加物の量は、実際のアルコール度数と見かけ上のアルコール度数の差が4%以内までであれば許可される」
ここでは 「Apparent alcoholic strength」「Real alcoholic strength」「Obscuration」という言葉が非常に重要な役割を果たします。
Apparent alcoholic strength:見かけ上のアルコール度数
Real alcoholic strength:実際のアルコール度数(最終的にコニャックのラベルに表記されるアルコール度数)
Obscuration:上記2つの差を%で表したもの:「曖昧さ」
順番としてはまず
- コニャック生産者がそれぞれApparent alcoholic strengthを測定する
- 規定の分析機関でReal alcoholic strengthを厳密に測定する
- 上記2つの測定差(Obscuration)が4%以内である必要がある
となります。
コニャックの添加物の許容量についてはそのテーマだけでかなり長くなってしまうので、別記事にまとめています。下記記事をご参照ください。
参考記事
→コニャックの添加物(加糖・カラメル・オークチップ)の許容量はどのように決まっているのか?
コニャックのボトリング
コニャックのボトリングは半手作業によるボトリングと大きな生産ラインを使ったボトリングに分けられます。
大手メーカーになるほど大きなボトリングラインを持っていますし、小さな生産者の場合は手作業によるボトリングを行う所が多いです。
参考記事
→Coganc Parkの全てを語ろう(1)ボトリングラインと蒸留
その他参考記事
コニャック6つの産地(クリュ)は明確に定義できないし地図通りではない?
コニャック滞在記・各メーカーの詳細記事
記事一覧はコチラから