コニャック滞在記2023年 冬

コニャック滞在記2023冬③地球環境と蒸留器とコニャック:伝統 vs エコロジー

2023年2月9日

滞在2日目その2
2023年1月12日(木)

その1の続きで、午後はABK6のパラディセラーでのテイスティングタイム、そしてその後グランド・シャンパーニュエリアの蒸留施設へ移動します。

パラディセラーでのテイスティングタイム

ABK6の現セラーマスターのDavid氏と共に長期熟成中のコニャック達が眠るパラディセラーへ。

前回訪問時にもこちらで100年もののコニャックを飲ませて頂いたりと思い出深い場所です。

大きく様子は変わっていませんが、2019年の時はヴィンテージ用の封蝋がされていた樽が今回は空いていました。プライベートボトル用に商品化したらしいです。

これは2019年の時
そして2023年

今回いくつかテイスティングさせて貰ったので印象深かったのは1940年のグランドシャンパーニュコニャックと、1990年のグランドシャンパーニュコニャック。樽から直接頂きます。

1940年の方はシングルカスクというわけではなく、いくつかの1940ヴィンテージをブレンドしたものです。公式的なヴィンテージではありませんが、グランドシャンパーニュらしい力強さと長熟故のオレンジ・ピーチ系の余韻が素晴らしい。セラー内の気温がとても低いので、持ち帰って少し温めて飲み直したいくらい。

1990年の方はまだまだ若いですが、今後のポテンシャルの高さがうかがえる1本でした。

そんなこんなでパラディセラーでのテイスティングを終えて、ファンボアエリアを後にします。

グランドシャンパーニュの蒸留施設へ

ファンボアエリアに位置するABK6の本社施設から車で約20分。

続いてはグランドシャンパーニュエリアの畑と蒸留施設へ向かいます。

こちらはグランドシャンパーニュの Segeville (Lauriere) in St Preuil という畑と、そこに隣接するABK6の蒸留施設。

このグランドシャンパーニュエリアの畑は2017年あたりに新たに買い取った畑です。広さは約125ヘクタールあります。日当たりの良い丘に位置する良い畑です。

前回の記事でも書きましたが、ABK6はファンボア、プティットシャンパーニュ、グランド・シャンパーニュに畑を所有しており、その3エリアそれぞれに醸造・蒸留施設をもっています。畑のすぐ近くに醸造・蒸留施設を設けることでブドウやワインの鮮度を最高に保ちつつ蒸留に移行できるようにするためです。

そしてこのグランドシャンパーニュエリアの蒸留施設は3つの中で最大で、25hlの蒸留器が4台あります。

蒸溜真っ最中

時期はまだ1月中旬なのでこちらも蒸留真っ最中。

ちょうどボンヌショーフを蒸留しているタイミングです。

こちらの蒸留責任者はJean-Philippeさん。蒸留責任者としての経験も豊富で、様々なことを教えて頂きました。

電気と水蒸気を使った新型コニャック蒸留器?

Jeanさんの話で最も興味深かったのは、電気と水蒸気を使った新型の水蒸気式蒸留器の話。

現在、スチームや熱湯を利用した間接加熱蒸留器や湯煎式蒸留器はグラッパや他のフルーツブランデーには多く使用されていますが、それに近いものをコニャックでも使うという動きです。(厳密にはちょっと手法は違う)

この水蒸気を使った蒸留器はABK6が保有しているというわけではなく、現在大手メーカーと共にBNICが新型のコニャック用蒸留器として実験しているものです。その様子を見に行った時の話をして下さいました。

現在、コニャックを作るためのシャラント式蒸留器はワインの入った窯を直接火にかかて温める「直火式」であることがAOCの条件となっています。

現状の直火シャラント式蒸留器

多くの蒸留器はワインが入っている蒸留釜( ①ショーディエール )をガスの直火によって温め、あつまった蒸気を冷却して蒸留液を取り出します。一台で数千リットル以上の巨大な釜に入ったワインを毎日毎日このガス火で蒸留するのですから、コニャック産業全体で見てもそのエネルギーは想像を絶するものです。

特に地球環境に厳しいヨーロッパでは二酸化炭素排出量を巡って、ガソリンやガスなどの燃焼性エネルギーから電気への切り替えがこれまでにないスピード感で進んでいます。実態が伴っているかは別としてヨーロッパでの電気自動車への切り替えが特に顕著ですね。

コニャック作りもまたその影響が無いとは言い切れません。具体的に問題とされているというよりも、やはりCO2を多く輩出するガスを使った蒸留方式からよりエコな蒸留方式を模索しなければいけない・・・というのは仕方のない時代の流れなのでしょう。

そこで次世代の蒸留器の候補として登場したのがこの水蒸気式の蒸留器です。

簡単に仕組みを私の下手な図で説明するとこんな感じです。(本当に超ざっくりです)

手書きですみません

蒸気の管でワイン窯を直接温めるのではなく、ワイン自体を管に通して温める方式。ワインを温める部分がガスから水蒸気に変わっただけで、それ以降の工程は基本的に変わりません。

ワインを温める水蒸気はまた冷やされて水にもどるので繰り返し使うことができます。水蒸気として使用する水の量は50リットル程度で済むそうです。

この蒸留器はまだ実験段階で、コニャックには2台しかないらしい。そのうち1台はマーテルが保有しているとか。

実際の装置はこんな感じ。まだ実験段階なので見た目は既存の蒸留器に取って着けたような装置です。

この電気・水蒸気式の蒸留器で蒸留したオードヴィーを約20人の蒸留責任者・セラーマスターにブラインドでテイスティングしてもらい、どちらが直火式でどちらが電気・水蒸気式かをクイズしたところ、正解率は50%だったそうです。

現在、この実験に携わっている方々の中では直火式と水蒸気式での品質に「差はない」というのが結論とのことでした。

・・・個人的には直火式と水蒸気式ではワインを温める温度や速度も違うので、だいぶ印象が変わりそうな気がするのですが・・・そうなのか・・うーん、そうなんですね。

この水蒸気式の蒸留器で作り、その後試験的に熟成させたコニャックもまだ存在しないため、実際に数年後、数十年後でどういった変化が起こるのか、まだまだこれから実験と測定を繰り返すといったところでしょう。

この最新式の電気・水蒸気式の蒸留器は今のところまだAOCとして認められていないので、今はまだ正式にコニャック作りに使用することはできません。

ただ、Jeanさんの見立てでは、今後15年くらいでコニャック用の蒸留器として徐々に導入される可能性が高い、とのことでした。

薪からガスへ、そして電気へのシフト。直火式の伝統的な蒸留器から、エコロジーの間で今後コニャックのアイデンティティに関して様々な議論が起こりそうです。これから15年、20年のうちにどのような変化が訪れるのか注視したいところです。

なお、「エコはいいけど電気代が全く想像つかんわ(笑)」とJeanさんは笑っていました。

ありがとうアルノー

一通りABK6内を回らせて頂き、今日のところはこれにて解散。

今日でABK6としてやりとりさせてもらったアルノーともお別れ。アルノーは2月でABK6を離れ、次の新天地へステップを踏みます。2019年から3年間本当にお世話になりました^^

多分プライベートではまだ色々と関わるけど、お互いにこれから頑張りましょう!

そして蒸留施設からアルノーの車で送ってもらうこと約30分。これから約1週間半お世話になる民泊アパートに到着。

その驚くべきコニャックの民泊とは・・・。

次回
コニャックの民泊事情

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