滞在7日目その1
2019年12月9日(月)
1日お世話になったCognac ExpertのSophie&Maxの家を後にし、12/9の朝車で迎えに来てくれたのはABK6コニャックのThomas氏達です。
5月のフランス大使館主催の試飲会イベントで出会ったキアヌ・リーヴス似のイケメンThomasです。ちなみに私と同じ1986年生まれ。
参考記事
→日本未輸入コニャック三昧!フランス大使館主催試飲会レポート
そしてもう一人はABK6のアジアマーケットを担当しているArnaud(アルノー)氏です。どっちもイケメンだった。
ABK6コニャックもCognac Parkと同様に昨年2019年12月から本格的に日本での展開が始まりました。輸入してくれた(株)スコッチモルト販売さん、ありがとうございます!!
なお、Arnaud(アルノー)氏は今度2020/2/17(月)に開催されるABK6コニャックの試飲会イベントに来日予定です。ちなみに私もヘルパーとして参加予定。登壇はしませんがアルノー氏の横らへんに立っている予定(笑)
ABK6コニャックの全体像を理解する
その前に、ABK6は「アベカシス」と読むので覚えておきましょう。初めて紹介する人にはだいたい「え?AKBのお酒?」と間違えられます。違います。
ABK6コニャックはDOMAINES FRANCIS ABECASSIS(ドメーヌ・フランシス・アベカシス) という会社のコニャックブランドの1つです。
→ DOMAINES FRANCIS ABECASSISオフィシャル
DOMAINES FRANCIS ABECASSIS(ドメーヌ・フランシス・アベカシス) は現在コニャック3つ、その他スピリッツ1のブランドを展開しています。
- LAYRAT(レイラ)
- REVISEUR(レヴィゾール)
- ABK6(アベカシス)
- GRANDS DOMAINES (グランドメーヌ)
コニャックに関して言えばこの「ABK6」、「LAYRAT」そして「REVISEUR」という3つが全て自社内で生産を行っているコニャック。そしてジンなどのスピリッツを取り扱う「GRANDS DOMAINES」です。GRANDS DOMAINESは一応コニャックもありますが、今はあまり精力的には展開していない様子です。
なぜコニャックのブランドを3つに分けているのかは後述。
LAYRATは一度日本に輸入されたことがありましたが、現在はほとんど日本には流通していません(2019年12月時点)。 REVISEURは一部古いボトルが並行輸入品として国内にも流通しています。このうちABK6が同社のブランドの中で最も新しいブランドで、現在正規品として流通しているのはABK6のみです。
会社および当主の名前であるABECASSIS(アベカシス)と同じ呼び方をするのでややこしいですが、 自分達のファミリーネームをそのままブランドに起用する自信と、ABK6という略字を活用することで欧米はじめ世界でも親しみやすいようにブランド名を構築した経緯があります。
それぞれのコニャックブランドのテイストの特徴をざっくりと分けると
LAYRAT
→フルーティーさを重視したコニャックブランド
REVISEUR
→重厚感を重視したコニャックブランド
ABK6
→上記2つの中間をとったバランス型コニャック
という分け方になります。それぞれ全てDOMAINES FRANCIS ABECASSISが持つ畑から作られたコニャックが原酒となっていますが、最終プロセスにおける最後の熟成工程やブレンド比率によって各ブランド毎の特徴がでるコニャックに仕上げています。
他のブランドまでこの記事に含むとかなりボリュームが多くなるので、ここでは基本的に全てABK6で統一します。
なお彼らのメインオフィスの場所はこちら
プロプリエテール?シングルエステートコニャック?
ABK6含むDOMAINES FRANCIS ABECASSISは比較的大きなコニャック生産者で、2019年12月現在は合計370ヘクタールの自社畑、20か所以上の熟成庫、3500以上の樽を保有しています。畑の規模は今後増える可能性があります。
その最大の特徴は、彼らのコニャックは全てブドウの栽培・収穫・発酵から熟成・ブレンド・ボトリングに至るまで全て自社で行っていること。何十年もその仕事を続けている経験豊富な職人達の手によって進められています。
原料となる葡萄の栽培から収穫、発酵、蒸留、熟成、ボトリングまで全ての生産体制を一貫して自社内で行うというのは、所謂我々が認識しているところの「プロプリエテール」に当たるのですが、彼らの言葉としては「Single Estate Cognac(シングルエステートコニャック)」という呼び方をしています。(その言葉を浸透させたいらしい)
ポールジローやジャンフィユーといった日本でも有名な小規模プロプリエテールとは異なり、従業員も約50名、畑や蒸留所の規模もかなり大きいプロプリエテールです。イメージとしては同じく規模の大きいプロプリエテールコニャックとして知られるフラパンなどの中堅コニャック生産者というイメージが近いかもしれません。
また、他のプロプリエテールコニャックとの違いとしては、どこにも自分達の樽や蒸留したもを他社に提供していないところでしょうか。小規模なプロプリエテールコニャックの場合、自社用のコニャックと大手メーカーに提供するコニャックとの2本立てで生計を立てている所も多いのですが、ABK6の場合は他社に提供することなく自社ブランドのみ展開をしています。もちろんプロプリエテールなので他社から原酒を提供してもらうこともありません。
Thomasは「結構な生産量を確保できるので大手メーカーに原酒を提供したいところだけど、自社ブランドを守るためにそれは行っていない。」と言っていました。
完全独立系コニャックです。そして独立系コニャック生産者としては最大級の規模を誇ります。
隣接する畑と蒸留所と熟成庫
ABK6コニャックのもう一つの特徴は、それぞれの畑の地区ごとに蒸留所と熟成庫が隣接していることです。
ABK6の自社畑は大きく、ファンボア、プティットシャンパーニュ、グランドシャンパーニュの3つのエリアに分かれています。
細かく各畑を分けると下記の通りで、合計370ヘクタールです。(2019年12月時点)
ファンボア:117ヘクタール (3ヵ所)
- Domaine Chez Maillard: 72ヘクタール
- Domaine Le Maine Blanc:20ヘクタール (1,5 km from Chez Maillard)
- Chez Touchard - 25 hectares
※メインで使用しているファンボア畑は上から2つのChez MaillardとLe Maine Blanc。ABK6のメインオフィスはChez Maillardにある。
プティットシャンパーニュ:96ヘクタール(2ヵ所)
- Maine Drilhon in Barret: 60ヘクタール (the original estate from Réviseur so we consider it as a one main estate)
- La Pairauderie in Jonzac:36ヘクタール
グランドシャンパーニュ:157ヘクタール(2ヵ所)
- Dizedon in Chateaubernard:32ヘクタール
- Segeville (Lauriere) in St Preuil:125ヘクタール
Segevilleは最近増えた畑ですが、詳細はまだ秘密らしい。(え
そしてそれぞれのエリアの畑のすぐ横に蒸留所と熟成庫を別々に保有しています。
例えばABK6のメインであるファンボアの畑の蒸留所と熟成庫はこちら↓
そしてプティットシャンパーニュの畑のすぐ横にある蒸留所と熟成庫はこちら↓
です。つまりファンボアに1か所ずつ、プティットシャンパーニュに1か所、グランドシャンパーニュに1か所の合計3か所に蒸留所を保有しています。(熟成庫も)
それぞれは後ほど詳しく紹介しますが、このように畑のすぐ横でブドウの収穫→発酵まで行うことで移動距離も少なく、 ブドウの品質を損ねることなく一連のプロセスを完了することができます。
また各畑のすぐ横で蒸留→熟成といった一連の過程を完結することにより、ファンボアならファンボア、プティットシャンパーニュならプティットシャンパーニュのブドウの特徴をより活かし、そのテロワールの風土にあった蒸留・熟成工程が実現できるとのことです。
規模の大きなプロプリエテールコニャックだからこそのこだわりポイントです。
ファンボアだけどファンボアじゃない畑
ここでABK6のファンボア地区の畑に関して最も重要な事を述べておかなければなりません。
ABK6やLEYRATでは主としてファンボア地区で育ったブドウが使用されています。
そしてそのメイン(特にLAYRATの方)となるファンボア地区の畑は72ヘクタールのDomaine Chez Maillardですが、ここは他のファンボア地区とは大きく異なる土壌の質をもっています。
一般的にファンボア地区の土壌というのは、赤みがかった粘土質の土壌または、粒状の荒い土壌がメインとなっており、比較的熟成期間の短いコニャックで仕上げることが多いのです。しかしながら、このDomaine Chez Maillardはファンボアでありながら土壌の質としてはグランドシャンパーニュおよびプティットシャンパーニュとほぼ同等の石灰質の多い土壌で構成されています。
参考記事
→【中級編】コニャック地方のブドウ生産域による細かな区分け
そのためファンボアとしては珍しいくらい土の色が白く、ミネラルが豊富な土壌であることが他のファンボア地区にはない最大の特徴的です。
従って他のファンボアコニャックでは難しい長熟に耐えられるコニャックを作り出すことが可能となっています。
なぜ実際の土壌は大きくことなるのにファンボア地区に区分けされたのかは定かではありませんが、かなり政治的な力が背景にはあるようです。
実際にABK6では2019年に土壌環境の調査を依頼しており、その結果改めてグランドシャンパーニュとプティットシャンパーニュに近い土壌であるという証明が取れたそうです。
「コニャック6つの産地(クリュ)は明確に定義できないし地図通りではない?」でも書いたように、同じファンボア地区でも村単位や地区単位で土壌の質が大きく異なる場合があるため、ひとくくりで「ファンボアのコニャックだから・・・」と判断してしまうのは早計だということが改めて分かりました。
これまたコニャックの面白いところの一つですね。
参考記事
→コニャック6つの産地(クリュ)は明確に定義できないし地図通りではない?
ABK6のオフィスに潜入!
前置きが長くなってしまいましたが、いよいよABK6のオフィスに潜入です。
先述しましたが、ABK6のメインオフィスはファンボア地区の Domaine Chez Maillard 内にあり、ここにはABK6の最も古い原酒が眠るパラディセラーを含む熟成庫がいくつか存在しています。
オフィス内はこんな感じで、凄く奇麗。
ここでは主に海外とのやり取りや日々のミーティングが行われています。
この部屋の隣にはセラーマスター(2019年現在はイザベルさん)のブレンディングルームや応接室もあります。
その反対側にはボトリングラインもあり、全ての商品の出荷もここから行われます。
ABK6の発酵タンク室へ
このファンボア地区にある発酵タンクは2004年頃に建てられたもので比較的最新の設備が揃っています。
ここではファンボア地区の畑( Domaine Chez Maillard、Domaine Le Maine Blanc、Chez Touchard )で取れたブドウのみを発酵しワインにしています。取れたブドウは搾汁されたあと地下のパイプを通って全てここに運ばれ、ここで発酵され、コニャックの元になるワインとなります。
この発酵エリアはセラーマスターの部屋から直結しており、セラーマスターがすぐに様子をチェックできる導線となっています。
ここには26機の発酵タンクが存在し、ひとつひとつのタンクは約41,400リットルの容量となっています。合計で約110万リットル程のワインが生産可能となっています。これはABK6含むABECASSISのファンボア地区のワイン生産量としては十分なボリュームとなります。
このタンクは比較的大容量のため、元よりブドウに含まれているイースト菌のみでの発酵とはいかず、コニャックAOCの規則に則ったイースト菌を少し加えた上で発酵が開始されます。ジャンリュックパスケのような完全オーガニックコニャックを作っているコニャック生産者(コニャック向けワイン生産者)以外はどこも似たようなものですが、コニャックのAOCで許可されているイースト菌は8種類程で、ほとんどがZymasilやFC9と呼ばれるできるだけ自然界のイースト菌に近いものを使用します。イメージとしてはFC9の方が一般的で、Zymasilはより気候が寒い時に使うといった印象です。
ブドウジュースからワインの発酵が完了するまでは平均約1週間。(早い時で5日、最長でも9日程でワイン工程が完了)
最新式の発酵タンク+室内ということでタンク内の温度はコンピューターにより調整が可能です。
各タンク内のワインのアルコール度数はコニャック用のワインとしては平均的なアルコール度数は10.6度前後。
コニャック用のワインのアルコール度数はもちろん低すぎても高すぎてもダメで、9度~11.5度の間が理想とされていますがABK6の場合は必ず11度は下回るように調整します。
各タンクには中に入っているワイン(ジュース)には将来的にできあがるコニャックの元を追跡するトレーサビリティのための詳細が書かれたシートが貼られており、この原料となっているブドウが収穫された場所、収穫された日、畑の詳細な場所、収容量、アルコール度数などが記されています。
例えば上の写真の場合このような内容です。
- SITE:ブドウが取れた畑エリア(村)の名前
- NUMRO DE CUVE:タンクの番号
- DATE:ブドウの収穫日
- PARCELLE ou ILOT:畑の中の細かい場所(パーセル)
- VOLUME:タンク内に入っているワインの容量
- PRODUCT:今タンクの中に入っているもの
- DENOMINATION DE VENTE:最終的に出来上がるもの
- CEPAGE:ブドウ品種
- CRU:コニャックAOC上のエリア
- TAV:ワインのアルコール度数
- 右のメモ欄:使用されているイースト菌
発酵タンクの温度調整
この写真はややボケてしまって分かりくいですが、各タンクの温度調整装置(冷却装置)になります。
ワインの発酵は熱を伴いますので、発酵が進むにつれてタンクの温度がどんどん上がっていきます。コニャック用のワインを作る際は発酵の段階ごとにタンク内の温度を適切な温度に調整することでより良い品質のワインを作り出すことが可能です。発酵時の温度は発酵を開始してからの日数や酸度、糖度によっても、一般的には20度以下であることが望ましいです。ABK6の場合は18度以下を基準に発酵時の温度を保てるようにしてるそうです。
発酵によって温度が上がりすぎた場合はこの調整装置を使い、指定した温度になるようにタンクの周りに冷水が注入されタンク内の温度を下げていく仕組みです。
最新式のステンレスタンクにはこのような冷却装置がついていますが、旧式のコンクリート式の発酵タンクの場合は冷却装置がついておらず、自然の温度に任せるところもあります。
ABK6の場合、はこのファンボア地区の発酵タンクの温度調整は主にセラーマスターのイザベルさんと、もう一人のブドウ・ワインの生産責任者が直接行っています。神業です。
ワイン発酵を行う期間中はセラーマスタールームとの直通通路を行ったり来たりしているそうです。
ちなみにコチラは発酵が終わったタンクの内部。こんな感じ。
こちらはタンク内にこびりついて残ったワインの粕。これは専門のリサイクル業者に回収してもらい、畑や農作物の肥料になったりします。
オリと共に蒸留所へ
発酵が終わったワインはこのパイプを通って隣の蒸留所へと直接運ばれます。
写真では分かりにくいですが、上の写真左側についているエンジンのようなものは、タンク内をシェイクし中のオリをかき混ぜる役割を持っています。「ゴゴゴゴゴ」と爆音と共に振動しています。
ABK6コニャックでは基本的に全てワインのオリを使うため、中のワインとオリが上手く混ざり合った状態で蒸留ステップへ進むのです。
ワインの酸化を防ぐためパイプを通ったワインは蒸留所内の密閉さた地下のタンクに溜まり、蒸留を待ちます。
次のステップではABK6ベテラン蒸留家のダニエル氏の手による蒸留でコニャックの元であるオードヴィーとなります。
ということでまた7000文字超えの長い記事になってしまったので、今回はここまで。
次回はABK6ベテラン蒸留責任者のダニエル氏にABK6の蒸留を教えてもらい、その後ABK6最古の原酒が眠るパラディセラーで100年もののコニャックを樽から直飲みし、セラーマスターのイザベルさんと2時間ほどじっくりお話した後、Brandy Daddyのオリジナルブレンドコニャックを作るという更に濃厚な話になります。
お楽しみに!!
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→ABK6の全てを語ろう(2) 100年ものコニャック直飲み!ABK6の蒸留と熟成庫
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