今回手に取ったはコニャックのオンラインショップでも最大級の規模を誇るCoganc Expartから個人輸入してきたもの。
そう、あのTiffon Braastad(ティフォン・ブラスタッド)の100周年(および120年)記念ボトル。
Braastad 1919(ブラスタッド1919)
である。
日本には未輸入のコニャックなので、残念ならが国内での直接入手は難しいコニャックですが、コニャックのオンラインショップCoganc Expart経由であれば日本からも購入可能。
公表されている熟成期間は何と100年。いわゆる100年物コニャックです。
実は記事を書く前に1本購入しており、今回は追加で2本。合計3本がウチにあります。
果たしてその真相はいかに?
ブラスタッド100周年&重大な120年前を同時に記念したボトル
このブラスタッド1919は2019年に発売されたブラスタッドの数量限定の記念ボトルなのですが、この商品名の指す1919年はブラスタッドブランドにおいて大変重要な年代です。
まずブラスタッドに関して軽く説明しておきます。
BRAASTAD(ブラスタッド)はコニャック地方のジャルナックに位置する有名コニャックメーカー「Tiffon(ティフォン)」社が所有するブランドの一つです。 Tiffon自体は今でこそ生産者の中ではそこそこ大きな規模を持つコニャック生産者ですが、今でも家族経営を大切し伝統的な手法でコニャックを作り続けている一流の作り手です。
ティフォンとブラスタッドの歴史を紐解くには1875年と1899年に遡る必要があります。
1875年、コニャックティフォンの創設者であるMederic Tiffon氏がコニャック地方シャラント川の南側のほとりに蒸留所を立ち上げます。この時点ではブラスタッドはあまり関係ありませんが・・・・。 Mederic Tiffon氏には2人の子供がいましたが、一人は若い時に亡くなり、もう一人もこの事業を引き継がず、Tiffon社はMederic Tiffon氏の姪にあたるEdith Rousseauさんに引き継がれます。
舞台は移って1879年のノルウェー。のちにBRAASTADブランドの創始者となるノルウェー人のSverre Braastadが誕生。今ではコニャックの大手の一つとなった「Bisquit(ビスキー)」の一員として叔父と共にコニャックの輸出入と営業に携わっていました。彼がノルウェーからコニャックに移住し、ビスキーで働き始めたのが1899年。今(2019年)から120年前の事です。
そしてこのSverre Braastad氏とティフォン家のMederic Tiffon氏の姪Edith Rousseauさんの姪が色々あって1913年に結婚。激動の第一次世界大戦が終った翌年の1919年にSverre Braastad氏はビスキーを辞め、正式にTiffon社の事業を事業を引き継ぎ、このコニャック ブラスタッド ブランドが誕生しました。 今(2019年)から100年前の事です。
今回のボトル「ブラスタッド1919」はブラスタッドが誕生した1919年から100周年を記念するのと同時に、Sverre Braastad氏がコニャックに携わり始めた120年前の1899年を記念したボトル。100周年と120年を両方記念したボトルという立ち位置になっています。
1919年にちなんでボトル本数も1919本限定ボトリングです。
100年ヴィンテージではなく平均熟成80年である
このようにこの記念ボトルの経緯を紐解いていくと、あたかも100年前の1919年蒸留の原酒のみで構成された1919年ヴィンテージのコニャックのように思われがちですが、実は正確にいうと単一年度のヴィンテージコニャックではありません。
もちろん、このコニャックは最大で100年熟成の原酒が入っていますが、中身としてはティフォンの貯蔵庫に眠る様々な年代と生産域の原酒がブレンドされています。
ブレンド比率は不明ですが、ボルドリ、ファンボア、グランドシャンパーニュ、プティットシャンパーニュがブレンドされており、平均熟成年数は80年となっています。
軽く平均80年と言ってしまいましたが、それでもめちゃめちゃ凄いことです。
実は価格的にはかなりお手頃
「平均熟成80年で100年熟成の原酒もブレンドされている」と聞くと価格的にもかなり気合が必要なイメージですが、実はこのボトルめちゃめちゃお手頃価格です。
いや、一般的には高価なコニャックに分類されるのですが、「100年ものコニャック」と銘打つコニャックとしては破壊的な価格の安さです。
(購入店によって違うけど)
何と
小売価格で1本150ユーロ前後である。
日本円にして約1万8千円。
100年物と聞くとこの10倍してもおかしくない金額なのですが、この破格っぷりはホント意味不明。100年物入りの平均80年熟成と銘打ったコニャックをこの価格で市場に出されるとなると、さぞ大手のメーカーは戦々恐々としたことでしょう。
というかTiffon社自体70年熟成とか100年物とかいうコニャックを平気で180ユーロ以下ぐらいの価格で売ってたりするので、その傾向を考えると「出た・・」と思わざるを得ない。
BRAASTAD(ブラスタッド)1919スペック
今回のボトルの概要をまとめます。
BRAASTAD(ブラスタッド)1919
生産域:ボルドリ・ファンボア・グランドシャンパーニュ・プティットシャンパーニュのブレンド
(比率不明)
熟成:平均熟成80年(最大で100年熟成の原酒を使用)
葡萄品種:ユニブラン100%
アルコール度数:40%
容量:700ml
購入時期:2019年10月
購入価格:1本155ユーロ(約1万8千円)
フランスからのEMS(国際スピード便)なので送料は4,000円くらいです。やっぱ国際便の送料は少しイタイ・・・
注文から約10日程で到着します。
BRAASTAD(ブラスタッド)1919開封の儀
それでは早速届いた中身を見てみましょう。
ちなみに国外から取り寄せた場合、検疫のため必ず郵送用の段ボールは税関で一度開封されます。(さすがにボトルの中身までは開封されません)
これは仕方がない。
ボトルの外観はこんな感じ。もともと化粧箱は付いていませんのでボトルむき出し。
このブラスタッド1919は1本1本シリアルナンバーとボトリング日が記入されています。
今回私が購入した2本はNo.1053とNo.1054の連番。ボトリングは2019年2月21日。
なお、ラベルの1919の千の位の1にはエンボス加工で「1919-2019」と彫られています。細かい。私はラベルやボトルデザインも、裏方でその製造に関わっている人がいる限り商品価値の一部だと考えているので、こういった細かい事が好きだったりします。
No.1054の方は少しキャップ部分に傷が入っていたので、こちらを今回の開封用とし、もう1本のNo.1053の方は保管用に再度緩衝材で包んで保管庫に置いておきます。
記念ボトルなので保管用のNo.1053はこのまま開けないかもしれません。
それでは早速No.1054の方を開けてみましょう。
コルクのキャップはなかなか重く、重厚感があります。
BRAASTAD(ブラスタッド)1919の香り立ち
一瞬ラベンダーのようなフローラルな香りのあと、どこか剥いた栗、チョコレート、シナモン、ナッツ感といった終始落ち着いたダンディな香り立ち。開封したてということもあり20分くらい置いておくとまた香り立ちは変化し、少しレモンやレーズン、ドライフルーツな香りと共にアールグレイティーのような紅茶感が出てくる。
平均80年ということもあり、アルコールのツンとした刺激臭はほぼ無い。
アルコール由来を排除した心地よい香気成分が長くグラスと空間を覆ってくれます。これには普段お酒飲まない+強い度数のお酒の香りが苦手な妻も「これは香りだけで心地よくなれる」とかなり高評価でした。普段コニャック飲まない人からそう言ってもらえると嬉しい。
この香り立ちは「見よ!これぞ100年ものの香り!」といった激しい主張はではなく、30代40代の働き盛りの時代を懐かしく思い出しながら、縁側でゆっくりと過ごしているおじいちゃんのよう。果実感やランシオ香炸裂!といった方向性とは異なり、安定した「品の良い」コニャックの香りを感じることができる。
しかし、一方でやや物足りなさを感じるのも事実。この落ち着き具合は評価が分かれそう。
BRAASTAD(ブラスタッド)1919の味わい
黒糖、ハチミツ、バニラといったどちらかというと甘めの味わいが口の中に広がります。
そのあとはビターなアーモンド、クリームブリュレと少しのスパイス感。果実感は少なめ。
口当たりは軽い。
平均80年ということだけあってアルコールの刺激は少なめですが、「まろやか」や「円熟」といった感覚とは異なり、スイスイと軽く飲めてしまう感じ。このスイスイというのは決して悪い表現ではなく、例えばグランドシャンパーニュコニャックだと50年熟成以上のコニャックによく抱く感想でもある。まるで若返ったかのように水のようにスイスイ飲めてしまうのです。
しかし残念ながら余韻の印象としてはやや薄い。
というか少し短く単調である。
これは本当に100年ものなのだろうか。
あまりにも長熟のため、どこか抜けてしまっている感すらある。
「自分の鼻が詰まっているのかな?」
と疑問が沸いたため、ランシオ炸裂系のコニャック「フランソワ ヴォワイエ エクストラ(40年熟成)」を比較として飲んでみる。
うん、いつものヴォワイエエクストラだ。
私の鼻は詰まってなかった。
コンセプトや方向性が全く異なるため、単純にフランソワヴォワイエと比較するわけにもいきませんが、フランソワヴォワイエは40年熟成、かたやこのブラスタッド1919は100年ものを謳うコニャックです。
いや「どちらが印象に残るか」と聞かれると、これはどう考えてもフランソワヴォワイエの圧勝。
先述したように、方向性は全く異なります。フランソワヴォワイエエクストラはバリバリ働き盛りの40代。ブラスタッド1919は現役を退き、世の中を静観している80代。
そんな感じ。
BRAASTAD(ブラスタッド)1919の個人評価まとめ
これはどうなんだろう・・・
こんなことを言うと、何エラソーな事言ってんだ?と思われてしまうかもしれませんが
「これは本当に100年物コニャックなのか・・・?」
(正確には平均熟成80年だが)
この一言に尽きるコニャックです。
これは購入前から「ブラスタッドの記念ボトルだ!」「100年ものコニャックだ!」という先入観が大いに影響していることは否定しませんが、どうしても「物足りない・・・」という感想が勝ってしまいます。
この先入観をできるだけ排除して飲んで、他の100年物コニャックと飲み比べた場合でも同じ感想を抱いてしまいます。
情報ゼロの状態で何も言われずにこのコニャックだけを出された場合「うん、飲みやすいね!」という恐ろしい感想で終わってしまう可能性すらある・・・。
80年、100年を超える本当に特別なコニャックであれば価格帯としてもこれの10倍以上しても全く不思議ではありません。
「小売価格1本150ユーロ(約1万8千円)相応の100年ものコニャック・・・」と言ったブッ飛ばされるかもしれませんが、そういうことである。
長熟コニャックの難しさ
再三言いますが、このブラスタッド1919は1919年蒸留ヴィンテージコニャックではなく、グランドシャンパーニュ・ファンボア・ボルドリ・プティットシャンパーニュもブレンドされた平均熟成80年のコニャックである。
ここにやはり70年、80年、100年といった長期熟成コニャックの難しさを感じます。
そもそも「100年間保管する」という歳月は我々の想像をはるかに超えたレベルで品質の管理が難しい。もちろん全ての原酒が100年間オーク樽の中に入っていたわけではなく、50年やある程度年数が経った後はボンボーヌ(保管用の瓶)に入れておくことも多い。
いやそれでもだ、100年という期間は想像を絶します。
ていうか100年前っていつよ?
第一次世界大戦よ。私の亡くなった祖父も生まれていない時代です。
ただ、このような事をいうのは大変おこがましいのだが、現時点でこのコニャックに関しては「さすがこの100年の重みを感じるわ・・・」といった感動を抱くには至りませんでしたが、このような自社の貴重な原酒をボトリングし多くのコニャックファンを楽しませてくれるティフォン・ブラスタッドには感謝すると共にSverre Braastad氏に大きな敬意を表し、これからのコニャックラインナップも楽しみに次のボトルも買おうと思います。
と、ここまで色々書いてしまいまいしたが、これはあくまでも開封直後の感想です。
長期熟成のコニャックは往々にして抜栓してから花開くまでに時間がかかるというのがセオリーです。
このブラスタッド1919はまた、1ヶ月後、2ヶ月後、半年後と数段階の変化を残している。(はずだ!!)
また定期的に飲むと変化を感じにくくなってしまうので、1週間に1杯ずつくらいに我慢して、数ヶ月後の変化を楽しみに待ってみようと思います。
その時このブラスタッド1919が真価を発揮し、本当に 「100年の重みを感じるわ ・・・」 という想いを抱けるようになったら、私は全力で土下座して、 (まだ在庫があれば) このボトルをもう5本くらい買って酒税法にひっかからないように皆様にプレゼントしたいと思います。
その時はお楽しみに。
2019/12/30記事追加
実際にBRAASTADに訪れてこのボトルの真相を聞いてきました。
→コニャック滞在記⑩:BRAASTADのゲストハウスに初潜入!そしてBRAASTAD 1919の真意とは・・・
2020/1/18 追記:売り切れました
BRAASTAD1919ですが、売り切れてしまい在庫なし(追加生産もなし)との連絡が入りました。残念。